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始まり2


 もう、何度も経験した。

 私の角を、翼を見て私と距離を取ったり、気持ち悪いと吐き捨てられるのを。

 通常、龍神族の角の役割は霊力の放出口になっている。

 なので龍神族は戦闘に長けた種族だと言われている。

 霊力とは、魂能や権能を発動するのに必要なエネルギーのことだ。

 その為、本来角は正面に向かって生えるのだが、私の角は後ろに向かって生えている。

 それに加えて、私には一対の天使・・の翼がある。


「上着はしまっておけ。もう行っていいぞ」

「わかりました」


 再び歩き出すと先程までとは違い、沢山の視線を感じた。

 好奇の目で見られたくないけど、かと言ってみんなに好かれたい訳じゃない。

 興味のない人からの好意ほど気持ち悪いものはないし。

 校舎に入ると、沢山の生徒が廊下を行き来していた。

 みんな自分の教室探してるのかな?

 私のクラスは...あった!

 1-1、これから私が一年間過ごすことになるクラス。


 教室のドアの前に立ち、深呼吸する。

 ..よし、行こう!

 ドアを開けて私が最初に見たのは..見知らぬ人のつむじであった。

 ん?つむじ?

 その人の頭は私がドアを開けたので勢いを失う事無く私の顔面へクリティカルヒットした。

 私はその場に倒れ、その少女は私の上に落下した。


「痛った〜、大丈夫?」


 うっ、生姜焼きが出てくるっ..

 あんなの食べるんじゃなかった...


「うっ...うん。だ、大丈夫」


 幸い私の体はそこそこ頑丈なので大した痛みは無い。

 龍神族で良かった!

 吐きそうだけどね!


「あなたもここのクラス?」

「は、はい」

「そうなんだ!私【雨笠あまがさ しずく】っていいます。よろしくね!」


 よく考えたら私龍神族以外とほとんど話した事無い!

 な、なんて言ったらいいんだろう...

 

「あ、【雪羅せつら そら】です。よろしく...」


 とりあえず自己紹介してみた。


「雪羅さん、今は入らない方が良いかも」

「どうして?」

「中で隣のクラスの悪童が...って、見た方が早いかも」


 ドアの無くなった入り口から中を覗くと、3人の男子が1人の妖狐族が囲われていた。

 もう既に自分の席に座っていた人達は、その様子から目を逸らしていた。


「あいつらの親、管理局の中枢部勤めなの。そこそこ権力があるから、刃向かっちゃうと親がどんな迷惑を被るかわからなくてみんなやめろって言えないんだ」


 そうなんだ、ああいうの何されるかわからないしできるだけ関わらないようにしよ。

 あいつらがいなくなるまでここにいようかな。


 「まぁ私はさっき勇気出して止めに入ったんだけど、魂能使って吹っ飛ばされちゃったんだ.....」


 ……自分が歯向かうことでどんな目にあうかわかってて止めに入ったんだ。

 きっとこの人は良い人なんだろうな...

 悪童たちの声が廊下にいる私達にも聞こえるくらい大きくなった。


 「お前気持ち悪いんだよ!」


 そう言って悪童達のリーダーらしき男子は妖狐族の子を突き飛ばした。

 後ろに転倒したその子は小さい声で何かぶつぶつと呟いている。


 「お前みたいな異形が俺の周りにいるのが気色悪い!さっさと消えろよ!」


 私は背負っていたカバンを下ろし、教室へと入った。


 「ちょ、ちょっと!?雪羅さん!」 


 考えるよりも先に体が動いた。

 関わらないようにしようってさっき決めたけど、あんな事言われたら黙っていられない。

 私は囲っている悪童達を無視し、妖狐族の子に近寄った。


 「大丈夫?」


 私が話しかけると前髪越しに一瞬だけ視線を向け、再び下を向いた。

 完全に怯えている。

 その怯えはこの悪童達に対してなのか、それとも..まぁどっちでもいいか。

 100%この子を助けたいが為にここに割り込んだ訳でも無いし。

 別に私は後先考えずに人助けできる程優しく無いし、馬鹿でも無い。

 ただあの言葉は、私にも当てはまるから。

 ムカついたから。

 それだけ。


 「おい、お前誰だよ。そいつの知り合いか?」


 無視した。

 「なんでこんな事するの?」なんて聞いてもどうせ大した答えは返ってこないだろうし。


 「ああ、もしかしてあれか?異形同士の同族意識ってやつか?」


 私は悪童の方へ振り返り、顔面にあいさつをぶちかましてやった。

 あんな事言ってた人にも面と向かって挨拶してあげるなんて、優しいね、私。

 悪童のリーダーらしき男子は、ドアの無くなった出入り口から廊下へ吹っ飛んだ。


 「「火山ひのやまさん!」」


 取り巻き2人がリーダーへ駆け寄った。

 肝心のリーダーは挨拶を交わした程度で伸びてしまったらしい。

 力加減間違えたかも...

 取り巻き2人はリーダーを抱えて撤収する事にしたらしい。

 「お、覚えてろよ!」というベタな捨て台詞を吐いて1-1を後にした。


 「あ、あの。ありがとう」


 妖狐族の子はそう言ってどこかへ行ってしまった。

 あの子、大丈夫かな...

 

 「すごいよ雪羅さん!あいつら追い払っちゃうなんて!」


 雨笠さんの言葉に続いてこの教室にいたクラスメイト達からも感謝された。


 「雪羅さんって力強いんだね!人があんなに吹っ飛ぶ所初めて見た」

 「まぁ龍神族だしね」


 龍神族は筋肉密度と骨の密度が一般的な霊人と比べると、平均して5倍になっているらしい。

 しかも私の筋肉密度はその平均よりも上。

 だからより一層力の加減には気を付けないと。


 クラスメイトに「ねぇ、お名前聞いてもいい?」と言われたので、自己紹介をしようとした時、1人の妖狐族の女性が教室に入ってきた。


 「お前ら席につけ。朝礼を始める」


 その女性は少し威圧感のある声でそう言って、教卓へと足を運んだ。

 発言からして、この学園の教員なのだろう。

 全員席に座り終わると話し始めた。


 「えー、今日からこのクラスを持つことになった、檜山ひやまだ、よろしく」


 先生は後ろの黒板に今日の予定を書いた。


 「この後すぐ入学式を行う。整列して私について来い。時間がないから急げよ」


 私たちは先生に急かされるまま整列し、先生の背を追った。

 



 しばらくすると、体育館に着いた。

 その時すでに私達1-1以外のすべてのクラスがそろっていた。

 私達の隣の列には顔面が真っ赤に腫れた悪童のリーダーもいた。

 もう動けるようになったんだ。もうちょっと力強くしておくべきだった。


 『これより第1,024回入学式を始めます』


 体育館にありきたりな文言が響き、入学式が始まった。


 『始めに教頭先生の挨拶です』


 最初に校長の挨拶だと思ってたけど、出てきたのは教頭だった。


 「皆さん初めまして、教頭の加賀谷かがやです。本日校長が急務により欠席のため、私が代読させていただきます」


 急務って...校長の仕事にそんな急を要するものなんてあるんだ...


 「春爛漫の好季節、お健やかにお過ごしのこととお察しいたします。さて_____」


 代読とはいえ、校長の話というのは聞いていた通りの退屈なものだった。

 「皆さんこんにちは、これから頑張ってね!」っていう内容を長ったらしく固い言葉で綴った挨拶を誰が好き好んで聞けるのか。

 朝方という事もあって流石に少し眠くなったけど、それ以上に緊張でドキドキしていた。

 一方雨笠さんは、睡魔と死闘を繰り広げていた。

 こいつ、マジか。

 肝が据わっているというかなんというか。

 

 校長の挨拶の後も入学式は続き、各クラスの担任からの挨拶や今後の予定などか話された。

 

 『新入生、退場』


 退場の音楽が流れ始めた。

 私たち1-1は入口から1番近い所だったので最初に移動する。

 もう退場だというのにまだ寝ている雨笠さんをどうしたものか。

 なんだかムカついたのでデコピンしてやろうかと思ったが、出会って初日の人にそんな事をしてはいけないと私の善性が言ったので、肩を軽くたたくだけにしてやった。


 「雨笠さん、起きて。もう退場だよ」


 雨笠さんはハッと顔を上げた。

 

 「ね、寝てない、寝てない。寝てないよ」

 

 言い訳を始めた。

 どう見ても寝てたと思うけど⁉︎

 退場が始まったので少し錆びたパイプ椅子から立ち上がり、床に敷かれたシートの道を辿った。


 「あのー、あれ、まぶたの裏見てたの」


 言い訳を始めた。

 ごめんデコピンして良かった、と私の善性は言った。

 お前本当に善性か?


 「...まぁその言い訳は私じゃなくてあの人に言ったら?」

 

 私は雨笠さんにさりげなく、眉間にシワを寄せて彼女を睨んでいる檜山先生がいる事を目配せして伝えた。


 「ふぅ、雪羅さん、今までありがとう。さようなら」

 「まだ出会って1時間くらいしか経ってないよ」


 私たち1-1の列は引率の先生に従い体育館を出た後、自教室のある方向とは別の方へ向かった。


 「ねぇ、雪羅さん。今どこに向かってるの?」

 「校長の挨拶の後、退場した流れで能力測定もやりますよって言ってたよ。というか、雨笠さん肝座ってるね、入学式で寝るなんて」

 「あの無敗の睡魔相手にだいぶ奮闘したと思うんだけどね」

 「勝った事は無いんだ...」


 雨笠さんと話している内に、実技演習館なる場所に着いた。

 最初に男女それぞれ更衣室へ案内され、各々用意されていた体操服に着替えた。

 そして再び集められ、第一演習室と書かれた部屋に案内された。

 そこには何かを測定する機材やトレーニング用の道具のようなものが用意してあった。

 なんとなく部屋の角を見ると、電源が入っていないのか、俯いた監視カメラがあった。

 これを介して偉い人とかが私たちの測定の様子を見たりするのかな?

 はぁ、こういうの考えると余計に緊張しちゃうなぁ。


 能力測定の結果が今後にどんな影響があるかわかんないし、下手な失敗はできない。

 身体能力については心配してないけど、魂能関係は少し心配、あまり霊力の扱いは得意じゃないから。

 

 まだクラスメイト以外誰もいなかったので、鼓動を早くしている心臓を落ち着かせていると、後ろの扉から担任の檜山先生が入ってきた。


 「よし、揃っているな。これより能力測定を開始する」



ーーーー



 魂管理局附属学園内監視室にて__

 各演習室が映し出されたモニターが設置されている部屋で、モニターの隣には長髪のの男が、複数用意された椅子には赤髪の男が1人座っていた。

 その静寂を破るように、一組の男女が扉を開けて入ってきた。


 「あれ?カグツチさん?なんでここに居てはるん?」


 紫髪の女性の質問に赤髪の男は答えた。


 「最近特命課もお前らと同じく人手不足なんだよ」

 「どこも同じ問題に直面しているようですね」


 紫髪の女性に続いて入ってきたメガネをかけた細身の男がそう呟いた。

 設置されているモニターには演習室に1-1が入る様子が映し出されていた。


 「そういえば技術部の奴らはまだなのか?」

 「ああ、アイツらは能力が低かろうが育てりゃいいって感じやからな。いつも学園生全員に配属自薦送ってるし。というか来てないのは中枢管理部もやろ?」

 「いや、もう来てるよ」


 赤髪の男がそう言った直後、扉が開き1人の天使・・が書類を抱えて入ってきた。


 「なぁ、さっきから画面に写ってるあの翼を持った龍神族。もしかしなくてもお前の娘か?中枢管理部の雪羅 冷華れいか


 

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