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始まり1

 

 「はぁ、全く眠れなかった...」


 ベッドから体を起こして深呼吸する。少し空気が淀んでいた気がしたので窓を開けた。日光を浴びながら体を伸ばして私の1日が始まる。

 自分の部屋を出てキッチンへ向かうと、思わずお腹が鳴るようないい香りが漂ってきた。

 そこでは一人の女性が、鼻歌を歌いながら料理をしていた。


 「おはようございます、タマさん」


 「あら、おはよう。ちょっと待っててね。今朝食を用意するから」


 この人は珠恵たまえさん。通称タマさん。私の父方の母にあたる人だ。

 私は欠伸をしながら朝食が運ばれてくるであろう席へ座った。


 「そらちゃん、そこに座る前にその爆発してる髪をどうにかしたら?」


 手を頭から少し離した所にかざして、髪のはね具合を確認する。

 寝ぼけてて気づかなかった。

 私の髪はどうやら最近反抗期らしい。毎朝爆発という表現が適している程に寝癖がひどい。

 悲しい。


 彼女の言う通り、洗面所へ行き鏡を見る前に櫛を手に取った。

 私の相棒くしが瞬く間に寝癖てきを蹂躙していく。なんと心地の良い事だろう。

 寝癖がひどいのは嫌だけど、この髪を段々とほぐしていく感覚は嫌いじゃない。

 まだ寝ぼけているからなのか少し手元が狂って私の"角"に当たった。

 ーゴリッーという音をたてて、私の相棒は力尽きた。


 「はぁ、最悪」


 本当に、朝から最悪の気分。

 多大なる犠牲のもと、無事寝癖てきの殲滅が完了したので、再度キッチンへと足を運んだ。


 「タマさん、櫛壊しちゃいました」

 「また?」


 昔から力の調節が苦手で、他にも目覚まし時計とかも壊してるんだよね、私。

 そのせいで出費が嵩むから、壊す度に私の肩身が狭くなっていく。


 「スミマセン」

 「もう...気をつけてね」

 「イゴキヲツケマス」


 もう壊しすぎて私の肩身は多分猫でも通れないレベルで狭い。

 私も故意でやってる訳じゃないんだけどね。

 そう、物が壊れやすいのが悪いのだ。

 そこにはすでに朝食が用意されていた。そのメニューは霊豚の生姜焼きというどう考えても朝食に適していない物だった。


 「タマさん。作ってもらったのにこんな事を言うのもなんですけど、これ朝食にしては重すぎませんか?」


 「確かにそうね。でも仕方がなかったの、どうしても食べたかったから!」

 「太りますよ」

 「大丈夫!食べた分だけ出るタイプだから!」

 「朝食の時にそういう事言わないで下さい!」


 この人の中では、美容=健康<<<<<<<美味しい物

 みたいな感じなんだろうね、多分。

 いや、別に美味しいんだけどね。

 何というかかなりの確率で胃にかなりの負担を強いるものが出てくる。


 「はぁ、登校中に吐いたらタマさんのせいにしますからね」

 「大丈夫よぉ。天ちゃんはまだまだ若いし、私も肉体はまだまだ若いんだから。長命種の特権を堪能しないとね!」


 まぁ確かに、私達龍神族の平均寿命は1000年と言われている。一般的な霊人たまびとが200年くらいなので、かなりの長寿だ。


 「こんな事してたらいつか体壊しますよ、タマさん。私たちだって寿命は長くても老いていっているんですから」

 「もう、わかってるわよ!そんなに食べるのが嫌なの?」

 「いや、そういう訳じゃ...」

 「なら問題無いわね」


 タマさんは、口に次々と生姜焼きを運びながら言葉を続けた。


 「霊神達が羨ましいわ。あの人たち老化が止まってるから好きな物食べ放題だもの」


 霊神、って何だっけ?

 確か..この黎界に暮らす者が特殊な条件を満たす事で進化した存在、って家にあった本に書かれてたような..

 まぁそれ以上の事はよく知らないんだけど。


 「まぁ確かに少し羨ましいですけど、寿命で死なないのも中々の苦痛だと思いますけどね」

 「それもそうね。天ちゃん、私は用事があるからここで席を外すけど、さっさと食べて学園に行ってらっしゃい!」


 するとタマさんは「あ!」と何か思い出したような声を上げ、椅子に掛けてあったカバンから茶封筒を取り出した。


 「これ、何ですか?」

 「この間受けた魂能こんのう検査の結果よ。学園に提出しないといけない書類だから、忘れずに持って行ってね!」

 「わかりました。これ中身見てもいいですか?」

 「いいわよ。後で私達にも結果教えてね!」


 タマさんは鼻歌を歌いながらこの部屋を出て行った。封筒の中身を見る前にお茶を一口飲んだ。

 ぬるい..

 私はお茶の入った湯飲みを凍らせて冷やし、それを飲んだ。

 やっぱり私、あったかいのより冷たい方が好きだな。

 私が今自分の意思でコントロール出来てるのは今使った氷の魂能。

 魂能とは、【魂に付属する能力】の略称らしい。

 その特殊能力は黎界に暮らす人々の約30%程が持っていると言う。

 まぁどうせ私は氷の魂能だけだし、今更見る必要も無いと思うけど、こういうのって何故だか気になるよね。


 私は封筒に傷をつけないように封を開け、中に入っていた紙を取り出した。

 その紙には簡潔に検査結果だけが書かれていた。

 【氷の魂能 特性:無形】

 特性はその能力に現れる特徴の事。

 例えば、同じ火の魂能でも矢の形でしか行使できなかったり、逆に何も形取れなかったりと、霊人の数だけ特性にも種類がある。

 ここまでは予想通り。でも何故かもう一つ能力欄があった。

 どういう事?私には氷の魂能しか無いはずなんだけど。

 【鏡の権能 特性:複合】


 権能、魂能を発現させる者の中でごく稀に現れる希少能力、だっけ?

 ただ、それ以上は知らない。

 これ以上の事を知ろうとするとそれなりの知識を持った専門家に聞く必要がある。

 感覚的に使える氷の魂能は良いとしても、今の私に鏡の権能が扱えるという感覚が無い。

 魂能を2つ持っている霊人は1つ目の魂能は使えても、2つ目はまだ体が適応しきれていない場合は使えない事があるみたい。

 多分私もそうなんだと思う。


 ふと時計に目をやると、針がちょうど八時を示していた。

 私は今日から魂管理局付属学園という所に通う事になっている。

 そもそも黎界では魂が輪廻の輪に取り込まれる時にエネルギーが発生する。

 そのエネルギーを使って私たちは生活している。輪廻の輪やエネルギーの管理、治安維持などを行っているのが魂管理局だ。

 そこに勤める人を育成するための教育機関が学園、と聞いている。

 私は制服に着替えて、屋敷の正面玄関で靴を履いた。

 

 家を出る前にフード付きの上着を一枚着て、"しっかりと隠れているか確認してから"フードをかぶり、ガバンを背負って屋敷を出た。

 空を見上げると、”輪廻の輪”から普段よりも幅が大きくなった白い川が見えた。

 普段よりちょっと大きい?

 現世でいっぱい生き物が死んだのかな..

 龍神族の屋敷は街から徒歩で5分くらいの所にある。

 学園は街の中心から少し離れた所にあるので、屋敷から徒歩で大体10分くらいかかる。

 屋敷から少しの間は自然豊かな道だけど、街が近づいてくるとさっきまでの木々が嘘のようにビルが立ち並ぶ都会になる。

 

 その中に一際目立つ大きな建物がある。それが魂管理局だ。

 管理局にはこの黎界の霊人の1割程が勤めているので、そこへ続くこの道は毎朝非常に混雑する。

 こういう所あんまり得意じゃないんだよね。人混みで酔っちゃいそう...

 どうにか人混みを抜け出し、管理局を通り過ぎると、列車の高架越しにレンガで出来た建物が見えてくる。

 それがそれが私がこれから通う事になる、魂管理局付属学園だ。


 人混みで気付かなかったけど、私と同じ制服を着た人が多くなってきたなぁ。

 この人たちは同級生なのかな?

 列車の高架をくぐり、信号を渡ると学園の正門に着いた。

 軽く深呼吸してから中へ入った。

 友達とか出来るかな...第一印象が大事って言うし、頑張って私から話しかけよう!

 いや、でも緊張して変な事言っちゃったりしたらどうしよう。

 多分授業とかで隣の席の人と話す機会はあるだろうし、その人から友達になった方がいいのかな...

 今までこういう学校とかに通った事がないからどうしたらいいのかわからない!


 「おい、そこの上着着てる奴!」


 私が友達を作る為に脳をフル回転して作戦を立てていると、教員らしき男に止められた。

 

 「そういう上着は校則で禁止されてるんだ」

 

 えっ、そうなの?

 どうしよう、初日から校則違反しちゃった...

 

 「すまないが脱いでくれないか?新入生だろうし、没収とかはしないから安心してくれ」

 「どうしても脱がないとダメですか?」

 「ああ、決まりだからな」


 先生に言われて上着を脱ぐと、驚いたのか先生が大きく目を見開いた。

 そして周りの人達の好奇の目が、私の腰のあたりから生えた"一対の翼"と、"逆向きに生えた角"に向けられた。


 ああ、ほんと何度経験しても、気持ち悪い______


 

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