雫:私めっちゃ頑張った
最近全然書けていなくて申し訳ないです。
忙しい中でも捻りだした1話だけ更新します。
もう少ししたら落ち着くと思うので、ストック作成を再開する予定です。
試験開始の合図と共に、会場の至る所から戦闘によるものと思われる振動音や爆発音が響いてきた。
「さっき言った通り、とりあえずここを離れましょう」
私が先頭に立ち、魂能で周囲を索敵しながら渋崎君が指示を出す。
これが話し合いで決まった陣形だ。
初期位置の開けた広場から背後の住宅地へ向かった。
しばらく走り続けていると、私が飛ばしている鳥の視界に1チーム映った。
「みんな、止まって!」
私はチームメンバーにそう声をかけ、現在の状況と魂能で見えた物を共有した。
それを聞いてすぐさま渋崎君が今後の方針を立てた。
「この地形を見ての推測ですが、終盤にはおそらく、残ったチームが評価稼ぎの為に一つの戦闘音に集まって乱戦になります。遮蔽物が多く、雨笠さんのような索敵要員が居なければ戦闘はおろか敵を見つけることすら難しいからです。そうなれば、私達の立てた作戦は通用しなくなる。紫藤さんの魂能ならそれを殲滅するのは容易でしょうが、それは評価に繋がらない。なので、これからの私達の方針としては序盤に戦闘回数を重ね評価を稼ぎ、終盤は安全なところでやり過ごしましょう」
…理由とかは一瞬で理解する事は出来なかったけど、最初はちょっかいかけまくって、終盤ヒッキーするという事だけはわかった。
「戦闘の準備をしてください。今から雨笠さんが発見したチームに対して奇襲を仕掛けます」
渋崎君の指示に従って各自武器を手に持ち、戦闘態勢のまま、前方のチームとの距離を私の指示のもと詰めていく。
数分後、相手との距離が十分縮まった所で、物陰から顔を覗かせて相手を目視した。
人数は5人。
道の真ん中を堂々と歩いているので、まだ気づいていないようだ。
仕掛けるなら、今がチャンス。
私はチームメンバーに合図を出し、魂能を索敵用の鳥から大蛇へと変化させて、付近で待機させた。
「紫藤さん、お願いします!」
渋崎君が紫藤さんに合図を出し、戦闘が開始された。
作戦通り、紫藤さんの魂能で敵の周囲に壁を作って囲み、逃げ場を無くした。
「敵襲!」
敵の一人がそう叫び、いきなり現れた壁に戸惑いながらも戦闘態勢に入った。
続いて、あえて作った壁の隙間から敵を射撃可能な位置へ移動すると同時に、待機させていた大蛇で敵全員の足元をすくい転倒させた。
「射撃用意__撃て!」
その号令に合わせ渋崎君、富田さん、河野君が立ち上がろうとしている敵3人に射撃し、リストバンドを点灯させた。
そして、取りこぼした残りの2人は紫藤さんが地面を突出させて宙に浮かせ、大蛇の尾の一薙ぎで倒した。
「やったー!倒せた!凄いね、紫藤さん!」
「い、いえ、皆さんの連携が良かったからですよ…」
紫藤さんが魂能を解除し、周囲の地形をもとに戻した。
あ、浮かれてる場合じゃ無かった。
索敵を再開しないと。
一度魂能を解除し、手元で再度鳥を生成して上空へ飛ばした。
ある程度の高度に鳥が到達したので、視界伝達をオンにした。
「あのー、みんな?ちょっと聞いて欲しい事があるんだけど…」
私はそう言って皆の意識をこちらに向けてから重要な事を皆に伝達した。
「戦闘音を聞いてなのか、こっちに4チーム向かってきてるみたい…」
それを聞いた紫藤さん以外のチームメイトに動揺が広がる。
「ど、どうしましょう」
「と、とりあえずここから逃げますか?」
「いや、今からじゃ間に合わない。もっと別の策を…」
まずい、このままじゃこの状況から脱するどころか行動方針を立てる事すらできない。
一度みんなを落ち着かせないと。
「はーい、みんな注目!」
私は手を叩きながら大きな声で皆の注目を集めた。
「とりあえず、今こっちに向かってきてるチームには索敵できる人が居ないのか、全員ゆっくり移動してる。だから落ち着いて、これからどうするか決めよう」
落ち着いて決めるとは言ったものの、みんなどうすればこの状況を切り抜けられるのか分からないのか、黙り込んでしまった。
そんな中、最初に口を開いたのは紫藤さんだった。
「も、もし何も思いつかないのであれば、私が2チームくらい相手しましょうか?」
さらっと強者発言する紫藤さん。
わお、頼りになるぅ。
それに実際、このチーム全体として、多少敵チーム同士の削り合いがあるとしても4チームを相手取るのはかなり厳しい。
紫藤さん1人で2チームを相手取れるなら、悪くない案だと言える。
問題は、私を含めた残りのチームメンバーでどう2チームを相手するかだ。
「紫藤さん、2チーム相手にするのは大変だと思うけど、お願いできる?」
「え、ええ。私が言い出したことですし、2つのチームの位置を教えていただければ…」
「ありがとう、紫藤さん!」
「あ、いえ、お礼を言われる程では…」
満面の笑みでおどおどしている紫藤さんにお礼を言い、渋崎君の方に振り返って作戦会議を始める。
魂能持ちが私だけの時点でやれる事の種類は少ない。
その事を皆に共有すると、それに渋崎君が同意した。
そして彼は一つ、策を講じた。
「かなり雨笠さんに負担がかかりますが…」
「大丈夫だよ、多分」
こういう時、絶対大丈夫と言い切れないのが、私の悪い所だと常々思う。
それを聞いてみんなが少し不安になったように見えたので、少しだけ言葉を付け加える。
「あんまりこういう事言うべきじゃないのかもしれないけど、私達はチームなんだから、誰かが失敗しても誰かがきっと何とかしてくれるよ。だからみんな気を張らずに、それぞれ最善を尽くそう」
私なりに鼓舞したつもりだったが、皆の反応はなんともまあ微妙な感じだった。
あ、あれ、おかしいな…
頑張るぞーって感じで士気が上がるはずなんだけど。
「雨笠さん、こういう演説というか、士気を上げるような事苦手なんですね」
「うっ…そうかも」
今までこういう機会が無かったから気づかなかったけど、確かに私、こういうの苦手かも。
私の貴重な欠点を知れて良かった。
これを克服したらもっと優秀になれるって事だし。
「でも、なんだかやれる気がしてきました」
富田さんが私に向かってそう言った。
決して上手なスピーチでは無かったけど、彼女を勇気づける事は出来たようだ。
彼女の言葉に続いて他の人たちも同様の言葉を口にした。
ほんと、このチームで良かった。
「みんな、もう他のチームが近くまで来てるみたい。紫藤さん、渋崎君、富田さん、河野君、準備は良い?」
一足先に敵チームの元へ向かった紫藤さんを除いた、残ったチームメイトに私はそう言って確認を取った。
それにチームメンバーは各々肯定の意味の相槌を打ち、銃剣を構える。
上空で待機させている水鳥との視界共有で、紫藤さんが後方の2チームと戦闘を開始したのを確認した。
彼女の魂能はかなり派手なのに加えて、大きな音が出るので非常に分かりやすい。
「それじゃあみんな、行こう」
渋崎君、富田さん、河野君は右から接近しているチームへ、私はそのチームから大きな道を挟んで右から接近しているチームへ向かった。
そして私は魂能で四足獣を作り出してそれにまたがり、建物の上にひょいと乗ってまだこちらに気付いていない敵チームに向けて銃剣を構えた。
そうした時、渋崎君達の方から戦闘音が鳴り始めた。
どうやら、交戦状態に入ったようだ。
しっかりと狙いを定め、引き金を絞る。
銃弾は一番後ろを歩いていた生徒の後頭部に直撃し、その生徒のリストバンドを点灯させるに至った。
「敵襲!」
戦闘に居た生徒がそう叫び、敵チームはすぐさま陣形を整えた。
銃声が彼らには聞こえていたみたいで、すぐに位置がバレてしまった。
よし、ここまでは順調。
私は四足獣を動かして、渋崎君達が向かったチームの方へ銃弾をまき散らしながら逃げた。
普通、こんな怪しい誘いに乗る人は居ない。
バカな私でも怪しいと思うし。
でも今は、少し離れた場所から硬い岩石が衝突する巨大な音が、私が向かっている方からは大量の銃声が鳴り響いている。
一人離脱させられ、近くからは銃声。
この状況ならおそらく、漁夫の利を狙おうと私を追ってくるはず。
安全を取って離脱してくれるなら、それに越した事はない。
後ろを振り返って彼ら方を見ると、私に銃口を向けた状態で追いかけてきていた。
銃弾に当たらないように回避しながら誘導。
確かに、優秀な私じゃなきゃできないね、これは。
最初私はこのチームにちょっかいをかけなければいいんじゃないの、と思っていた。
ただ、私がこのチームに何もしなければ、万全の状態の彼らが戦闘中の私達に攻撃を仕掛けてくる可能性があった。
それが一番好ましくない事?らしいので、それを防ぐ、あるいは少しでもマシにするために私がこうして一人脱落させ、渋崎君達の方へ誘導している。
渋崎君の考えた作戦を簡単に言うと、このチームを誘導してもう一つのチームと私達の混戦状態に持ち込むというもの。
後は私がもう一つのチームとこのチームの間に入って銃弾を互いに当たるよう誘導するだけ。
道と道の間にある建物群を抜け、渋崎君達が居る戦場に到着した。
ここまで来たら後は、少し頑張るだけ。
まだ建物群から抜けたばかりのチームから銃弾が発射された。
私は咄嗟に四足獣を解除し、体を落とすことによってそれを回避した。
その銃弾は狙い通りもう一つのチームに飛んで行き、命中こそしなかったものの彼らの注意を建物群から抜けたばかりのチームに向ける事が出来た。
よし、狙い通り!
だけど…この後どうしよう、何も考えて無かった!
このままじゃハチの巣にされちゃう!
体勢を崩した体はすぐに起き上がれず、再度四足獣を生成するにも数秒時間を要する。
その数秒は、私がリタイア状態になるのには十分すぎる時間だ。
「雨笠さん逃げて!」
富田さんがそう叫ぶも、それが寧ろ敵チームに私が逃げられない事を知らせてしまった。
2つの敵チームが得点を求め一斉に私に銃口を向ける。
彼らが撃つまでの間にギリギリ片足を立てられたので、足を支えにして立とうとした時、突如足元の地面が飛び出し、私を空中へ押し上げた。
それにその場に居た私を含めた全員が驚き、対応が遅れ、数秒が生まれた。
私は反射で魂能を行使して鳥を作り出してその足に掴まり、チームメイトの居る方へ脱出することに成功した。
遮蔽物の後ろに来た所で魂能を解除し、そこに着地した。
「あ、雨笠さん、大丈夫ですか?」
小さいけれど、透き通るような声でそう聞いてきたのは、紫藤さんだった。
「はは、やっぱり紫藤さんの魂能だったんだ。ありがと、紫藤さん!助かったよ」
「お役に立てたようで、良かったです」
渋崎君達も一度この遮蔽物に隠れ、休息をとっているようだ。
「とりあえず、作戦は成功だね!」
「はい、でもまだ油断できません。他に敵チームが_」
渋崎君のチームの気を引き締める為の言葉を遮って、交戦状態にあった2チームの方から爆音が鳴り響いた。
「何!?」
あまりに強烈な音だったので、遮蔽物から少し顔を出してその音が発せられた方を見るとそこには、敵チームの一部を内包した氷壁が現れていた。
「な、何あれ…」
「あれは、一人の魂能なのか?」
各々感じた驚きを口にする中、私にはそれを作り出した犯人が見えていた。
その人は通常、見ることの無い真上に滞空しており、手には一本の木刀が握られていた。
特徴的な逆向きの角に天使の翼。
こんな時に、一番相手にしたくない人物が来てしまった。
「何でこんな時に現れるの、天」