ぶっ壊れにも限度があった方が良いと思う。
これは、先生に確認した方が良いかもしれない。
私は看板から少し離れた所に居た檜山先生に話しかけた。
「先生、あの、私のチームって..」
「一人だな」
...最悪だ。
何で私だけ一人なの!?
「どうしてこうなったのか聞いても良いですか?」
「そうだな、理由は色々あるんだが簡単に言うと、今回の試験での評価について、保安隊の奴らと実験部隊の奴らは同僚との連携力に重きを置いている。そのため、チームは同じ部署で統一する必要がある。加えて、お前の評価部分は近接戦闘だ。他の生徒と組ませるには歪すぎる」
い、歪?
ちょっと言い過ぎでは?
まぁでも、先生の言う通り連携を評価するなら私みたいな近接戦闘を得意とする奴は混ぜない方が良いし、混ざっていたら私の評価も難しくなる。
先生の言っている事は筋が通っているので、理解できる。
理解できる....理解できるんだけど...
「流石に私一人じゃキツイですって」
「何も敵を殲滅しろと言っている訳じゃ無い。ただ一定時間ごとに程よく連携が未熟な敵にダメージを与えて生き残るだけで良いんだ。お前の戦闘力なら十分達成できるだろう?」
「まぁそう言えば簡単に聞こえますけど...」
先生は簡単そうに言うけど、それ結構難しいことだと思うんだよね、私。
先生に軽く礼を言ってそばを離れる。
看板の方を見ると雫がチームメイトらしき人達と挨拶をしているのが見えた。
いいなぁ、私もあんな風に...
いや、今回は一人で良かったかもしれない。
今私は1-1を除いた1年生全員に嫌われている..というか、警戒されている。
だから多分今チームを組んだところでロクな事にならない。
...寂しいなぁ。
少しの間、喉元がギュッと締め付けられるような複雑な感覚に陥っていると、先生によってチームごとに整列させられた。
「各自、チームメイトの顔などは覚えただろうが、魂能についてはまだだろう。そこで、今から10分間話し合いの時間を取る。互いの魂能の確認や作戦を練るのに使ってくれ」
そう言って先生が開始の合図をすると、ほぼ全てのチームが話し合い始めた。
話し合いといっても、その話し合う相手が私には居ない。
おそらくこの試験、他のチームが5~6人で構成されているのに対して私は一人。
正面から勝負すれば、能力の相性などにもよるがほぼ確実に負ける。
私はどうするのが正解なんだろう?
やはり他チーム同士が戦っている所に、ちょっとだけダメージを与えて逃げる。
狙えそうなら撃破も狙う。
所謂漁夫の利というやつだ。
私にはそれしか評価を稼ぐ方法が無い。
はぁ、こんなことしたら嫌われそう。
まぁ試験だし仕方ないよね。
うん、仕方ない。
「話し合い終了だ。呼ばれたチームから教員が演習場内の初期位置に連れていく」
ふぅ、集中_
ーーー
「こんにちは、雨笠 雫です!よろしくね!」
とりあえず大きな声でチームメイトに挨拶してみた。
第一印象って大事だからね。
若干引かれているような気もするが、それだけ私の元気が溢れ出しちゃってるのだろう。
仕方ないね。
私のチーム番号は3。
人数は5人だ。
チームによって5人だったり6人だったりするのは多分個人の実力によって差がつかないよう調整しているんだと思う。
だからって天の一人チームはやりすぎだと思うけど。
「わ、私は紫藤って言います。よろしくお願いします」
勇気を出して私の後に自己紹介したのは紫藤さん。
保安隊第二分隊所属で、管理局でも何度かすれちがったことがある。
見た目は気の弱い女の子って感じだけど、私の聞いた噂によると今年の1年生の中で魂能戦最強らしい。
どんな魂能なんだろう。
気になる。
紫藤さんに続いて残りの3人も自己紹介をした。
渋崎君、富田さん、河野君という。
当人達曰く、自分たちは戦闘が得意ではないという事。
どういうことか詳しく聞いてみると、渋崎君達3人は魂能を持っておらず、保安隊では主に分隊内の事務仕事をしているらしい。
渋崎君達は自分たちが私と紫藤さんの足を引っ張らないか不安なんだそう。
「まぁきっと私も逆の立場だったなら同じことを考えてる。でも、先生がこのチームにしたのは私達の足を引っ張らせる為じゃ無いと思うよ」
「確かにそうですね。チーム分けに意味があるなら、先生方の言っていた評価基準以外にも評価するところがあると考えた方が良さそうですね」
そ、そうなんだ...
私割と適当に言ったんだけど、そんな受け取られ方をするとは思ってなかった。
会話って難しい。
それに、先生が言っていた以外の評価部分?
...うん、わかんない。
私が足らない脳をフル稼働させて考え込んでいると、紫藤さんが口を開いた。
「あ、あの、渋崎さんたちがこのチームになったのは多分、私と雨笠さんがいるからだと思います」
ん?どゆこと?
私が分からなかった紫藤さんの言葉に、渋崎君が反応した。
「なるほど、つまり私達3人は強い人と同じチームでも役に立てるか、雨笠さんと紫藤さんは自分よりも弱い人たちと連携できるか、チームメイトを生存させることができるかが見られる可能性が高い、という事ですね」
一体、何がなるほどなんですか?
全然わからなかったんだけど。
どんな脳みそを持ったらあの言葉からそこまで推測できるんだろ。
というか賢そうだし、渋崎君に作戦とか考えてもらった方が良いかも。
「とりあえず私の魂能情報を話すよ。そんなに時間無いしそれから軽く作戦考えよっ」
「わ、私のも話します」
私に続いて紫藤さんも自身の魂能の詳細を話した。
私の魂能は言わずもがな、水で動物を作る能力だ。
自分で言うのもなんだけど、かなり強い部類の魂能だと思う。
私自身が動きながら生成した動物を動かす事ができるし、視界の共有だって出来る。
かなり汎用性の高い魂能だ。
そして紫藤 咲の魂能は属性が土、その特性は操作。
...これだけじゃよくわからない。
「もうちょっと詳しく話してくれない?紫藤さん」
私がそうお願いすると、紫藤さんは少し恥ずかしそうにしながらも了承してくれた。
「わ、私の魂能の属性は土で、特性は操作...です。簡単に言えば地面から尖らせた岩石を飛び出させて攻撃したりできます。発動条件は体のどこかが地面に触れている事で、目視できる場所全てが魂能の射程です」
わぁ、ぶっ壊れ。
自分の魂能強いと思うんだよね~とか言ってたさっきまでの自分が恥ずかしい。
「その岩石の形状は自在に変化させられるんですか?」
富田さんが紫藤さんにそう問うた。
すると彼女はその場に魂能で動物のような形の岩を作り出した。
「形はよほど細かいもの以外なら大体作れます」
これがあれか。
いわゆるチートってやつだこれ。
味方で良かった。
天よりも紫藤さんの方が一人の方が良かったんじゃない?
「では戦術を考えましょうか」
渋崎君の一声から残りの6分間、作戦会議が始まった。
作戦はいたってシンプル。
私の魂能で作り出した鳥で敵を視認、その後紫藤さんの魂能で壁を作り出し逃げ場を無くし、私か紫藤さんの魂能で敵を一纏め、もしくは転倒させる。
その後渋崎、富田、河野の3人が敵めがけて集中射撃。
評価がチーム単位でなされるので、敵を倒すよりも連携に重きを置いた戦術になっている。
「話し合い終了だ。呼ばれたチームから教員が演習場内の初期位置に連れていく」
丁度作戦の詳細な部分まで決まった所で話し合いの時間が終了した。
「じゃあがんばろー!」
「「「おー!」」」
「お、おー...」
若干統率の取れてない気合を入れたところで、私達のチーム番号が呼ばれた。
演習場前の門で保護リストバンドを渡され、それを装着する。
それと同時にリタイア時の対応について説明された。
受けたダメージが一定値まで貯まるとリストハンドが淡く光り、位置情報が教員に送信される。
そして教員によって回収される。
というのが大まかな流れなんだそう。
まぁ、私たちのチームからは戦闘不能者出すつもりないから、関係の無い話だね。
教員に導かれるまま歩いて行くと演習場内で1番大きな広場に着いた。
ここが私たちの初期位置らしい。
みんなで辺りを観察していると、渋崎君がボソッと呟いた。
「これは、まずいですね」
「どゆこと?」
何がまずいのかイマイチよくわからなかったので渋崎君に質問すると、彼は遠くに見える背の高い建物を指差しながら答えてくれた。
「この場所、黎界の中心部が再現されたこの第一演習場の建物ほぼ全てから一方的に見られてしまいます」
「つまり?」
「簡単に言うと、物凄く不利です」
ちょっと考えればわかる事でもついつい質問しちゃう。
賢い人と一緒に居るともっと馬鹿になっちゃいそう。
...別に天が賢くないって言いたい訳じゃないよ?
「これも、私と雨笠さんがいるからですかね...?」
紫藤さんが少し小さめの声でそう聞くと、渋崎君が首肯した。
「なので、試験が始まった瞬間に建物がある方へ移動しましょう。ここにとどまっていたら狙われてしまう」
「おっけー。移動時の周囲の監視は任せて!」
ざっと開始後の流れが決まり、皆緊張しているのか言葉数がだんだんと少なくなる。
そんな空気管の中演習場の放送機器が起動し、音を発し始めた。
「全チームの配置が完了した。試験時間は50分。それでは、試験開始だ」
ちょっと更新止まります。
ストックが溜まり次第再開します。