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傷つくのはもうやめた


 あれから4日後、再び学園へ登校する日になった。


 「おはよ、天」

 「おはよう、雫」


 あんな事があったのに、雫は今まで通りに接してくれる。

 ほんと、雫が友達でよかった。


 「ねぇねぇ天。特命課って仕事してるの?」

 「シテマスヨ」

 「天って嘘吐くの下手だよね」


 知ってますぅ。

 それを承知で嘘吐いたんですぅ。

 真面目に働いてる人に給料泥棒してますなんて言える訳ないじゃん、普通に考えて。


 「というか何でそんなこと聞くの?」

 「いや、他の部署は仕事をしてる所よく見たりするんだけどさ、特命課はあまり聞かなくて」

 「見聞きしてないだけで仕事してる可能性だってあるじゃん」

 「私、自分で見たものしか信じないタチなんだよね」

 「じゃあ仕事してないって事でいいよ」

 「あ、でもこの間学校でしてたか。犯人っぽい人を殺してたし」


 それ今私が一番気にしてる事..

 雫は私の肩を掴み、神妙な面持ちで言葉を続けた。


 「天、聞いて。きっと学園に行ったら天の事を人殺しって言う人が居ると思う。そんな奴らの言葉、絶対真に受けないでね」

 

 私が雫と合った目を逸らそうとすると、雫は肩を掴む力を強くして私が逃げられないようにした。

 私がこういう時どういう行動をするか完全に読まれてる..


 「というか、今までもそうだったんだけど、そういう言葉を聞いて凹んでる天見ると私ムカついて相手の事っちゃいそうになるからや・め・て!」

 「は、はい。スミマセン」


 なんで私謝ってるんだろ..

 悪いのは私じゃなくて、そういう事を言ってくる人でしょ。

 まぁでも、その悪い人の母数が多すぎて陰口を止めさせられないし、私を変えようとするのは当たり前か。

 その後、私と雫は他愛もない会話をしながら学園へと向かって歩く。

 管理局から伸びた高架の下に来たところで一度足を止め、着ていた上着を脱いで鞄にしまった。

 学園に近づくにつれ、周りに同じ制服を着た生徒がだんだん増えてくる。

 今感じるその人たちの視線はいつものような私を蔑むものではなく、もっと別のもののような、そんな気がする。

 でも毎日この辺りで上着を脱ぐようになって、こういう視線にも慣れてきた。

 というよりも、視線による不快感が減った。

 私も成長できてるって事なのかな。

 そうだと嬉しいな。

 

 「おはよ!先生!」

 「おはようございます」


 雫と一緒に正門前に立っている教員に挨拶をして、中へ入る。

 そしていつも通り下足室で靴を履き替え教室に入る。

 ほんと、いつもと変わらないな、《《視線以外は》》。

 自分の席に腰を掛けた所で、後ろからこのクラスの委員長が近づいてきた。

 名前は....

 やっぱ成長できてないな、私。


 「あの、雪羅さん」

 「はい、何でしょうか?」


 何を言われるのだろうか。

 一応、人殺しと言われる覚悟はしてきている。

 

 「雪羅さん、大丈夫?」

 「はい?」

 「だってこの前犯罪者と戦って、その、殺しちゃってたでしょ?だから、えっと、大丈夫なのかなって、精神的に」


 まさか私の心配をしてくれる人が雫以外にいるなんて。

 いや、まだそう判断するのは早い。

 この人達が私を恐れて味方の振りをしている可能性だって..


 「ちょっと、天」


 隣に座っていた雫が後ろから覆いかかり、私の耳元で囁く。


 「そんなに人を疑ってばかりだといつか精神病んじゃうよ?私はもっと他人を信じても良いと思うけどなぁ」

 「そ、それは..確かに、そうだけど」


 雫の言う通りかもしれない。

 あらためて自身を俯瞰すると、私は今まで霊人から受けてきた仕打ちのせいでかなり疑心暗鬼になっているのかもしれない。

 ..ハルさんの言う通りだな。

 

 「心配してくれてありがと、私は大丈夫だよ」

 「それなら良かった。実はこのクラスの皆、雪羅さんの事心配してたの」

 「皆?」

 「そう、あの時1年生は全員体育館にいたからさ、このクラスだけじゃなくてこの学年全員が見てるはずだよ。このクラスは皆雪羅さんが喜んであんな事する人じゃないって知ってるから、あの後管理局でも見かけなくて心配してたんだ」


 これからは最初から相手がウソを吐いていると疑ってかかるのはやめよう。

 少なくともこのクラスの人は私を陥れたりするような人たちじゃない。

 それだけは確かだ。


 「本当にありがとね、委員長」

 「ふふ、今後も困った事があれば相談してね!いつでも聞くから。後、雪羅さんの事だから、多分私の名前覚えてなくて委員長って呼んでるのよね?」

 「うっ..」


 バレてたか。

 いやいや、違う違う。

 私のは覚えてないっていうか、名前と顔が一致しないだけなんだよね。

 それぞれは覚えてるの。

 ホントに。


 「私の名前は委員長じゃなくて、大原 玖美くみだよ」

 「ご、ごめん、大原さん」

 「玖美でいいよ。今度はちゃんと覚えといてね」

 「は、はい。善処します」

 

 私がそう言うと、彼女は「それ、やらない人の台詞だからね?」と言って自身の座席に戻っていった。

 委員長..じゃなくて玖美さんは、本当にいい人だ。

 彼女だけじゃない、クラスのみんなも。

 私にはもったいない位に。


 それから間もなくしてチャイムが鳴り響き、檜山先生による朝礼が始まった。

 どういう態度を取られるのか分からず不安だった4日ぶりの授業も難なく進んだ。

 クラスメイトとグループを作り話し合いを行う授業でも、彼らはいつもと同じように接してくれた。

 そんな調子で1日の授業の時間があっという間に終了し、気づけば終礼の時間になっていた。

 いつも通り檜山先生が教壇に立ち、話し始める。


 「あー、実は先週の終礼で言い忘れてた事があってな」


 なんだろう、嫌な予感しかない。


 「実は明日、お前らがどのくらい管理局で技術を身に付けられてるかを測る実技試験がある」


 ?????????????????????????????????

 それ、普通忘れるような事じゃ無いよね?

 逆にどうやって忘れるのか教えて欲しいね。

 クラス中がざわめく中、雫が手を挙げた。


 「先生、なんでそんな大事な事忘れてたんですか?」

 「年のせいだ」 

 「今年おいくつなんですか?」

 「....25」


 やるなら最後まで年寄り設定を貫けよ..とおそらくクラス全員が思った。

 先生の説明によると実技確認試験というものはいわゆる中間試験のようなもので、その試験内容も配属部署によって違ってくる。

 私達生徒を大まかに戦闘部署グループと事務部署グループに分け、それぞれで試験を実施する。

 事務部署グループの方はボーっとしていてよく聞いてなかったが、私に関係のある戦闘部署グループの方はしっかり聞いていた。

 偉い!よくやった、私!

 試験内容は極めて単純で、配属先ごとにチームを作り、それら全てを第一演習場にて乱闘形式での模擬戦闘。

 制限時間は50分。

 生徒は保護リストバンドを装着し、受けたダメージを数値化して記録する。

 その合計が一定以上になるとリストバンドが光り、その時点で試験終了になる。

 評価方法は生存時間+撃破点-受けたダメージだ。


 「なら全員で結託して誰も攻撃をしなければいいのでは?」


 委員ちょ..じゃなくて、玖美さんがそう質問した。

 確かにそうだ。

 互いに攻撃をしなければ、誰も脱落することなく、制限時間分の評価を得る事ができる。

 それじゃ試験の意味が無い。


 「もちろん対策はしてある。一定時間誰にもダメージを与えていないと、ペナルティダメージが与えられる。つまり何もしていないと勝手にダメージを負って評価が下がる」

 「ダメージを減らす方法は無いのですか?」

 「敵を攻撃してダメージを与えれば、その大きさに応じてリストバンドに記録されているダメージがマイナスされる」


 なるほど、そうすれば敵を攻撃する必要性が出てくる。

 となるとみんなチームの全員が試験を無事に終える事を目標に連携を取ったりするだろう。

 教師陣はそれを見て評価する、といった形だろうな。

 戦闘部署グループの9割は保安隊だし、連携力を重視するのも当然だ。

 ちなみに残りの9分は技術部の新兵器実験部隊の人で、1分が特命課の私。

 寂しいね。

 先生が他に質問が無いか問いかけるが、手を挙げる者はいない。


 「チーム分けの詳細は明日第一演習場の前で発表するから、早めに来る事をお勧めする。ではこれで今日の終礼は終わりだ。解散」


 先生が立ち去ると、教室が先生への文句と試験への不安で満たされた。

 「本当にあの人ボケてきてんじゃないの!?」とか「試験明日って..大丈夫なのかなぁ」という声が聞こえてくる。

 はぁ、ホントに、不安だ。


 「帰ろっ、天」

 「うん、ちょっと待ってて」


 私は急いで帰る支度をして、雫と一緒に教室を出た。

 すると辺りからヒソヒソと話す声が聞こえてくる。

 それによく耳を傾けてみる。

 全文は聞き取れなかったがいくつか単語は聞き取れた。

 「気持ち悪い」「人殺し」「さっさと帰って」

 ..傷つくのはもうやめた。

 でも、流石に咎めた方が良いのかな?

 横に居る雫を見るといつも通りにしているので、気づいていなさそうだ。

 それなら、いっか。

 そこから陰口を咎めることもせず、私は最悪の気分のまま帰宅した。

 


 翌日、私は制服ではなく体操服で登校する。


 「ねぇねぇ天。私達同じチームになれるかな?」

 「さあ?どうだろうね」

 「ちょっとぉ、こっちは真剣なんだけど?」

 「まるで私が不真面目みたいな言い方するじゃん」

 「だって天、戦闘能力すごいから多分適当にやっても良い評価貰えるでしょ」


 流石に過大評価では?

 私だって今それなりに緊張してるんだけど。


 「それに、天は敵になるとかなり厄介だからね。できれば味方の方が良いなぁと思って」

 「それはこっちの台詞だよ」


 索敵もできて戦闘も並み以上にできる。

 雫、あんたが一番恐ろしいよ。

 いつも通り雫とどうでもいい話をしながら学園へ向かう。

 正門をくぐっていつもは下足室に向かうところを、今日はそこを通り過ぎて奥にある広大な学園第二区画を目指す。

 学園には校舎や実技演習館のある第一区画と演習場などのかなりの土地を要する建物のある第二区画がある。 

 試験が行われる第一演習場は第二区画にある。

 到着してすぐ、何やらたくさんの生徒が群がっている立て看板を見つけた。

 おそらくあれにチーム分けが書かれているのだろう。


 「楽しみだね、天」

 「敵になっても恨みっこなしね」

 「そりゃあもちろん!私がぼこぼこにしてあげる!」

 「は~怖い怖い」


 雫と軽口を叩きあった所で看板に近づき、そこに貼られた紙を見る。

 たくさん名前がある中、探すのは大変そうだと思いながら自分の名前を探していると、一瞬で見つかった。

 それは下の方にあったからでも、たまたまでもなく、私の名前が”単体で書かれていたから”だ。


 嘘...私、一人?


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