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模擬戦


 私はギリギリで顔を右へ逸らし、その突きを躱わした。

 すぐさま反撃を、と思い、腰を捻って右手で持っていた木刀をカグツチさんの腕めがけて振った。

 するとカグツチさんは持っていた木刀の頭で叩き弾いた。

 その衝撃を利用し、私は右方向へ距離を取った。

 駄目だ。

 刀の扱い方を体が忘れている。

 カグツチさんに追撃される前に、私は距離を詰めて思いっきり木刀を振り翳した。

 私の一撃を、カグツチさんは木刀で受けると同時に少し斜めにする事で受け流した。

 そして大きな隙が出来た私の木刀を強く弾かれその場に落としてしまった。


 「勝負ありだな」


 負けてしまった。

 いや、負けた事はいい。

 ただその内容が良く無かった。

 私はただ、木刀を力任せに振っただけだし、能力測定の時は対縛霊だったからたまたま上手くいっただけ。

 このままじゃいけない。


 「もう一度お願いします」


 そう言って木刀を構える。

 開始の合図などは無く、互いが構え終わったと同時に始まった。

 思い出せ、お父さんとの特訓を。

 私はカグツチさんが攻撃の為に一瞬構えを崩した瞬間を狙って懐に飛び込み、木刀を持っていない方の脇腹めがけて木刀を振るった。

 完全に捉えたと思われたが、最適だと思えるような完璧な木刀の動かし方で、簡単に防がれてしまった。

 が、反撃してくる様子は無かったので、その間に後方へ跳び距離を取った。

 ダメ、さっきから何も改善されてない。

 カグツチさんのような刀の扱いが上手い人は、太刀筋が綺麗な直線になっている。

 だから余計な力の分散などが無く、しっかりと切りたい方向に力が入る。

 それに比べて、私のは太刀筋が描く線が少しうねっている。

 龍神族である私の攻撃が、霊人であるカグツチさんに受け止められているのは、それが原因だろう。

 もちろん、それ以外にも悪い所はある。

 だが目立って悪いのはそのくらいだと思う。

 父に教わっていたのがずいぶん昔、100年程前だろうか?

 丁度、”父が亡くなった”のがその辺りだったから、そのくらいだと考えて良いだろう。

 ただ、ブランクがあるという事を言い訳にしていては、この先いつか仕事で大怪我を負う事だってあるかもしれない。

 できれば今ここで、それだけでも直したい。

 カグツチさんは、私の攻撃を待っているのか、何もしてこない。

 おそらく私の攻撃を待っているのだろう。

 まぁカグツチさんが攻撃しすぎても私の練習にならないからだと思うけど。

 私はしっかりと木刀を握り直し、再び距離を詰めた。

 そして太刀筋で直線を描く事を意識して、木刀を振るった。

 カグツチさんはそれを想定していたのか、私の攻撃筋が向かう先に若干フライング気味で木刀を移動させ、私の攻撃を防いだ。

 さっきと違うのは、私の太刀筋が改善されしっかりと力が伝わっているからか、木刀が軋み、彼はすぐに逸らして受け流した。

 私は受け流された木刀を床に立てて、それを重心に体を浮かせカグツチさんの木刀を思いっきり蹴った。

 するとカグツチさんは衝撃を抑えきれなかったのか、少しだけ後ろに吹っ飛んだ。

 父曰く、龍神族の使う刀は龍神族の筋力に耐えるために、一般的な物よりもかなり頑丈になっている。

 それ故、龍神族の刀術もその頑丈さを活しており、刀に体重をかける事ができるので、刀術と体術が混ざったもの・刀体術と呼ばれることもある。

 父に教わる事が出来なくなったのなら、他の人に教わればいいのでは、と思ったかもしれないが、お父さん以外に刀体術を扱える人が居なかったのだ。

 というのも、龍神族の人たちは、刀使うより素手で戦った方が良くね?となるようで、あまり普及していない。

 だから今、龍神族で刀体術を使えるのは私だけなので、自力で何とか上達するしかない。

 基礎と少しの応用ならお父さんに教えてもらった。

 今はそれを思い出そう。

 私は体を浮かせたまま、重心が載っている木刀で床を後方に押し出すようにして、前方向へ跳び木刀で追撃した。

 カグツチさんの木刀と私の木刀が競り合っている隙に、彼が木刀を持っている右腕を左足で蹴った。

 しかし、その攻撃は左手で受け止められてしまった。

 その代わり、木刀を支えていた力が弱まり、私の木刀がカグツチさんの首元にググっと近づいた。

 おそらく、私の蹴りを受け止める為に、身体強化のリソースの多くを左手に割いたからだろう。

 攻めるなら今だ。

 何とか逃れようと掴まれた足を振りながら、木刀に加える力を強くした。

 カグツチさんはそれに反応して後ろの倒れこみ、巴投げのような形で私を後ろへ投げ飛ばした。

 私は翼を使い空中で体勢を立て直し、再度攻撃を仕掛けた。

 筋力は私の方が圧倒的に上回っているが、体格という面ではカグツチさんが優勢だ。

 その差は地面に足を付けている限り、どんな工夫でも埋める事はできない。

 私は一瞬だけ片足を床に着け跳び、滞空しつつカグツチさんの上から攻撃する、を2・3回繰り返した。

 頭頂部、右肩、横腹、左腕を狙い、時々着地し足払いなどしてみたが、どれもカグツチさんに届く事は無かった。

 何か、不意を突くような1手が必要だ。

 私は再度着地した瞬間、木刀で薙ぎ払った。

 そして、彼がその攻撃を木刀を縦にして受け止めたと同時に、握っていた力を抜いて内方向へ押すことで、切っ先は私に、木刀の頭はカグツチさんに向いた。

 そしてそのまま木刀を再度しっかりと握り直し、カグツチさんの腹部めがけて突いた。

 完璧に通ったと思われたが、またも左腕で防がれていた。


 「残念、惜しかったな」


 そう言うとカグツチさんは受け止めていた左手をそのまま捻り、私に木刀を手放させた。

 脳に熱が戻り、思考に靄がかかる。


 「カグツチさん強くないですか?」

 「そりゃあ俺特命課課長だし」

 「それ説明になってないですよ。..私、近接戦闘には自信あったんですけどね」


 自信、と言っても霊人になら負けないだろうという程度のものだけど。

 カグツチさんは私が落とした木刀を拾い、元々持っていたものと合わせて元あった場所へ戻した。


 「気を落とす必要は無い。十分強いよ」

 「..慰めですか?」

 「いやいや、ほんとだって。お前俺がそんな嘘を吐くような奴に見えるのか?」

 「見えますね」

 「それを言われない前提の反論だったんだけど....まぁ実際、お前の刀体術は結構な練度だ」

 「..ありがとうございます」


 ここは大人しく誉め言葉として受け取っておこう。

 ほぼ100年ぶりにちゃんとした刀体術を使ったけど、案外すぐに感覚を取り戻せた。

 まぁ完全にとは言えないけど。

 カグツチさんは手をぶらぶらと振りながら「お前の打撃強過ぎてまだ若干痺れてるんだけど」と文句を言われた。

 なんかムカついたので「カグツチさんが貧弱だから悪いのでは?」と言い返してやった。

 するとカグツチさんは何かを言いかけた後、口を噤んだ。

 カグツチさんがもっと頑丈だったらいい話だし、私は悪くない。 

 それから少し会話をした後、なんだか少し疲れたので床に寝そべった。


 「お前さ、刀と一緒に脇指あったら使う?」

 「うーん、使わないと思います。刀体術は刀の隙を自分の肉体で行うので」

 「わかった。今度忘れずに持ってこいよ」

 「そんな短時間に何度も言わなくても大丈夫ですよ。私が忘れっぽい奴に思えます?」

 「思える」

 「最悪、やり返された」


 カグツチさんとくだらない会話を交わしていると、天井からハルさんのクモちゃんシリーズの内の1体が降りてきた。

 まず第一にどうしたんだろう?という感想が出てきた時点で、ここにハルさんの監視ロボがいる事に納得している自分が怖い。

 だってここ学園だよ?

 特命課の仕事は管理局内の治安維持なのに、学園まで監視する必要ないでしょ。

 ハルさんは着地すると、私の肩に飛び乗った。


 『カグツチ、仕事だよ』


 どうやら仕事が入ったらしい。

 今日私は学園での授業日なので、関係ない..はず。

 大丈夫だよね?


 「了解、じゃあな、天」

 「はい、頑張ってくださいね、カグツチさん」


 そう言ってカグツチさんがこの場を離れようすると、ハルさんが「あ、待って」と言って引き留めた。


 「どうした、ハル」

 『..天にも手伝ってもらわないといけないかも』

 「どういう事だ?」


 カグツチさんが問うと、ハルさんが少し間を置いて答えた。


 『たった今、任務がもう一件増えた。それぞれ別の場所で鬼人が暴れてる』

 「..つまり?」

 『天、出勤』


 嫌な予感が的中してしまった。


 「で、でも私いま戦闘服持ってませんよ?」

 『大丈夫、特命課室に予備がある』


 こうなった以上、しっかり仕事するとしますか。


 「なら、今から急いで特命課室に向かいます」

 「頼んだ。ハル、その個体を俺に付けろ。俺はこのまま向かう。場所を教えろ」

 『鬼人の現在地は..二人とも、今すぐ学園の正門に向かって』

 「もしかして..」


 『鬼人二体が合流してここ、学園に向かってる』


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