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精神自傷と言うべきか


 「元気だったか?」

 「うん、元気だよ。...というかおばあちゃん、どうしてここに?」

 「まぁ技術部長だからな」

 「聞いてないんだけど⁉︎」

 「ああ、言ってないからな」


 頼むから言ってくれ、と心の中で文句を言った。

 この人は、【雪羅 若菜わかな】。

 私の祖母だ。

 小さい頃、家に父も母もいない時、よく祖母の元に預けられていた。


 「そうか、そういえばお前も雪羅だったな」


 カグツチさんが、牢屋に鬼人を入れながらそう言った。


 「ああ、一応文面上は祖母という事になっている」

 「おばあちゃんはいつもこう言うんですが、小さい頃よく遊んでくれましたし、血もつながってるので関係性としても祖母ですよ」


 おばあちゃんはいつも人に説明する時、文面上という言葉を強調している。

 本人曰く、他人に年寄りだと思われるのが嫌なんだそう。


 「そうだ、千春ちはる。そろそろメンテナンスをしたいから、明日ここに来てくれ」

 『...わかった』


 千春...?

 ハルさんの事か。

 てっきりみんなハルって呼ぶからそれが本名なんだと思ってた。

 もしあだ名とかだったなら失礼だったかな?

 

 「鬼人について進展はあったか?」


 カグツチさんがそう言うと、おばあちゃんは作業台に置かれていた紙を手に取り、返答した。


 「あった。だがそれを検証するのにあと数体鬼人がいる」

 「アマテラスに報告は?」

 「まだだ。なんせ確証も得られてないからな」

 「なるほど」


 何だかとてつもなく凄い進展があったらしい。

 が、私は今日入ったばかりの新人なのでよくわからない。

 多分結構進んだんだと思う。


 「わかった、俺からそれとなくアマテラスに伝えておこう」

 「そうしてくれると助かる」


 カグツチさんは、私の肩に乗っていたハルさんのクモ型ロボットからチップの様な物を抜き取って、それをおばあちゃんに渡した。


 「雪羅」

 「何ですか?」「何だ?」

 「...」


 カグツチさんの呼びかけに、私とおばあちゃんの2人が反応した。


 「あのー、カグツチさん。出来れば呼び分けとかしてもらえると嬉しいんですけど」

 「俺も呼び分けた方がいいなって今思った」


 おばあちゃんは手に持っていた紙を置いて、カグツチさんの方を向いた。


 「呼び分けというのには賛成だが、貴様に下の名前で呼ばれるのは不愉快だ」

 「不愉快は言い過ぎだろ」

 「キモい」

 「言い直したつもりなのかもしれないが、全く改善されてないぞ」


 おばあちゃんとカグツチさんって、結構不仲なのかも。

 さっきまでそんなことなさそうだったのに、急に態度が変わった。


 「もしそうするなら貴様と縁を切る」

 「そんなに嫌なのか...」


 おばあちゃんはカグツチさんを本当に嫌そうな目つきで睨んだ。

 これは...絶対不仲だ。


 「俺何か悪いことしたか?」

 「ああ、したね。覚えてないとは言わせない。150年前、私の研究施設を破壊しつくしたのはお前だろう?」

 「いやいや、あの時は敵同士だったからノーカンだろ」

 「は?私に言わせてみれば__」


 目の前で二人の口喧嘩が始まった。

 皆は自分の上司とおばあちゃんが目の前で喧嘩したことがあるだろうか。

 私はある。


 「あのー!二人ともおばあちゃんを呼び捨てにする前提で喧嘩してらっしゃいますけど、私を下の名前で呼べば良くないですか?」

 「「確かに」」


 ハモった。

 実は仲良いんじゃない?

 この二人。


 「よし、じゃあ”天”。特命課室に戻るぞ」

 「はい!」


 部屋を出る前に「おばあちゃんまたね」と別れの挨拶をした。

 再び薄暗い道を戻って、エレベーターに乗った。

 はぁ、まさか技術部長がおばあちゃんだったなんて。

 どこかの研究施設で働いてるって事は聞いてたけど、それが管理局の技術部の事だとは思ってなかった。

 

 「この後は何かあるんですか?」

 「いや?特にないけど」

 「じゃあ何するんですか?」

 「...退勤時間まで天井のシミ数え」

 「最悪」


 忙しさの変化で整えそうだ。


 「なんか仕事ないんですか?」

 「うーん、俺ら別に事務仕事とかも無いしな」

 『暇なら私のお願い聞いてもらおうかな』


 ああ、そういえば案内してもらう時にそんな約束をしたような...


 「いいですよ、何をすればいいんですか?」

 『ちょっと買ってきてほしい物があるんだよね』

 「買ってほしい物?」

 『家電量販店に行ってゲーム買ってほしい』


 ...自分で買いに行けば良くないですか?

 と言える度胸が私にあればどれだけ良かったことか。

 これあれでは?

 噂に聞くパシリとかいうやつ。

 まさか学園ではなく職場でやられるとは。

 エレベーターの扉が開き、私は一度カグツチさんと一緒に地下1階で降りた。


 「じゃあその前に羽織れる物を取って来ていいですか?」

 『どうして?』

 「どうしてって...好奇の目にさらされるのは好きではないので」

 『...許可しない』

 「えっ」


 聞き間違えたのかな?

 今、許可しないって...


 『その翼と角を隠したいんでしょ?だめ』

 「何でそんな意地悪するんですか?」


 私、隠さないと、人前を歩けない。


 『別に意地悪で言ってるんじゃない。何かであなたを隠すのは、あなたの為にならないから。それに、さっき現場まで向かう時は無くても大丈夫だったじゃない』

 「それは...高く飛べば見られないですし、それに急を要していたので」

 『なら大丈夫だよ。絶対に好奇の目で見られない。私を信じて』

 「...飛んでもいいなら」

 『うん、いいよ』


 正直、不安しかない。

 また好奇の視線を浴びせられて、小声で気持ち悪いと言われるかもしれない。

 あんな気分を味わうのはもうごめんだ。


 「それじゃ、俺は先に戻っとくわ」

 「あ、はい、お疲れ様です」


 カグツチさんは特命課室に戻り、私とハルさんは再度エレベーターに乗った。

 私は1階で降り、視線の網を突き破る様に駆け足で管理局の正面エントランスから出て、少し開けた所に移動した。

 翼を広げ、空へと飛び上がる。

 この街に家電量販店はいくつかある。


 「ハルさん、どの家電量販店に向かいますか?」

 『とりあえず街はずれのとこに向かって。そこならある程度残ってるかも』


 私は言われた通り、その店に向かって移動を開始した。


 「残ってるって、どんなゲームなんですか?」

 『今日発売の最新ゲームだよ。大人気シリーズの最新作なんだ』

 「へぇー」


 ゲームの事はよくわからないので、へぇーという感想しか出てこない。

 もっと私にコミュニケージョン能力があるなら話は違うだろうが、生まれてこの方まともに友達すらできたこともない奴にそんなものがあるわけがない。

 私の飛行速度は意外と速く、道を無視して目的地に向かえる為、普通に車で向かうよりも早く着く。

 飛行し始めて3分程経った頃、かなりはっきりとその看板に書いてある文字が読めるほどの距離になった。

 徐々に高度を下げていき、人の居ない少し広いスペースに着地した。

 今日は平日という事もあってなのか、人気がない。

 私は人に出くわさないように、できるだけ目立たない道を通って店の前に着いた。

 自動ドアには、準備中という張り紙が貼ってあった。


 「あのー、準部中らしいですけど」

 『ああ、気にしないで。ここの店長、よく剥がし忘れてるんだ』


 ほんとかな?

 私はハルさんの言葉を信じて中へと入った。

 やはりというべきか、その瞬間から全身を突き刺すような視線を感じた。

 周りを見回しても人影は見当たらない。

 が、それでも体は不快感に覆われていた。

 早く、早く出よう。


 「それで、どういうタイトルのゲームなんですか?」

 『...』

 「ハルさん?」


 どうしよう、早く出たいのにハルさんの返事が無い。

 とりあえずそれっぽい所に行こう。

 私は”ゲーム”と書かれたコーナーへ、不快感を伴った視線に耐えながら足を運んだ。

 そのコーナーには物凄い種類のゲームが並べられていた。

 そして、その中に”シリーズ最新作、今日発売!”というポップが貼られたゲームを発見した。

 私はそれを手に取り、肩に乗っているクモ型ロボットに見せた。


 「これであってますか?」

 『...ねぇ、天。まだ好奇の視線、感じる?』


 何それ。

 感じないなら、気にならないなら私は外に、翼と角を隠さず出かけられる。


 「はい、当たり前じゃないですか」

 『そっか。私、わかった』

 「何がですか?」

 『あなたが”そんな状態”になっている理由』


 そんな状態?

 何?その少し見下したような言葉遣いは。

 ハルさんがそんな人でない事を、私は知っているのに、その言葉に少しムカついてしまった。

 私は好き好んで自分の翼と角を隠してる訳じゃないのに。


 『この店の店長と私は150年来の付き合いなんだ』

 「それとどういう関係が?」

 『実は、ここに来る前に頼んだんだよ。店に誰一人客を入れないでくれって』

 「....つまり?」

 『あなたの言った事が本当なら、周りに誰も居ないにも関わらず、”好奇の視線を感じてるって事”』

 「...」

 『言い方は悪くなっちゃうんだけどさ、”自意識過剰”なんじゃない?もちろん、あなたの事を差別的な目つきで見る人はいる。けど、あなたをそんな状態に追い込んでいるのはそういう人達だけじゃなく、あなた自身もなんだよ。そんな状態じゃ、本当にあなたと仲良くしたいと思っている人にも、そういう決めつけをしてより孤立してしまうだけだよ』


 その言葉を、一言一句聞き取ったはず、なのに意味が分からなかった。

 何、何、どういう事?

 追い込んでいるのは私自身?

 だって、霊人あいつらが、霊人さべつしゃが。


 『それ以上、精神を自傷するのはやめた方がいい。それこそ、異種族排他主義者が過ごしやすい世界になっちゃうと思うよ、私は。せっかくあなたには力があるんだから、思いっきり抵抗してやったらいい』

 「....ハルさんに、何が分かるんですか?」


私は振り絞るようにその言葉を吐き捨てた。


 『わかるよ、だって私は半分生物で半分機械の人工頭脳生物”サイボーグ”だから』


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