表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/19

初任務

 

 「仕事ですか?」

 『うん、私達はこのまま現場まで飛んでいくよ。飛行免許持ってるでしょ?』

 「はい、持ってますけど、どこから飛べば...」

 『そこの窓』


 アマテラス様の執務室には一か所だけ窓があった。

 あそこから飛べって事?


 「ハルさん、窓って出入口じゃないんですよ」

 『え、馬鹿にしてる?』


 アマテラス様は机から降り、執務室の窓を開けた。


 「いいよ、使っても」


 私は窓の渕に足を掛け、辺りに障害物が無いかを確認した。

 前に学園の建物があるけど、そこまでには飛び上がれるかな。


 「ありがとうございました」

 「うん、またねー」


 窓の渕を蹴って翼をはばたかせ、ハルさんの指し示した方へ向かう。

 まぁ何というか、アマテラス様、結構軽い感じの人だったな。

 結構圧のある人を想像してたんだけど、上司としても接しやすそうでよかった。


 『あーあー、聞こえるか?』


 クモから何だか聞き覚えのある声が聞こえた。


 「カグツチさん?」

 『よし、聞こえてるみたいだな』

 「これ通信もできるんですか?」

 『ああ、つい最近まではハルしか話せなかったんだが、雪羅が入ることが決まって通信できるように改造してもらったんだ。メリットしかないからな』


 今まではカグツチさん1人だったから、ハルさんとだけ通信できればよかったのか。

 通信できた方が便利だし、戦略の幅も広がるしで、確かにメリットしかないか。


 『よし、ハル。ブリーフィングを始めよう』

 『了解』


 カグツチさんがそう言うと、肩に乗っていたハルさんの機械が空中に何かを投影した。

 よく見るとそれは誰かの年齢や魂能の詳細が載った個人情報だった。


 『石田次郎、65歳。魂能、無し。保安隊に一般枠で入隊後、第3分隊に所属。鬼人化したのは3日ほど前だと推測されてる。2時間前、巡回任務中に同僚、一般人合わせて5人程に___』


 ハルさんが表示された情報を読み上げていく。

 そう言えば鬼人については何もわかってないって、カグツチさんが言ってたっけ。

 鬼人は成るものなのか、それとも人為的な影響を与えられてなるものなのか。

 私達が鬼人を捕まえていけば、いずれわかるのかな?

 まぁ私が考えても仕方ないか。


 『ハル、そいつの現在位置は?』

 『今同じ巡回任務中だった第5分隊と偶然鉢合わせて交戦中みたい。というかもう着いた』


 ブリーフィングを聞いていると、前方では何か爆発音のような音がなり響いていた。

 ハルさんはもう着いたって言ってたけど、もしかしてあそこ?

 そこは中心部から少し離れた住宅街で、戦っている保安隊以外にあまり人気が無いので、もう人払いは済んでいるようだった。


 『降りるよ、天』

 「は、はい」


 私は徐々に高度を落としていき、目的地より少し離れた場所で静止して降下する。

 戦場が見渡せる近くの住宅の屋根に着地した。

 交戦の様子を見ると、保安隊の方は2名ほど戦闘不能状態になっており、肝心の鬼人の方はまだまだ余力はあるようで、第5分隊の周囲を駆け回り翻弄していた。

 どうやらあの鬼人、私が試験の時に遭遇したあの子でいう腕輪が壊れた後の暴走状態にあるようだ。


 『雪羅、俺はまだ到着するまでに時間がかかる。2分くらい時間を稼いでくれ』

 「了解」

 

 鬼人が第5分隊に飛び掛かろうと一瞬力を溜めている隙に、横から膝で腹のあたりを強く蹴った。

 鬼人は少しのけ反った後、後方に飛んで体勢を立て直した。

 保安隊の人達は、私を見て特命課だと判断したのか、怪我を負った仲間を抱えて撤退していった。


 『天、事前に説明した通り、鬼人は基本的に殺さず捕獲する。あと戦闘は研究の為に記録するからよろ』

 「わかりました」


 脳が冷却され、思考が研ぎ澄まされる___


 「特命課雪羅天、戦闘を開始します」


 私は今持っている唯一の武器であるくないを構えた。

 ついさっきまでは、人の動きをしていた鬼人は、私が武器を構えたのを見て手を地面についた。

 鬼人が私に向かって四足歩行で駆けだす。

 私は魂能で地面を凍結させ、鬼人がうまく走れなくなった瞬間に低空飛行で接近し、頭を掴んで思いっきり腕を振って空中へ放り投げた。

 空中で身動きが取れなくなっている鬼人に、くないを投げて追撃した。

 くないは鬼人の右腕に突き刺さった。

 遂には重力に逆らう力も無くなったようで、凍っている道路の上にバンッと音を立て自由落下した。

 体が頑丈な鬼人もダメージを負ったみたいだ。

 よろよろと起き上がっているのがその証拠だろう。

 もはや理性が働いていないのか、右腕がくないにより血が噴き出しているにも関わらず、明らかに無理をして四足歩行をしようとしている。

 私は鬼人の真上から、その後頭部をかかとで思いっきり蹴った。

 すると全身から力が抜けたように地面に倒れ伏した。

 気絶したようだ。

 鬼人とは言え後頭部からの強力な衝撃には耐えられなかったらしい。


 脳に熱が戻り、思考に靄がかかる。


 『それじゃ、拘束しよっか』


 ハルさんがそう言うと、肩に乗っていたクモ型ロボットのちょうどお尻の辺りから糸が出てきた。


 「こ、これでですか?」

 『そだよ。...別に汚くないよ?』


 なら安心か。

 私はその糸を使って鬼人の手首と足首を縛った。

 ふぅ、初任務終了...かな。


 「ハルさん、この後どうするんですか?」

 『それはカグツチに聞いたら?』

 「あー、そういえばあの人どこにいるんですか?」

 「お前の後ろだ」


 振り向くと、そこには若干不貞腐れてそうな顔をしたカグツチさんがいた。

 途中カグツチさんの事忘れてた...

 時間を稼いでくれって言われてたけど、終わっちゃった。

 

 「俺要らないじゃん」

 「確かに」

 「普通こういう時は、そんな事無いですよ〜とか言って慰めるもんだけど?」

 「えーカグツチさんは新人に慰めを求めるハラスメント上司っと。メモメモ」

 「シャレにならないからやめろ」


 カグツチさんはため息を吐いてから、私が縛った鬼人を持ち上げ、布で隠した。


 「それじゃ、行くぞ」

 「行くぞってどこに?」

 「ああ、言ってなかったっけ?技術部にコイツを届けに行くんだ」

 「なるほど。カグツチさん、その布もう1枚ありますか?」

 「あるぞ」


 カグツチさんから1枚の大きな布を、マントの様に羽織った。

 頭もフードを被る様にして隠した。

 捕獲するって聞いて、牢屋にでも入れるんだと思ってた。

 でもそうか、まだ鬼人について何もわかっていないから、技術部で解析か何かをしてるんだろう。

 カグツチさんはそれを抱えたまま、管理局の方へ歩き始めた。


 「あのー、すみません。カグツチさん、乗り物は?」

 「え、走って来たから無い」

 「はい?」


 走って来た?

 聞き間違いかな?

 普通に管理局からここまで2kmくらいあるんだけど。

 私は飛んできたから2分くらいで来れたけど、私より遅かったとはいえ、どうやってこんな早く来たの!?


 「カグツチさんよくこんな早くに来れましたね!?」

 「まぁ頑張れば車と同じくらいの速度は出るからな」

 「...頑張れば?カグツチさんの種族って...」

 「霊人だけど」

 「ハハハ、面白い冗談ですね」


 何というか、ヤバい人が上司になってしまった。

 そのまま私とカグツチさんは歩いて管理局まで帰った。

 かなり強く蹴ったからなのか、気絶した鬼人が再び目覚める事は無かった。

 私達が管理局に入ると、中にいたほとんどの人視線を浴びた。

 まぁ、謎の布に包まれた物を抱えた二人組が入って来たら気になるよね。


 「カグツチさん、他に技術部に向かう方法無かったんですか?」

 「いや、俺も最初に言ったんだよ。そうしたらあいつら、考えときますの一点張りでのらりくらり躱されるんだ」

 「でもこのままじゃ鬼人についての情報が漏洩しかねないですよ?アマテラス様に言ったらいいじゃないですか」

 「はぁ、あいつら自分の領域に謎のこだわりがあるからアマテラスが言っても拒否られるんだよ」


 えぇ...

 じゃあもう無理じゃん。

 私とカグツチさんは地下1階用のエレベーターに乗った。

 これ、特命課用のじゃない?

 カグツチさんはエレベーターのかご操作盤の下にあったタッチパネルに何かを打ち込んだ。


 「それ何ですか?」

 「ここにパスワードを打ち込むと、鬼人研究施設につながるんだ。あとでお前にも教えないとな」


 動き始めると、いつもよりも長い時間かごが下へ動いた。

 どんな所なんだろう?

 かごの動きが停止し扉が開くと、とても薄暗い空間が広がっていた。

 よく見ると、大きな通路があり、その左右に鉄製の扉が付いた部屋が沢山あった。

 カグツチさんはこの薄暗い道を迷いなく歩み進めていく。

 なんだかここは薄気味悪いので、私はカグツチさんのそばからできるだけ離れずについて行った。


 「俺たちの任務は鬼人を捕獲した後、ここに持ってきて技術部長に渡せば任務完了だ」

 「わかりました」


 30秒程歩くと、正面に大きな扉が見えてきた。

 物凄く頑丈そうな鉄の扉だ。

 カグツチさんは、エレベーターの時と同じ様に、そばにあったパネルに何かを打ち込んだ。

 するとその大きな扉が開いた。

 中は外と比べ物にならないくらい明るく、沢山の光源に照らされた人が1人立っていた。


 「よう、持ってきたぞ」

 「そこの簡易牢に入れておいてくれ」


 その女性は、手元でしていた作業を中断して、こちらを振り向いた。

 どうしてここに、この人が居るんだ?

 ここに居るなんて聞いてない。


 「久しぶりだな、天」

 「うん、久しぶりだね。”おばあちゃん”」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ