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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

変身できる洗濯機

某県某所のとあるコインランドリーにある洗濯機には不思議な話がある。

その洗濯機に300円を入れた後洗濯ボタンを3回、乾燥ボタンを4回押し、スタートボタンを16秒長押しする。そして蓋を開ける。すると不思議な事が起きる

そんな話がまことしやかに伝えられている。

その「不思議な事」については何なのかは詳しくわかっていない。


しかし口伝にて伝わるわずか情報によると

―――別の誰かに変身することができるらしい。


「はあ……」

洗濯物の入った袋を右手に持ちながら男はため息をついた。

仕事も終わり、疲れた足を引きずるようにしてようやく家から出てきたところだった。

「……めんどくせー」


洗濯というものは面倒だ。

その上ここ最近なにもいいことがなく、仕事で体力と精神をすり減らしている男にとってはなおさらだった。

不気味なほど暗い住宅街を重い足取りで歩く。

腕時計の針は0を指している。

さすがにこの時間になって外出するものはおらず、しんとしている。

歩いて2分ほどでコインランドリーに着く。

年季の入っているはずだが掃除は行き届いており、清潔感は損なっていない。

家から近いということもあり男はよく使用していた。


今日もいつものように洗濯物を取り出し、洗濯機の中に入れようとする。

(そういえば……)

男はとある噂を思い出し手を止めた。


男が小さい時に誰かから聞いた噂。誰が言ったかは生憎と忘れてしまったが、内容は今でも覚えていた。


―――別の誰かに変身できる洗濯機がここのコインランドリーがあるらしい。



子供のころは怖かったものだが、大人となった今ではバカバカしさすら感じる。

しかし男はバカバカしさを感じつつも、やってみることにした。

好奇心ではあるが、こんな人生は続くならいっそ他人にでもなってみよう。

そんな気持ちも多分に含まれていた。


手順を思い出しながら、順番通りに行う。

300円を入れ、洗濯ボタンを3回、乾燥ボタンを4回押し、スタートボタンを長押しする。

1秒、2秒、3秒。

男以外には誰もいないランドリー内には静寂が響きわたる。


7秒、8秒、9秒

天井では全体を照らすには少し弱弱しい蛍光灯が煌々と煌めいている。


14秒、15秒、16秒、

手を離す。

閉じた扉の向こうでは暗闇が広がっている。


男は扉を開け、待つ。

目を閉じ、座り込む。

淡々と時間は流れていくが特に体に異常や変化は感じない。


1分ほどたったころ男は漸く目を開けた。

特に変わったところはない

「なんて、変わるわけねえか」

苦笑しながら男はつぶやく。

こんな都市伝説を信じるなんて、我ながら恥ずかしい。


男が改めて立ち上がろうとしたときだった。


突然開いた扉の向こうからしわだらけの手が4本伸びてきた。

その手は呆然とする男の身体をつかむとすさまじい勢いで洗濯機の中に引きずりこんだ。

悲鳴を上がる暇もないまま中に入れられると、扉が閉められ、そのまま洗濯のランプが点灯し、音を立てて動き始めた。


3分ほどたち、洗濯機が動きを止め。扉が一人でに開く。

そこからつばを出すように、男が吐き出された。

しかし。そこにいたのは先ほどまでの男ではなかった。


洗濯機から吐き出されたのは、男の隣人だった。


隣人はしばらくぼーっとしていると、はっと我に返る。


「あれ、なんでここに……ってそうか」

すっと立ち上がると歩き出す。

突然コインランドリーにいる。そんな状況に驚く様子もなく。


「散歩中だった」

まるではじめからここにいたかのように淡々と、歩き出した。


数日後。

隣人の家に警察が尋ねてきた。

なんでも隣の家の男が数日前から忽然と姿を消しているらしい。


(あんまり関わりなかったけど……無事だといいな)

そう思いながら、隣人は自分の生活に戻っていった。








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― 新着の感想 ―
 コインランドリーに限らず、日常的に使う施設ではなにか不思議な噂があったりしますよね。小さい頃にそういう噂を聞いたな、とふと思い出すこともしばしば。  「人物が入れ替わり、その人物が消えてしまう」とい…
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