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第9話 尊み秀吉、まじカオス。

「んで、俺に魔法を教えて欲しいって話だけどな。…教えてやってもいいぞ。」

「本当ですか!ありがとうございます!!」

 

 彼の一挙一投足を見入って思わず顔がニヤけてしまう。多分、私は今とてつもなく気持ち悪い顔をしている気がする。

 

「…お前…、本当に変な奴だな。」

「自覚はしてますけど、そんなしっかり2度も言わなくても…。」

「…変な奴同士、案外うまく行くかもな。」

 

 彼はそっぽ向きながらそう言う。その様子を見てどうしてか感じた。自分の直感で

 

「…あの、もしかして照れてます…?」

「…は!?」

 

 今度はわかりやすく頬を紅潮させ図星を突かれたように目を見開いて驚く。その様子を見て私は胸がギュンッと持っていかれた。うん、これはあれだ。尊いってやつだ。好きとかそんな単純なやつではない。自分とは全く違う尊い生き物を見るとこう言う感情が湧くんだろう。まだ会ったばかりだけれどきっと彼はいい人だ。私が…理不尽な目に遭わず幸せになって欲しいと常々思っている’’いい人’’。それが一瞬で今、分かった。『尊い』という衝撃波によって私は感情を抑え込んで悶えてしまう。

 

「うっせぇ。んな訳ないだろ、ボケ!」

 あっ、すっごい。もう尊いの過剰摂取で致死量超しそう。

 

「…っふー…。すみません。」

「…お前大丈夫か?主に頭。」

「すっごいズケズケ言いますね。初対面なのに。」

「お前こそカッケェェェて奇声あげたじゃねーか。一瞬何かが取り憑いたかと思ったぞ。」

「取り憑っ…。いや、まぁそうですけど、あれはなんていうか発作のようなものというか。」

「あれを見たら誰だって遠慮とかどうでも良くなる。それにそもそも元来、俺は他人に対して猫を被ったりしない。言いたいことは言う主義だ。」


 思い返してみて思った。ヴァルさんもラミオンさんもセレナもこの世界に来てから出会う人はいとも簡単に私の領域に入り込んでくる。私が入れようと思った訳ではなくいつの間にか隣にいるようなそんな感じがする。かつてそんなことがあっただろうか。前の世界では素を出して喋れるような人間はいても自分の周りに壁を作ってそこから先は誰も入れていなかった。でも、異世界に転移すると言う衝撃の体験をしたからなのか最初からその壁がなくなっていたような気がする。これは神様が与えてくれた自分の悪癖を治すチャンスなのかもしれない。


 私がそんなことを真剣な顔をして考えていると自分の言ったことに私が傷ついたのではないかと彼は申し訳なさそうな顔をする。慣れていないのかなんだかぎこちない。


「おい、…あぁ!悪かったよ。…変な奴ってのは別に、悪口じゃあねぇからな。」

 無理。尊み秀吉。一見気難しい性格なのに気遣いできるとか私を殺しにかかってる。

「死にそう。」

 『え?!』


「お前弱すぎだろ…なんもしてねぇぞ俺。マジで大丈夫か??」

「いや、逆にHPがカンストして死にそうっていうか?供給がすごくて理解が追いつかないっていうか、萌えの過剰摂取?」

「ちょっと何言ってるかわからないです咲夜様。」

「うん。だろうね。ごめん。」


「よくわかんねぇが、いつからが良い。どうせ暇も同然だ。なんなら明日からでも…」

「ぜひ!!明日から!!!!」

 食い気味にそう答える。

「お、おう。」


「…咲夜様!お話が終わったのでしたらパーティーに戻りましょう!せっかく、いろんなスイーツが沢山用意されてますし!」

「…えぇそうですね。それに他の国の救世主様との交流も大事ですし。戻りましょう。」

「え?あ、うん。そう、だね。」

 なんだか2人の様子が変なような気がした。この場から離れさせようとしているような…。


「……。」


 とりあえず私は賑やかなパーティー会場へと戻る。

「お腹すいたしちょうどいっか。セレナ、あそこのスイーツ食べに行こ!」

「はい!」


 また仮面を付けて、会場を後にしようとするラミオンさんの腕を掴む。

「ラミオンさん、貴方も一緒にどうです?」

「!…お前は抵抗もなく俺に触れるんだな。ありがてぇお誘いだが俺はここには場違いなようなんでな。」

 そう言って、周囲の人たちに軽蔑の目を向けながら腕を払い去っていく。その背中はなんだか寂しそうだった。


「…一緒に食べたかったな…。」

「…咲夜様。どうぞ、こちらのスイーツおすすめですよ。」

「こっちもどうぞ!咲夜様!」

「あ、うん。ありがとう。」


 彼には悩みを打ち明けられるような存在はいるのだろうか。小さな愚痴さえ、吐き出せず彼の中に積もってしまっているような気がしてならない。甘いスイーツが寂しい感情を引き立てる。



 パーティーが終わった後、部屋に戻るとしっかりと湯船に浸かり体を癒した。明日から始まる魔法の特訓、私は布団の中で期待に胸を高鳴らせて眠りにつく。





 翌朝、少しでも綺麗にしていこうと髪の毛を整えているとセレナが頬を膨らませながら鏡をのぞいてくる。

 

「随分とおめかしするんですね。」

「うーん、おめかしていうか視界に入れる以上は少しでも不快にならないようにと思って。」

「…咲夜様はいつも可愛いです。…どうせなら私にやらせてください!」

「おぅ、あ、ありがと。」

 

 スチャッとメイク道具を構え、私の顔に優しくひいていく。自分でするのとは違って薄めのメイクだったけれど、少し、一瞬、心なしか自分の顔が綺麗に見えた。


 準備が終わって、部屋を出ると部屋の外にはちょうどノックしようとしていたヴァルさんが立っていた。

 

「ヴァルさん!どうしたんですか?」

「今から魔法を習いにラミオン様の所にいかれるんですよね。…私もご一緒します。」

「え、でもいいんですか?私に付き合わせちゃって。」

「えぇ。そもそも私は貴方の担当ですから。是非同行させてください。」

「え、あの!じゃあ私も一緒に!いいですか?」

「もちろん、いいよ。」


 王宮の屋敷の裏手にある修練場に向かう。流石王宮という感じで修練場の広さも尋常じゃない。近衛騎士用、魔導士用、救世主用と3種類も設置されている。

 

「王宮もかなり広いですけど修練場も広いですね。」

「王宮には咲夜様も含め、貴い方が多くいらっしゃいますから騎士等の育成については出し惜しみしません。」

「でも、救世主用とそれ以外の修練場を分けるのは分かりますけどなんで、近衛騎士と魔導士の修練場も分けてるんですか?」

「訓練内容や必要な設備が違いますからね、分かれていた方がお互いやりやすいんでしょう。合同訓練をすることもありますよ。」

 「なるほど、確かにそうですよね。」

「まぁ、別の理由も少なからずありますけど…。」

「え?別の理由って?」

「あ、いえ。なんでもありません。」


 ヴァルさんは呆れたような苦笑いを浮かべる。近衛騎士と魔導士の間に何か確執でもあるのだろうか。気になりはしたが彼の様子からして面倒臭い予感がしたので流して、救世主用の修練場に移動する。

「咲夜様専用の修練場は一番右奥のこちらですね。」


 修練場にはまだラミオンさんの姿は見えなかった。キョロキョロと彼の事を探していると


「遅れて悪かったな。」


 後ろから覗き込みながら耳元でそう言われると私は限界突破した。垂直に飛んで奇声を発する。

「ぎょえっ!!!!!!!!!!!」

『うおっ!!』


 私の奇行に3人とも驚いたようで唖然としている。

(やばいな。私、ラミオンさんと知り合ってから奇行しかしてない気がする。)


「わりぃ。まさかそこまで驚くとは…。そりゃこえーよな。」

「いや、怖かったんじゃなくてただ、ラミオンさんのあまりにも素敵な顔面が至近距離にあったので少しばかりびっくりしてしまって。」

「少しばかり…??…てか、オリファスで良い。」

「え?!いやでも…」

「嫌だってか?」

「呼ばせていただきます。」

 

 怖がられてると気を使う割には圧が凄いという矛盾が生じているがこれはもしや心を開いていただけているという証拠なんだろうか。


「今日からよろしくお願いします。オオオオオオオオ、オリファスさん。」

「オが多いな。」

「すみません、まだ慣れなくて。」


「…こいつらのことはいつも名前で呼んでんのか?」

「私は会った時からヴァルさんと名前で呼んでいただいていました。」

「私は、セレナと呼び捨てで呼んでいただいています。」


「…へぇ?」


「あ、あのぉよく分かんないけど練習始めません??」

「あぁ、その前にこれを渡す。」

「?これは?」


 細長い箱を手渡される。中をそっと開けてみるとそこには杖が入っていた。

「これ、もしかして魔法の杖!」

「あぁ、お前専用の杖だ。この杖は持ち主によって形を変える。」

「?でも持ってみても変わりませんよ?」

「まだ魔力を注いでないからな。」

「ま、魔力?…ふんっ!!」

 魔力をどうすればそそげるのか全くわからずとりあえず力んでみたが変わらなくて私は顔を真っ赤にする。

「…まずはそこから教える。」


 ひとまず杖をヴァルさんに預ける。


「まずは魔力がなんなのか感覚を掴むために俺の魔力をお前に注ぐ。」

「…すみません、その役目は私にさせていただけないでしょうか。」

「…その必要はない。心配しなくても危険はない。」

「…すみません。」


 2人の間にピリピリした空気を感じる。2人とも怪訝な顔して、お互いに目を合わせないようにしているようだ。


「じゃあ、目を瞑って今から流すものを意識してみろ。」

「はい。」


 目を瞑り、深呼吸をする。オリファスさんが私の手を握るとそこからあたたかいものが流れ込んでくる。

「あったかい…。」

「それが魔力だ。今度は自分の魔力を体内で循環させてみるぞ。俺の目で確認するから言う通りにやってみろ。」

「はい!」


「目を瞑って深呼吸をし、心臓から魔力を流すように意識しろ。」

「スゥーーーーー」

 胸の奥、心臓の鼓動を感じる。ドクン、ドクンとそのリズムに合わせて魔力の波が溢れてくる感覚があった。

「今は魔力が垂れ流しになっている状態だ。今度はそれを無駄なく全身に循環させる。心臓から左手、左足、右足、右手、頭、心臓と順番に意識してみろ。」


 言われた通り、順番に集中して意識を流す。周りの雑音を遮断し、自分の体の中だけに意識すると先刻感じたあたたかいものがじんわりと全身を巡っていくのを感じた。


「うまいぞ。ちゃんと巡ってる。…目を開けてみろ。」


 ゆっくりと目を開けると至近距離にオリファスさんの顔が見えた

「っつ!!??」

 「…魔力が乱れたな。」

「あ、当たり前じゃないですか!目を開けた瞬間に目の前で見つめられてたらびっくりしますよ!!」

「まぁそうだな。でもそれはまだ魔力循環を意識して行なっているからだ。無意識的にできるようになれば感情で乱れることはない。」

「なるほど…。」

「んじゃあ次は、さっきの杖に魔力を流してみろ。」


 どんな形に変わるのか期待に胸を膨らませて杖を握る。


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