第8話 ついに邂逅、国一番の魔導師。めちゃくちゃドストライク?!
パーティーが始まって王の挨拶が終わった後、私も含めた25人の救世主、御付きの聖職者が前に出る。オリヴェンシア国の救世主としてまずは私が初めに王へ挨拶をする。ヴァルさんに倣った通り挨拶をすれば大丈夫と言い聞かせるも緊張で体がこわばってしまう。力を振り絞って声を出す。
「オリヴェンシア国王陛下、お初にお目にかかります。この四月朔日 咲夜、ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じ奉ります。恐れ多くも、陛下の御前にて御挨拶申し上げますこと、この上ない光栄に存じます。」
「貴方のような人が我が国の救世主とは心強いばかりだ。」
「過分なお言葉、身の引き締まる思いにございます。未だ至らぬ身ではございますがそのお言葉に報いるべく尽力して参ります。」
「うむ。」
その後、25人の救世主が順番に挨拶をする。新しく救世主が入れ替わったのはここオリヴェンシア国、さっき話した藤原さんが召喚されたコンフェリス国、そしてフロストハイム国、アルメシア国の3国のみで他の22ヵ国は前の召喚から27年しか経っていないのもあって存命の方が多いものの、ほとんどの人が40歳を超えている。枯れ専のケがあるので私的にはちょっと嬉しい気もするが…。
25人全員の挨拶が終わり、オリヴェンシア国以外の各国の王族へ挨拶回りも終わった頃にはもうヘトヘトで席に着く。
「疲れました…。25ヵ国の王族の方に挨拶するのは流石に大変ですね…。」
「お疲れ様です!咲夜様。」
「あの…そういえばさっき、ひとつだけ通訳のいた国がありましたよね?どうしてあそこだけ?」
「あぁ、ソルヴェイラ国ですね。我が国が大国ということもあり、昔から多くの国がオリヴェンシア語を使っていますが、オリヴェンシア国から遠い国はその国独自の言語を使っています。とはいえ、王族の人間であればオリヴェンシア語を必ず、習うのでソルヴェイラ国以外の方は喋ることができるのですが…。ソルヴェイラ国の方々は特殊な身体構造のためオリヴェンシア語を喋ったり理解することが難しいんです。」
「特殊な身体構造、ですか?」
「えぇ、ソルヴェイラ国の人々は亡くなると全身の魔力が凝縮し、身体が’’魔石’’に変化するんです。魔石があれば、魔力非保持者でも魔法仕様が可能になりますし、魔法の威力を倍増させることもできます。魔石化する特殊な身体構造とあってか独自の言語を使っており、それ以外は発音しようとしても上手くできないそうです。」
「なるほど、つまり勉強不足とかそういう問題じゃなくそもそも言語器官の構造から不可能に近いということですね。」
「そういうことです。ですのでソルヴェイラ国の方が視察に来られる時は必ず通訳者が同行するんです。」
「…なんだか…不便そうですね…。」
パーティーも終盤に差し掛かり空も薄暗くなってきた頃、顔に黒いベ仮面を付けた身長が高くガタイの良い男が会場に入ってきた。その男の身長は推定2メートルはあり、その迫力に会場の誰もが圧倒されていた。
「ヴァルさん、あの人は…?」
「…あ、あの人が最初にお話しした国一番の魔導師、オリファス・ラミオンです。彼の弟さんは魔導士で咲夜様と会ってもらう機会を取り付けてもらったのですがまさかこのパーティーにいらっしゃるなんて…。」
「ん?彼’’も’’魔導師じゃなくて?」
「魔導師と魔導士は少し違います。魔導師は独立しており、独自で魔法の研究をしている人間で魔導士は王侯などの命令で魔法を使う者を指します。」
「じゃあ彼は組織に属して無いんですね。」
「実力がありすぎるが故に国は彼を持て余しているのですが他国に渡られて影響力が変化することを恐れて結局は自国に留めておくしかないと国王は一応王宮に勤めさせているんです。」
「…そう、なんですか。(目の上の瘤扱いてことか…。)」
彼がどんな性格かはわからないが国が持て余すほど強く、身長も2メートルほどあり、褐色肌、気難しそうな雰囲気というだけで割と自分の性癖フルコンボなので今から期待値が跳ね上がってしまっている…。現実的に自分が恋愛対象として見たことがある人は今までいなかったけれど、漫画やアニメなどの創作の世界の中ではいわゆる人外キャラを好きになることが多かったのでそういうアンテナが彼に働いたような気がした。
彼のことをじっと見ているとそんな私に気づいてようでだんだんと近づいてくる。
「…お前か?俺に会いたいと言った変な奴は。」
「そうですけど…。変なやつって…。」
「ここでは周りの人間の視線がやかましい。あっちの部屋へ行くぞ。」
「は、はい」
好奇の目にさらされることはどれだけ時間が経とうと、慣れることは無いだろう。彼にとってこの場はきっと地獄でしか無い。召喚されたあの日、ヴァルさんと話した部屋へと入る。
「…お前は俺に魔法を教わりたいらしいな。」
「…えぇ。貴方が国1番の魔法使いだと聞いたので。」
「そうだな。確かに魔法に関して俺の右に出るものはこの国にはいないだろう。」
「忙しい方だと伺っています。私に時間を割きたくないということであれば断っていただいても構いません。」
「忙しい、ね。別に大した仕事は割り当てられていない。俺は邪魔者なんでな。それに教わりたくないと思うのはお前の方だ。」
「…え?」
彼は仮面をゆっくりと取る。露わになった顔を見て絶句する。あまりにも、あまりにも…!
「か、か、」
「…。(怪物、か?)」
「カッケェぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
『…は????』
思わず奇声を上げてしまった。いや、だってカッコいいんだもん。吊り目で綺麗な黒目が7つあるんだもの。ドンピシャだよ、ドンピシャ。これで、人気者じゃないの?この人が知らないだけで実はめちゃくちゃモテてるんじゃないの?え、私が変なの??私の趣味がニッチなのか??周りの人間の反応を見る限り恐らくこの世界において彼に対して私のように考える人は少数らしい。でも、彼が私達の世界に居たら絶対にモテる。特にオタクならそうだろう。
「…カッケェってお前の鳴き声か??」
「いや、違いますよ。んなわけないでしょ。」
「あ??」
血管がはち切れんばかりのものすっごいガンを飛ばして来る。そこまで怒らなくても…。
「…あ、いや、すみません。気持ち悪いかもしれないですけど、ついカッコいいと思ってしまいまして…。」
「カッコいいだ?俺にゴマすったって得なんてねーぞ。」
彼は目を見開いて私の顔を覗き込む。黒い瞳が紫色の光を帯びる。
「はい?あの別にゴマをすった訳では…。」
「…嘘をついてねぇ…?いや、そんな訳がない。…何が目的だ。」
「え、はい?目的??私は純粋に思ってことを口走っただけで…。」
「…禁忌魔法でも教えて欲しいのか?テロでも企んでるのか?百歩譲って本当にそう思ってんだったらカッコいいと思った理由を言ってみろ。」
このビビーン!!とくる感情をうまく表現できるかどうかいささか自信がなかったが、私は全身全霊で彼の魅力を伝え始める。
「2メートルはあるであろう身長、綺麗な褐色肌、透明感のある銀髪、均整の取れた筋肉、吊り目で吸い込まれるような魅力的な黒目!!!!それが!!
7つも!!!!!!!!!!!貴方を構成する全てが!!!カッコいいですっ!!!!!!!」
興奮しながらババーンと突きつける。あまりの豹変っぷりにヴァルさんもセレナも唖然としている。ラミオンさんも想像していた返答と違ったようで目を見開いていて、うん、カッコかわゆい。
(あれ…?これ、私今めちゃくちゃ気持ち悪いのでは…???ヴァルさんとセレナに引かれるのでは…????)
言い終わってから冷静になった。
「あ、あ、あのぉ…。……すみません。」
「お前…変な奴だな。本当に嘘をついていないようだし。」
「いや、あの、…はい。た、確かに変なのは否定できませんけど…。て、なんで嘘ついてないってわかるんです?」
「俺の7つの目のうち5つにはそれぞれ能力がある。魔力量測定、千里眼、透視、視縛、そして’’感情色別’’だ。」
「感情…色別…。つまり感情が見えるから私が言ったことが嘘ではないとわかるんですね。」
「あぁ、そうだ。初め、感情色別の目で見たがにわかには信じられなくてな理解が追いつかなかった。こんなことは初めてなんでな。」
「いろんな目があって疲れそうですね。体に影響はないんですか?」
「確かに目の能力を使用すれば疲労するが、常に全ての目を使っている訳では無いし、意識的に使わなければ日常生活にはなんら支障は無い。」
「へぇ…。」
彼が国一番と言われるのは魔法だけではなく目の能力があるからというのもあるのだろう。
「あの…、咲夜様。貴方は彼がその、理想のタイプなんですか?」
後ろに立っていたヴァルさんが戸惑いながら聞いてくる。どうやらセレナも同じ質問をしたかったようで私の返答をじっと待っている。
「うーん、タイプ?なんですかね…。自分でもよくわかりません。推しに近いような…。」
『お、推し??』
’’推し’’という概念を的確に説明できるほどのボキャブラリーを持ち合わせていない。なんと説明すれば良いのやら…。
「うーん、、、、推しと好きな人の違いは見返りを求めているかいないかの違いですかね?多分。自分の好意に対して見返りを求めないのが「推し」、求めるのが「好き」ってことなんだと思います。」
『な、なるほど…?』
二人は納得したようなしないような、まぁ恐らくニュアンスは伝わっただろう。推し云々の前に、もはや容姿に自信がなさすぎて、自分のことを人間だとは認識していないまである。好きになっては迷惑がかかると感情にブレーキをかけてきた。おかげで、好きになるという感情がわからなくなってきている。