第30話 第一王子との邂逅
セレナにエリスちゃんとアストリウスさんを部屋まで送ってもらい、魔道具を作るにあたってヴァルさんとオリファスさんと私でソルヴェイラ国から大量に届いた第四種魔石の仕分けから始めることになった。
「咲夜様は休んでいただいていても構いませんよ?魔道具のデザインもあるでしょうし。」
「絵を描くこと以外能がないし、あまり役立てないことはわかっているんですが出来る限り頑張りたいんです。色々な事を覚えていきたいですし。今回は強制循環魔法を軸にして、それを自動制御するための補助魔法を組み込んで魔道具を作るんですよね?」
「あぁ。」
オリファスさんがふたつの魔石を手にとる。
「確か昨日、シャドウィスと魔導ケトルを作ってたよな?そん時に魔石の見分け方は教わんなかったのか?」
「魔導ケトルを作った時はシャドウィスさんに魔石を選んでもらったので見分け方は教わりませんでした。魔道回路の接続も手伝ってもらった…というかそこのところはほとんどシャドウィスさんがやってくださったので…」
「じゃあこれから先、一人でも作れるように改めて初めから説明してやる。」
「ありがとうございます。」
オリファスさんがふたつの魔石を手にとってヴァルさんに手渡す。
「え」
「あとはお前が説明よろしく。」
「…もしかしてオリファスさん、わからないんですか?」
私がそういうと図星を突かれたようにピクッと動き、目を泳がせる
「…別に全く知らないわけじゃない。それに俺はわざわざ魔石なんて使わなくともあらゆる魔法が使えるからな。深く知る必要がなかったってだけだ。」
「…まぁ王宮に勤める他の魔導士の方々は研究されていますがね。盛んに行われているのは主に第一種魔石や第二種魔石のみですが。」
「俺は魔導’’師’’だからな。」
オリファスさんに呆れながらもヴァルさんは魔導回路を可視化するため、魔石に対して呪文を唱える。
『『プロイェッタ・イル・チルクイト・マージコ(魔導回路を投影せよ)』』
魔石が光り、空中に魔導回路が表示される。回路といっても第4種魔石のため現段階においては二つの点が表示されているのみだ。
「こっちは火属性の魔石でこっちは風属性の魔石です。今、二つの魔石の魔導回路がそれぞれ投影されていますが、こんな風にして…」
魔導回路を指で触れて動かしもう一つの魔石の魔導回路と繋げる。すると二つだった魔石が一つに合体する。
「この状態は二つの魔石を一つの基盤にまとめただけでこのままだとまだ発動することはできなません。」
「魔導ケトルの時もシャドウィスさんがこんな感じのを色々いじっていましたけど何をどうしているのか全くわかりませんでした…。」
「魔導ケトルを作る際に使ったのも火属性の魔石だと思います。」
「確か、魔石に対して火魔法の呪文を唱えるだけでは使えないと言ってましたけど…」
「厳密にいうと火を起こすことはできます。魔石は魔力の塊ですからね、燃料として捉えれば燃やすことはできますが、一度使うと燃え尽きてしまいます。火属性の魔石といっても火魔法関連と相性が良いというだけでこの魔石のみで火魔法が発動できるわけではありません。」
今ある二つの点はそれぞれの魔石の入出力端子と言ったところだろうか。
「あの、シャドウィスさんが魔導回路をいじっている時も側で見ていてんですが何をどう繋げているのか全くわからなくて…多くなればなるほどわからなくなりそうなんですが…」
「魔導回路に付与された文字情報は、最初に魔導回路可視化の呪文を唱えた者のみが通常視認できるんです。それ以外の者は、鑑定魔法を用いない限り情報を視認できません。だから、側から見たらわからないのは当然です。」
「なるほど…」
複雑で高度な魔石を作っても一番最初に作った人間にのみ複製が可能と言う点はあらゆる面で安心と言える。
「では、説明しながら咲夜様も同時にやってみた方がわかりやすいかもしれませんね。」
ヴァルさんが二つの魔石を手渡してくれた。私は先ほどヴァルさんが唱えていた魔導回路可視化の呪文を唱え、二つの魔石の魔導回路を繋ぎ合わせる。すると先ほどは視認することができなかった文字情報を視認することが可能となった。
「これなら、わかりそうです。」
「では、進めていきますね。今回は火魔法を放出する魔石を作りましょう。」
「はい。」
積み上げられた本の中から二冊の本を取り出しパラパラとページをめくり、開いて私に見せる。本には火魔法と風魔法について書かれていた。
「基礎魔法を練習した時にも使った火魔法と風魔法です。火球を的に当てる練習をしましたよね?これをまずは基盤に刻み込みます。刻み込みたい魔法の前に『『インシーデレ・シルクイトゥス(回路に刻め)』』と唱えます。」
ヴァルさんは魔導回路の基盤に手をつける
『『インシーデレ・シルクイトゥス(回路に刻め)』』
『『フォーコ・フォルマーレ(火を形成せよ)』』『『ソフィアーナ(吹け)』』
すると基盤が光り、回路が刻み込まれる。
「こんな風に刻み込んだ後は上の2点と接続します。そこまで難しくはなかったでしょう?」
「はい!これなら私でも作れそうです。」
「これで『『アクティヴァ(発動せよ)』』と唱えれば火球を放つことができます。ただ、魔石に含まれる魔力を消費して発動するのでそれが尽きれば発動できなくなります。」
「魔力の補充が不可能なために第四種魔石は重要視されていないんですか?」
「いえ、魔力の補充は可能なのですが、そもそもこのような魔石を必要とするのは魔力の生成が不可能な魔力核を保持していない人々がほとんどで、保持している人は必要としないですからこの世界ではあまり重要視されていないのです。」
「そう、なんですか。」
流石の私でも想像できる。
私としてはそういう人達のために、もっと活発に研究すべきだと思うけれど、想像していたよりも制作が簡単であるにも関わらず重要視されず、普及していないのは、上流階級の奴等が恐れているからだろう。
第四種魔石が普及すれば「魔力を持たない者でも魔法が使える」ということになる。その上、生まれ持っての魔力許容量の差を埋めることができるとなれば、身分制度が揺らぐと考えているに違いない。
社会秩序の維持のため、実力に伴った身分を与えることに関しては私も異論はない。しかし、世襲制というのは肯定し難い。能がないにも関わらず、甘い汁を啜ろうなどという考え方には嫌悪を抱く。
十九にもなってバイト経験のない親の脛齧りだった私が、そのような憤慨をする権利は持ち合わせていないというのは重々承知だが。
「ま、命に関わる魔道具を作るってんだから強制循環の魔石に関してはこいつに任せた方が良いと思うぞ。お前じゃなんかやらかしそうだし。」
「オリファスさんに言われたくないです!」
「咲夜様を侮辱するような発言は謹んでください。この魔石が火を吹きますよ??」
「へい、へい。」
第四種魔石に関して研究を進めれば、元の世界のデジタル機器を再現するのも不可能ではないかもしれない。ものづくりのプロであるシャドウィスさんに教えを乞うてみよう。すでに通話機能のみとはいえスマホが実現した今、夢物語ではなくなった。
「じゃあ、私は図書館に行って装飾品の参考書でもを探してきますね。」
「わかりました。この部屋は滅多に使われませんのでしばらくはここに集まって制作を行いましょう。では、また明日。」
部屋を出て、私は図書館へと向かう。いろいろあってしばらく図書館へ足を運んでいなかったため、あれも読みたいこれも読みたいで、脱線してしまいそうだ。
王宮図書館を利用できるのは、王族・貴族・官吏・宮廷魔導士(師)・司書と限られた人間のみ。といっても私の様な救世主や特別に許可をとった者であれば身分関係なく利用することができる。その特別な許可は中々取るのが難しいらしいが。ただ、図書館に入れたとしても王族か王族に許可をもらった者しか閲覧することのできない書庫も存在する。
(まぁ、私が読みたいと思うものは大体読めるし、今の所は特別書庫を利用できなくても不便はないけど。)
装飾品についての本が並ぶ書庫には様々な国の伝統的なデザインが記されたものが多々あった。
「あ、この本…八雲國の伝統装飾品かぁ。八雲國って確か日本みたいな島国だったっけ。和なアクセサリーも良いな。…でもこの国の服とはあんまり合わないかな…とりあえずオルヴェンシア国の装飾品を見てみるか。」
オリヴェンシア国の王宮図書館ということもあってやはりオリヴェンシア国についての書物が多い。大国だからか本でさえ大層な出で立ちだ。
「辞典かってくらいずっしりしてる…対して幅ないのに…」
5〜10冊ほどの本を抱えて机の上へ乗せる。文字だけの小難しい書物と違い、ビジュアル要素が強いため、パラパラと捲りながらエリスちゃんに似合いそうなネックレスを探す。といっても本に載っている装飾品のデザインをそのまま使うのは盗作になるので参考程度だが。
「一番最初に作った試作品もエリスちゃん気に入ってくれてたし、やっぱり派手すぎずシンプルめな可愛らしい雰囲気が良いかな…にしてもやっぱり大人用ってかゴテゴテなものが多いなぁ。」
そんなことをブツクサと呟いていると後ろから声が聞こえる。
「皆、見栄を張りたいからな。」
バッと後ろを振り返ると立っていたのは第一王子だった。
「だっ第一王子!」
急いで立ち上がり挨拶をしようとすると第一王子は手をスッと上げて
「構わない、堅苦しいのは無しだ。ここには息抜きのために来ているのでね。…こうして会うのは初めてだったかな?」
「は、はい。…第一王子、護衛の方は?」
「…護衛は扉の外に待機させている。四六時中、側にいられたのでは息が詰まるのでな。」
「その、息抜きということでしたら私は別の席に移動致しましょうか?お邪魔でしょうし…」
「いや、こちらから声をかけたのだからここに居て構わない。君もよく、ここを利用するのか?」
「利用するのは時々です。暇な時は足を運びますが最近は忙しかったので…」
「父上から話は聞いているよ、旅先で随分なトラブルに巻き込まれたと。…神化論を盲信し、魔石血の子供達を誘拐してエテルナを生み出さんとしていた例の組織に関して調査を進めているが中々、尻尾を出さない。わかっているのは’’ディヴィニア’’と名乗っていたということだけだ。まぁその名前も今は捨てているだろうがな。」
「この様なことを私が聞くのはあまりよくないことだとは思うのですが、ソルヴェイラ国とはその…」
「今回の件、ディヴィニアの構成員の半数が我が国出身の者だという報告を受けている。本来であればこちら側が責任を取って然るべき事案だ。だがーソルヴェイラ国もまた、誘拐事件の存在を把握しながら十分な対処を行わず、さらには救世主の来訪を受け入れた。国として事態を共有せぬまま、他国を巻き込んだ以上、責任の所在をオリヴェンシア国一方に押し付けることは出来無いだろうということで痛み分けといったところだろうか。」
「……ソルヴェイラ国行きを願い出たのも、誘拐事件に関与するに至ったのも、私の浅慮によるものです。本来であれば、その責は私一人が負うべきでした。」
下を向き項垂れている私を見て、第一王子はため息をつく。
「……遅かれ早かれ、ディヴィニアの構成員の半数が我が国出身であることは露呈していた。そうなれば、ソルヴェイラ国に我が国を非難するための正当な口実を与えることになっていたが、あなたが関与したことで事態は外交問題へと発展することなく収束させることができたのだ。感謝こそすれ、責める事など断じて無いよ。」
「…身に余る…お言葉です。」
私の行動の影響がもし、この国に害をなすことがあれば私は切り捨てられるだろう。第一王子の冷たい瞳がそれを物語っている気がした。




