第29話 救世主(私)の存在意義
医者の話も終わって、ちょうど昼食の時間になり、エリスちゃんとアストリウスさんも一緒に食卓を囲む。
「今日はチーズとキノコのリゾットです。魔素を多く含んだキノコを使っています。」
「それは助かる。」
私の大好物のひとつを使ったキノコのリゾット。食欲をそそる香りが伝わってくる。
『いただきます。』
食事を進めながら私は魔法について気になることを聞いてみる。
「オリファスさん。質問いいですか?」
「なんだ?」
「さっき、魔力核の話が出ましたけど私ってどうして魔法が使えるんでしょう?元の世界で魔法は使えなかったし、この世界に来たときに魔力核が後付けされたんですかね?」
「いや、後付けじゃなく’’開放’’されたんだろうな。じゃなきゃこの世界に来て数日であんな風に魔法が使えるはずないからな。魔力核が体に馴染んでる証拠だ。」
つまり、機能はしていなかったものの生まれつき魔力核を保持していて、魔法を使える素質を持っていたってことだけど、魔法を使わない地球において必要性がないにもかかわらず’’魔力核’’という器官が備わっているのはなぜなんだろう。
「あの、ヴァルさん。私がこの世界に「救世主」として召喚されたのはもしかして、’’魔力核’’を保持しているからなんでしょうか?」
私の質問にヴァルさんは少しバツが悪そうにしていた。いまだに罪悪感を抱いているのだろうか。
「…召喚魔法に選ばれた救世主様は元々、この世界に生まれ落ちるべき方だったと言われているんです。同じ世界の同じ国から来る理由はまだわかりませんが。」
「この世界に生まれるべきだった…?」
「そもそも召喚魔法というのは創造神が与えたといわれている魔法です。世界を保つために一定の周期で行うようにと。…そのつまり、創造神はあえてこの世界に生まれ落ちるべき人間を別世界に送り、召喚魔法で呼び出させ、その世界のエネルギーをこちらに引っ張るために…」
「…要するに道具扱いですか。’’救世主’’は体のいい肩書ってことですね。」
私が小腹を立てているとヴァルさんは顔を曇らせる
「すみません。本当に…すみません。」
「あ、違うんです。私こそごめんなさい、ヴァルさんを責めているわけじゃなくて…ただ少し、その創造神とやらに憤慨していただけであって…。」
気まずい雰囲気が漂ってしまい、どうすれば良いかとあたふたしているとアストリウスさんがヴァルさんの背中をバンと叩く。
「情けねぇな、何ウジウジしてんだよ。後悔してんだったらコイツを元の世界に帰せる方法を探してやりゃいいだけの話だろ。」
「いや、そう簡単には…」
「あ?それがお前の責任だろ?」
単純かつ明快な喝を入れられたヴァルさんは腹が決まったような表情になった。
「…そうですね。もとより私は生涯を救世主様に捧げる運命ですから。咲夜様、必ずやあなたを元の世界に戻す方法を見つけ出して見せます!」
拳を強く握り締め、芯のある声で目を逸らさず宣言され、思わず圧倒されてしまう。
「あ、ありがとうございます。」
ただ少し、私の心にモヤがかかる。ずっと心の奥にあった懸念が脳裏に巡る。元の世界に戻る方法が見つかったとして、この世界にいるのと同じ時間だけ時が進んでいたら?それ以上に進んでいて元の世界に自分の居場所がなかったら?…それだけじゃなく、この世界で出会った人達と離れたくないという気持ちも芽生え始めてしまっている。このまま長くこの世界にいればいるほど元の世界に戻るか留まるか苦渋の決断を強いられることになるかもしれない。
食事が終わり、エリスちゃんの魔力散逸症に適した魔道具を作るため議論を始める。
「手術によって魔力核を補助する小さな魔道具を埋め込む方法もあるが、身体への負担が大きすぎる上に問題が生じた時に簡単には修理できないから装着型の方が良いだろう。」
「装着型…となると効力を最大限発揮できるよう魔力核に近い場所が良いでしょうね。」
「魔力核は体のどこにあるんですか?」
「心臓部です」
「だったら、ネックレス型が良いかもしれませんね。側から見ても自然ですし。」
「いいですね。常時稼働型となると防水加工や耐衝撃、耐熱・耐寒等も必要になってくるでしょう。」
会話をしている内に自分がだんだんとこの世界に馴染んできているような気がした。どんな形にしようかと頭の中で考えながら手を動かしてデザインを描いていく。
「相変わらず絵がうまいな。なんでそう、パパッと描けんだ?」
「逆にこれくらいしか能がありませんから。これまでずっと絵だけを描いてきましたからね。」
元の世界で学んだ3Dモデリングもアニメーションもデジタル技術が発達していたからこそ成り立っていたものであってこの世界では現段階において意味をなしていない。今の私が活用できているのは絵を描くことくらいだろう。
「エリスちゃんはどんなネックレスにしたい?」
「えっ、えっと…じゃあピンク色の可愛いネックレスがいいです!」
「了解!ピンク色ね。」
私がスケッチブックにネックレスのデザインを描いているとオリファスさんが肩を叩いて提案してくる
「スケッチブックじゃなくてお前の創造魔法で描けば良いんじゃないか?」
「でも、ちゃんとしたのできる保証ありませんよ?」
「試して損はないだろ。それに魔石は型に流し込んで形成してそれ以外の装飾等は創造魔法で作るんでもいいんじゃないか?なんなら型も創造魔法でいいだろうしな。」
「確かにそうですね。」
私はタブレット型の杖を取り出し、試しにネックレスを描いてみる。あまり派手すぎず、シンプルな雰囲気を意識して、金色のアズキチェーンをマチネ(50cm~60cm)程の長さにしてペンダントトップにはハート型でオレンジ味のあるコーラルピンクの宝石をあしらう。
『『クレアーレ!(創造せよ!)』』
呪文を唱えると描いたネックレスが具現化される。形になったネックレスを見てエリスちゃんは目を輝かせて興奮する
「すごく綺麗!とっっても可愛い!」
「よかったぁ。一応これ以外にもいくつか考えておくから最終的にどれが良いか選んでもらっても良いかな?」
「はい!ありがとうございます!」
ネックレスを嬉しそうにつけるエリスちゃんを見て自分の作ったものでこんなに喜んでもらえるなんて、とこちらまで嬉しくなる。
オリファスさんもヴァルさんも私の作ったネックレスをまじまじと観察していた。
「前よりもだいぶ精度が上がったんじゃないか?」
「私もそう思います。」
「そうですか?個人的には一番最初に作った杖の方がクオリティは高い気がしていますけど…」
精度が向上したのは慣れてきたというのもあると思うがそれ以外にも理由はありそうだ。
「お前が一番最初に作った杖は確か木製だったよな?素材によって難易度の違いはあって構造が複雑であればあるほど精度はどうしても落ちちまうんだろうな。」
「咲夜様の世界にも木火土金水の考え方はございますか?」
「はい。古代中国の自然哲学「五行思想」における5つの基本要素で万物は木火土金水の5種類の元素からなるという説だと認識しています。」
魔法があるという違いはあれど元いた世界とだいぶ共通点があるような気がする。その辺は割と助かっている。
「杖をお渡しした時に基礎魔法をお教えしましたよね?あれは保有している魔力と空気中の魔素に含まれる該当する魔粒子を取り込んで発動させるものです。ですのでおそらく咲夜様の創造魔法も生成する際に必要な魔粒子を取り込んで作っているのだと思います。木火土金水の五つは魔素内に含まれている割合が多いのでその分、精度が高くなるのだと思います。」
「なるほど…じゃあ必要な材料を用意すれば本物と同じものを形成することができるということかもしれないですね。…あと、使っていてなんとなく気づいたのですが、表側しか描けないために裏側が想像で補える程度の簡易的なものの場合か、表裏対照の場合のみ違和感なく生成できるという感じの様です。」
「だんだんと創造魔法の有り様がわかってきたな。」
「はい。このままもっと創造魔法について知ることができれば幅も広がると思います。」
自分の特異魔法について話していて一つ疑問に思ってことがある。果たして、ゲームのようにレベルが上がることはあるのだろうか。
「あのオリファスさん、特異魔法ってレベルが上がることってあるんですか?」
「あぁ。訓練すれば高いレベルの魔法に進化させることができる。ま、要は自分の特異魔法を細部まで理解して応用させるってことだな。」
「なるほど。じゃあ今は表側しか描けないけどいつかは立体的に描ける様になるかもしれないってことですね!」
「創造魔法についての進捗は何よりもまず俺に報告しろよ。お前は考えなしだからな、悪用されちまう。」
やれやれ顔をしながら、私の頭をダムダムとしてくるオリファスさんに抵抗するも虚しく力の差に敗れる…




