第28話 診断結果
診断が終わり、エリスちゃんと医者が部屋に戻ってきた。
「結果はどうだった。」
私達は椅子に座り、医者からエリスちゃんの診断結果を聞く。
「彼女の魔力許容量は110ルクで平均の120ルクを下回っています。現在の魔力保有量は先ほど魔力補充をしたので100ルク、不全閾値は33ルク、危険閾値は11ルクですね。今回、自然回復量は覚醒時のみ測定を行い、1時間で約1〜2%と分りました。」
「全体的に少ないな。健常者であれば一晩で魔力の大半を取り戻せるが、覚醒時で回復量が1〜2%となると睡眠時でも3〜4%ほどだろうから一割も戻らないのか。」
聞いたことのない数値や単位が飛び交い、会話に置いてけぼりを喰らって気まずそうな顔をしているとオリファスさんが吹き出して笑う。
「ははっ、ふ、変な顔してんなお前。わかんないのか?」
「わ、笑わなくてもいいじゃないですか!この世界のことまだ全然知らないんですから仕方ないでしょ!」
何がそんなに面白いのか涙が出るくらい腹を抱えて笑うオリファスさんに私は怪訝そうな顔をする。
「わりぃ、わりぃちゃんと説明する。まず、’’ルク’’ってのが魔力量の単位だ。古代魔導医ルク・エルディアが初めて魔力閾値の正確な数値を求めたことでその名を取って名付けられた。
魔力許容量が人体が安全に循環させられる魔力量、魔力保有量が今体内に保有している魔力量で健常者の場合、平均で覚醒時に1時間で約7.3%、睡眠時に約13.6% 回復する。
それと魔力保有量には危険閾値と不全閾値があって、魔力量が不全閾値を下回るとめまい・倦怠感が生じ、危険閾値を下回ると意識が保ず、死亡率が上がる。」
止め処なく説明されて正直、珍紛漢紛になっていた。魔力の単位がルクで魔力保有量、危険閾値、不全閾値があるということはわかったが、何%やらという数値に関しては私の脳が理解を拒否してしまう。なんとか覚えよう、理解しようと頭の中で反芻してみるもやはり思い通りにはいかず悶々としているとどうやら顔に出ていたようでまたもやオリファスさんは笑い出す。
「お前には難しかったか?ん?」
「…バカにしてます?私はアレです。感覚派だからそういう小難しい話は苦手なんです!オリファスさんだって自分のこと感覚派の天才だとか言ってたじゃないですか。」
私はむすっとしながらそっぽをむく。
「これは、この世界での基礎だからな。流石の俺でもちゃんと説明できる。」
「…おバカな自覚はあるんですね。」
「うっせ。俺はバカじゃない。一々、チマチマしたのを頭で覚えなくたって体で覚えられんだよ。」
オリファスさんは私のおでこにデコピンをして鼻で笑う。
「ま、お前も感覚派の天才ちゃあ、天才だろ。特異魔法が『創造魔法』ってのが証明してんな。」
「…それはどうも。」
揶揄われたと思えば、褒められたり、なんだか複雑な気持ちになってしまった。恥ずかしくて居た堪れないでいると先刻まで笑みを浮かべていたオリファスさんがアストリウスさんの方に視線を向けて真剣な面持ちで話し始める。
「そういえば、あんたはコイツの特異魔法が『創造魔法』だって知ってんだろ?追手に襲われてた時、杖を手にしてたしな。」
「あぁ。アジトを脱出する時にも使ったしな。…あんたが気にしてることはなんとなく分かってるよ。だからそんなに殺意向けんな。」
アストリウスさんは呆れたような笑みを浮かべていたが、私にはなんのことやら把握できていなかった。
「あの、すみません。話の腰を折って申し訳ないんですけど、アストリウスさんが私の特異魔法を知っていたら何か問題でもあるんですか…?」
私がそう言うと二人はため息をつく
「本当にお前は危機管理能力がないというか。自分の価値を見誤っているというか…。先が思いやられるぜ。ちゃんと理解してないといいように利用されんぞ。」
「うぐっ」
まさにぐうの音も出ないとはこのことだ。やりたいことばかりやって勉強してこなかった故の弊害が出てきてしまった。
「ごめんなさい…。」
「ま、危機管理能力が低くても大丈夫なくらいお前の世界は平和っつうことだな。」
「多分、元の世界の基準でも低い方だと思います…。」
オリファスさんは腕を組みながら私に説教、いや説明を始めた。
「お前の創造魔法はまだ何をどこまで顕現させられるかは未知数だが、もし、兵器や食糧を魔力以外に代償なしで無限生成できる代物なら軍需工場の代わりとして戦場に引っ張り出されることになるかもしれない。オリヴェンシア国は’’一応’’どの国とも平和条約を結んでいる。とはいえ、大国ゆえに周辺諸国から虎視眈々と狙われ、皆攻めるためのもっともらしい理由を探している。そんな状況でお前の『創造魔法』のことを知られればどんな手を使ってでも奪いに来る可能性が高い。」
「どんな手でも…?」
「…あーこんなことを例に出すのはアレだが、お前は女だし、たとえば’’籠絡して、既成事実を作る’’とかな。……子を宿せば、逃げられなくなる。」
そう言われて、いかに自分の考えが甘いか気付かされた。『創造魔法』はそこまでしても手に入れたいと思われるものなのだということを。
「…留意します。」
少し怯えて縮こまる私を見て、皆は顔を見合わせて一様に口を開く。
『大丈夫です(だ)。私(俺)達がいる限り絶対にそんなことはさせ(ねぇ)ません。」
本当に頼もしい限りだ。私はつくづく恵まれている。前の世界でもこの世界でも良い人ばかりと出会ってこれた。これから先、なにか恐ろしいことが待っているのではないかと思ってしまうほどに。
「ま、てことでコイツは俺がお前の特異魔法をソルヴェイラ国の国王やら他国に売るんじゃないかって危惧してるっつう訳だ。」
「なるほど。なんだ、じゃあ大丈夫ですね。アストリウスは頭が良くて、オリファスさんの危惧していたことを説明しなくてもわかっていたみたいだし。…私と違ってて。あはは、」
私がそう言うと、アストリウスさんは少し驚いたあとニヤッと笑って言う。
「…本当にお前は面白いな。」
「え?どういう意味ですか?」
相も変わらず能天気な私にオリファスさんもヴァルさんもセレナもため息をついて呆れていた。
『そういうことじゃない(だろ。)でしょう。』
「えっ?え?」
「お前は会って間もない奴をすぐ信用しすぎなんだよ。ったく。俺が言いたかったのはお前の能力が戦争に利用されるかもしれないとわかった上で金欲しさに情報を売るんじゃないかってことだよ!」
「あっ、あぁ。そういうことですか。え?でもじゃあなおさら大丈夫ですよ。だってアストリウスさんいい人ですもん。」
カチンと音が鳴ったような気がした。オリファスさんは般若のような顔をして私の頭をぐしゃぐしゃとする。
「おーまーえーな!そういうとこだぞ。馬鹿!」
「え?な、なんか、すっ、すみません!!」
「ちゃんとわかってないくせに謝んじゃねーバーカ!」
そこまで言わなくてもと言うくらいバカを連発しながらしこたま怒られた。
「…はぁ、…話がかなり脱線しちまったな。戻すぞ。」
「は、はい。」
疲れたような顔でため息を着いたあと姿勢を戻して本筋に戻し、話し始める。
「とにかく、今聞いた結果を踏まえて最適な魔道具を作らなくちゃならないってことだな。」
「あの…魔力散逸症は、体外に魔力が漏れ出てしまって魔力保有量が不全閾値や危険閾値を下回ってしまう病気ってことですよね?でも、前にパーティーで魔力非保持者もいるって話していましたけどその人達は魔力が無いのにどうやって生きられているんですか?」
この世界の基礎をほとんど知らない私が一々、話の腰をおってしまって話が中々先に進まず遠慮がちにおずおずと手を挙げる。
だが、オリファスさんは嫌な顔ひとつせず、真摯に説明をしてくれる。
「この世界には"魔素"というものが空気中にあって、俺達はそれを呼吸と共に体内に取り込み"魔力核"を通して自己の魔力に変換している。そして魔力核は成長とともに体に強く根付き、生命活動を行う器官と連動するようになる。だから魔力量が不全閾値や危険閾値を下回ると生命に危険を及ぼすってわけだ。だが、魔力非保持者はそもそも生まれつき魔力核を体内に保有していないため、その影響下にない。」
「呼吸と共に取り込むってことは呼気によって魔力も一緒に体外に出るんですか?」
「魔力許容量を超えない限りは体内に蓄積されるが上回りそうになると魔力核が調節をし、魔力滓として呼気とと共に体外へ排出する。そして、魔力散逸症は魔力核が制御不全を起こして、魔力許容量を超えていないのにも関わらず、魔力滓として体外に排出してしまうというものだ。」
「なるほど…自然回復量と体外排出量に合わせて、強制循環魔法を自動制御できる魔道具が必要ってことですね。」
「そういうことだ。」
やっと理解が追いついてきたというところだろうか。
「んで排出スピードはどのくらいなんだ?」
「1時間に1.5パーセントです。」
「ほとんど吸収量と差異ないな。しかも、自然回復量も覚醒時で1時間約1〜2%とかなり低いから余計に重篤だったんだな。」
’’自然回復量と体外排出量に合わせて、強制循環魔法を自動制御できる魔道具’’を作らなければならないということは理解できるが細かい制御を組むことが私に果たしてできるのだろうかと腕を組んで考え込んでいると察してくれたようでヴァルさんが口を開く
「咲夜様が得意なのはデザイン等でしょうから細かい計算などは私達が行いましょう。機能面からどのような形や大きさが適しているのかという問題もありますから議論をしながら。」
和やかな笑顔に私も思わず、笑みが溢れてしまう。自分のこと理解してくれている存在がいることなんとも嬉しいものだ。
「んふ、ありがとうございます。私の事わかってますねぇ。」
「えぇ、もちろんあなたの聖務官ですから。」
隣に座っていたセレナもずいっと顔を寄せる
「私もできる限りサポートします!任せてください!」
「んふふ、うん!ありがとう!」




