第2話「初めての仕事」
翌日、田中はじめは、グリーンマーケットでの初めてのバイトに向かう朝を迎えた。昨日の面接で受けた仕事が今日から始まるということで、少し緊張していた。家を出る前に、母親が言った言葉を思い出す。
「頑張りなさいね。無理しなくていいから、自分のペースでね」
その言葉を胸に、はじめはスーパーへと向かう。昨日の面接で店長から説明を受けていた通り、今日は主にレジの練習をすることになっていた。特別なことはないが、それが初めてのバイトにとっては十分な挑戦だった。
グリーンマーケットに到着すると、すでに店内は開店準備を終え、スタッフたちが動き出している。店長の小林が気づいて、にっこりと笑顔で手を振った。
「おはよう、はじめ君!今日はレジの練習から始めようか?」
「おはようございます!はい、お願いします」と、はじめは少し緊張しながら返事をした。
店長は簡単にレジの使い方を教えてくれる。バーコードをスキャンして、商品を袋に詰めて、お金を受け取る。最初はとてもゆっくりで、ミスをすることも多かったが、店長は優しく教えてくれた。
「大丈夫、最初はみんなそんなものだよ。焦らず、慣れていこう」と、店長が励ます。
時間が経つにつれて、はじめは少しずつスキャンのスピードを上げていく。とはいえ、まだ緊張が残っているため、手が震えることもしばしばあった。
「今日のレジは、まだスムーズにいかないだろうけど、大丈夫だから。無理しないで」と、店長が再度声をかける。
その日、最初の仕事はそれほど忙しくなく、レジの練習をするには良い環境だった。だが、突然、予期しないトラブルが起こる。
午後になり、少し混雑し始めた頃、一人のお客様がレジに来た。見た目は普通の主婦のような人だったが、買う商品をカゴに乗せて、レジに進む途中で何かを叫んだ。
「これ、値段が違うじゃない!」
はじめは驚いて目を見開いた。お客さんが指差していたのは、特売のペットボトルだったが、値札が誤って貼られているようだった。
「えっ、すみません…」はじめは困惑して、急いで店長に助けを求める。
「どうした?」店長がレジに駆け寄る。
「この商品、値段が違うみたいです…」と、はじめが説明する。
店長は商品の値札を確認し、すぐに「すみません、確認します」とお客さんに謝った。そして、すぐに棚の方に走っていった。
その間、お客さんは怒った様子でじっと待っていた。はじめはどうしていいか分からず、心の中で焦っていた。
「すみません、こちらのミスです。新しい値札をすぐにお持ちします」と、店長が戻ってきて、事態は無事に解決した。
「ご迷惑をおかけしました」と、店長が丁寧に謝り、お客さんも不満を抑えて帰っていった。
その後、はじめは一息つく。
「大丈夫だったか?」と店長が声をかける。
「はい…でも、ちょっと焦ってしまいました」と、はじめは肩をすくめて笑う。
「最初はこういうトラブルもあるよ。でも、君はうまく対応できた。焦らず、少しずつ経験していけばいいんだ」
店長の言葉に少しだけ安心し、はじめは頷いた。結局、1日を終える頃には、レジも少し慣れ、仕事の流れにも少しずつ馴染んできた。
その夜、家に帰ると、母親が「どうだった?」と尋ねてきた。
「うん、何とか…初めての仕事だったけど、まあ大丈夫だったよ」と、はじめは少し疲れた顔をしながら答えた。
「よかったね。無理しなくていいから、少しずつ慣れていけばいいんだよ」
その言葉に、はじめは少しホッとした気持ちになり、明日もまた少しずつ頑張ろうと思った。
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初めての仕事は、予想外のトラブルもあったが、少しずつ自分のペースを取り戻しながら進んでいく。これからも続くであろう普通の日々が、はじめにとってどんな成長をもたらすのだろうか。