第1話「バイトの面接」
田中はじめは、スーパー「グリーンマーケット」のアルバイト面接に来ていた。面接会場は店舗のバックルームで、テーブルを挟んで店長の小林と向かい合わせに座っている。
「えっと、田中さんですね。今日は面接に来てくれてありがとうございます」と、小林店長が穏やかな笑顔で話しかけてきた。
「はい、よろしくお願いします」と、はじめは少し緊張しながら答える。
面接は至って普通だった。はじめは高校を中退してから2年間、ほぼ引きこもりの生活を送っていた。外の世界と接することなく、家の中で過ごしていた日々。しかし、親からの強い勧めで、どうしてもアルバイトを始めることになった。それが今日、ようやく面接に至ったのだ。
「うーん、これまでの経歴については…高校を中退されたんですね。それからは、どのように過ごされていたのですか?」と、小林が少し慎重に尋ねてきた。
はじめは目を伏せて、少し言いにくそうに答える。
「はい…。高校を中退して、それからは家に引きこもっていたんです。特に外に出ることもなく、家の中で過ごしていました」
店長は静かに聞いていたが、しばらくして、にっこりと笑顔を見せて言った。
「そうですか…。でも、こうして面接に来てくれたことは、第一歩だと思いますよ。アルバイトなら、少しずつ外の世界と接する機会が増えていきますから。最初は無理せず、少しずつ慣れていけばいいんですよ」
はじめはその言葉に少し安心し、また顔を上げて店長を見た。
「ありがとうございます…。頑張ります」
面接後、小林店長は何度かうなずきながら、はじめにバイトの内容を説明してくれた。仕事内容はレジや商品整理、簡単な清掃など、難しいことはなく、特に経験がなくても問題ないと言われた。
「大丈夫ですよ、すぐに慣れますから。あまり肩肘張らずに、自分のペースでやってみてくださいね」と、小林店長は言った。
面接が終わり、帰り道。はじめは心の中で少し安堵の気持ちを抱えながら歩いていた。これから始まる新しい生活に、少し不安もあったが、それでも面接が無事に終わったことにほっとしていた。
「これから、少しずつでも頑張らないと」と、はじめは小さくつぶやきながら、家路を急いだ。
家に帰ると、母親が出迎えた。
「どうだった?面接、うまくいった?」と、母親が心配そうに聞いてきた。
「うん、なんとか…受かったと思う。たぶん、大丈夫だよ」と、はじめは疲れた顔をして答える。
「良かったね。少しずつ外に出て、慣れていけばいいんだよ」と、母親は微笑んだ。
その言葉に、はじめは少し元気をもらい、次の日からの新しい一歩に少しだけ希望を抱いた。
──高校を中退してから2年、引きこもりの生活を送っていたはじめにとって、このバイトが新しいスタートとなる。少しずつ、自分を変えていけるだろうか。そして、スーパーでの初めての仕事がどんな日常を作り出していくのか。