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第6話 事件が起こる前に

 刹那、レオンハルトを中心に、野営としてテントを張った周囲一帯に漆黒の(もや)が噴き出して、野営地一帯に広がっていく。おそらくレオンハルトの特殊能力(エクストラ・スキル)なのだろう。そのぐらいは《鑑定》を使わなくても、知識としてある。見たのは初めてだけれど。


「濃霧とは異なる妨害魔法の一種です。魔物が近づこうとした瞬間に反射的に攻撃する自動迎撃もついていますし、何より私の殺気が乗るのでとても便利なのですよ」

「え、あ、うん。……ありがとう?」


 レオンハルトの予想外な行動に驚きつつも、私は礼を告げた。彼なりに私の意をくんでくれたのは嬉しい。でも、やるなら一声かけて欲しかった!

「どういたしまして」と彼は嬉しそうにしているので、もう何も言えないけれど。いろいろツッコミどころはあるのだけれど、もうそれはどうでもよくなってきた。

 大規模魔法の展開に、寝ていた騎士団員たちが慌てテントから飛び出してくる。魔人族の姿もちらほら現れた。まあ、寝ている時に魔物の襲撃と同等の魔力反応と殺気を向けられたら、驚くわよね。うん。

 みんな武器だけは手に持って飛び起きてくる。うん、みんな騎士団員として優秀だ。

 起こし方に物凄く問題があるけどね! 


「それで、私の愛しい人。ここにはどんな魔物が来るのか、教えていただけますか?」

「それは……」

「何事です!?」


 真っ先に駆けつけた美女は、副団長のイリーナ=クラークだった。イリーナもまた団長と共に見せしめに殺された一人だ。

 金色の長い髪に、白銀の甲冑が似合う女騎士。年齢は私より八つ上で今年二十歳になる。目鼻立ちが整った凛とした──はっきり言って美女だ。彼女の方がよっぽどレオンハルトとお似合いな気がする。


「──って、アイシャ!」

「イリーナ!」


 再会に私は感動のあまり、涙がこぼれ落ちそうだった──。が、彼女は眉を釣り上げて、剣を構える。感動の再会どころか、今にも戦闘になりかねない程のただならぬ雰囲気だ。


「アイシャを人質に取るとは!」

(あーうん。見ようによっては人攫(ひとさら)い……に見えるものね)

「人質ではありません。彼女は私の片翼であり、私の愛しい人です」

「ふざけたことを!」

「その言葉、そっくりそのままお返ししま──」

「そ・れ・よ・り・も! イリーナ、日の出と共に魔物が来ます。団長はどこですか!?」


 私はイリーナに尋ねた。レオンハルトのことは、この際放置してもいいだろう。いやむしろ放っとかないと、何一つ話が進まない。


「兄上なら……」

「ふぁあー、オレならここだが。なんだ? 朝っぱらから(うるさ)い奴らだな」

「ローワン!」


 坊主頭の筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の巨体、三十過ぎの男が登場する。彼は幻狼騎士団長、ローワン=クラーク。イリーナの兄にあたる。大きく欠伸をしながら現れたローワンは白シャツに黒のズボン、一応腰に剣を下げているが、武装などしていなかった。

 私にとって彼は養父のような存在であり、信頼できる数少ない大人だ。彼との再会に抱き着こうと動くが、レオンハルトに抱きしめられているのを失念していた。本気で抵抗するが、まったくもって腕の力を緩めない。


「……いい加減に離してください」

「絶対に嫌です。あの人間が強いことは認めますが、だからといって貴女からの抱擁(ほうよう)を許すものですか。……私には一度も抱擁を求めてくださらないのに」


 ぐっと顔を近づけるレオンハルトの目は本気だった。互いの鼻先が触れ合うほどの距離に、私は顔を逸らす。


「近い。もっと離れて!」

「絶対に嫌です」

(うう……。私の反応を見て楽しんでいる。これだから顔がいい人はずるい!)


 だいたい騎士団員や魔人族からの視線が痛い。

 痴話喧嘩(ちわげんか)ではないので、生温かい目で見るのやめて欲しいのだけれど。むしろ助けて。


「ン? なんだか知らないうちに仲良くなったのか。ハハハ」

「喜んでいる場合じゃないですから!」

「喜んでいる場合じゃないわ、兄上」


 私とイリーナの二人が思わずツッコんだ。すぐ傍でレオンハルトがローワンを睨みながら「殺す殺す殺す殺す」と何十回も呟いている。強さこそ愛。抱き着き魔、嫉妬(しっと)深い──それがレオンハルトだと私は彼への認識を改めた。


 空が白み、夜が明けようとしているのだ。

 魔法で生み出した(もや)も薄れつつある。

 レオンハルトが時間を捻出(ねんしゅつ)してくれたことに感謝しつつ、私はローワンに状況の説明を始めた。


「これから現れる魔物は怪鳥コカトリス、毒蜥蜴コカドリーユ、蛇王バジリスク。どれも厄介な相手ではある。騎士団と魔人族が共闘すれば掃討は可能ですが……問題は、領主と帝国軍との遭遇(そうぐう)かと。辺境の地では魔物の出没が多いため、領主に帝国軍が同行しているでしょう。魔物討伐は騎士団の特権ですが、帝国軍も戦うだけの戦力はあります」


 ここで騎士団と魔人族、帝国軍と戦闘になれば、帝国と教会に亀裂(きれつ)を入れる事となるだろう。前回は騎士団の一件を皮切りに、教会の上層部は邪魔者の排除(はいじょ)を始めた。

 当時の私は教会の勢力図など知らなかったが、死に戻りした今なら、この時にはすでに水面下での争いがあったのだとわかる。

「ほほう」と、ローワンは(あご)に手をやると短く答え、イリーナは固まったままだ。

 私はさらに話を進めた。


「証拠を捏造(ねつぞう)され、教皇直属である幻狼騎士団は、魔人族と国家転覆を企んだという理由で処刑されるわ」

「やはりオレたちがこの地への魔物討伐を言い渡された段階で、全てが仕組まれた──ということか」


 頭の回転が速いローワンは、すぐさま私が言わんとしている事に気づいて笑った。普通なら荒唐無稽(こうとうむけい)な話だと一蹴(いっしゅう)しただろう。

 しばらく声を上げて笑った後、私を真っすぐに見つめた。その双眸(そうぼう)は獅子のそれだ。普段は陽気な男だが、こと戦さ場になると笑みが消える。その辺はレオンハルトと似ているのだろう。


「で、我らの聖女は、これらをどうにかする秘策をお持ちのようだが(うかが)っても?」


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