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第66話 血の惨劇を華麗に回避

「リリー、黙りなさい」

「なっ、何よ! こんな執事を使っているなんて、従者が従者なら、主人も主人だわ」

「そうね」


 魔人族の領土を奪い、魔王のレッテルを貼ったのは、他ならぬキャベンディッシュ家の者たちだ。「一族もろとも後悔させてやる」なんてリリーが言えば、レオンハルトは暴力に訴えるかもしれない。それだけの殺意と動機を十分に持っているのだ。

 それを阻止するため、私は近くのテーブルにあったグラスを適当に(つか)んだ。


「お嬢さ──」

「レオンは私の執事ですから、今の非礼は私の責任です」


 私は赤い液体の入ったグラスを自分の頭からかけた。芳醇(ほうじゅん)な赤いブドウの香りが鼻腔(びこう)をくすぐる。真っ赤なワインは私のドレスを台無しにしたが、別段気にしなかった。ここを血の海にする未来に比べれば、こんなものなんてことない。


「これでいかがかしら?」

「そんなもので私の気が済むわけないでしょう! 誠意なんて何の価値も──」


 パンパン、と手を叩いた音が庭園内に響いた。振り返ると、そこにはブロンドの美しい髪の美少女が佇んでいた。オレンジ色のドレスにはきめ細かなレースがあしらわれており、体のラインがはっきりするマーメイドドレス。真珠であしらったアクセサリーの数々はは、より彼女を際立たさせていた。ヴィンセントと顔立ちと琥珀色の瞳は似ているが、その笑顔は天使のそれに類するものだろう。どう見ても私よりも五つも上には見えないが。


「言い争いはそこまでです」


 天使のような声だったが、そこには有無を言わさぬ厳しさがあった。ざわついていた庭園が一瞬で静まり返る。


「エリス皇女、お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」


 私は彼女に深々と頭を下げた。

 愛らしく微笑んだエリス皇女は、私の傍に歩み寄り、ソッと両手を掴んだ。


「いいえ、アイシャ様。このような形でお呼びして申し訳ありませんでした。改めて貴女とお話がしたいのだけれど、後日時間をいただけますでしょうか?」


 琥珀色(こはくいろ)の瞳は、私に(すが)る──懇願するように見つめていた。何かあるのかもしれない。預言書、私の予知夢にも彼女の存在は出てこなかった。だからこそ気になったし、そもそも私はお願いされると弱い。

 これが罠の可能性もあると考え──それでも引き受けることで何か見いだせるかもしれないという結論に至った。


「勿論でございます」

「そうよかったわ。では後日使いの者をよこします」

「ありがとうございます」


 エリス皇女が手を放す瞬間、私の手に紙を握らせた。おそらく伝言か何かだろう。


「アイシャ様。お茶会の主催者として、そのような姿でお帰りいただくのは失礼に当たるというもの。使用人に、入浴の準備を整えさせているわ」

「お気遣いいただき、ありがとうございます。……ではお言葉に甘えさせていただきます」


 断る方法もあったが、さすがにエリス皇女の面子を潰すわけにもいかず私は庭園から離れた屋敷へと案内された。レオンハルトは無言のまま黙って付き添い、リリーはエリス皇女の護衛者たちによって、遠ざけられていた。


(……リリーにしては珍しく引き際がいい。これも全部、芝居……?)



 ***



「少々こちらでお待ちください」


 そう使用人の一人に言われて通されたのは、広々とした応接間だった。家具や装飾品の類いは少ない。手入れは行き届いてはいるが、使われていなかったのか生活感はなかった。

 私はそろそろとソファに辿り着くと、腰を下ろした。用意されていたタオルで顔を拭いたが、ワインの匂いはかなり強く、簡単に落ちそうにない。大人はよくこんなものを口にするものだ。


(ふう……。あれ、エリス皇女から貰ったメモ、どこに行ったかしら?)

「お嬢様、先ほどは申し訳ありません」


 レオンハルトは深々と頭を下げていた。


(さっき? ああ……)


 私はぼんやりと何があったのか思い出す。つい先ほどの出来事なのに、頭が回っていないのか記憶が曖昧だった。今更だが、赤ワインの香りが強いのか頭がくらくらしてきた。


「過ぎたことよ……。気にしていないわ」


 何よりレオンハルトは、私の為に怒ってくれたのだ。その行為を否定する気も、叱りつける気もなかった。そもそもキャベンディッシュ家に、私にそんな資格などないのだから。

 あの場が血の惨状にならなくてよかった。

 今思うのはそれだけだ。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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