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第65話 お茶会での災難

 私の前に現れたのは、義妹リリーだった。相変わらず亜麻色(あまいろ)の髪を縦ロールに仕上げて、ツインテールでまとめている。服装は紅の派手なドレスに金色の刺繍が施されていた。ネックレスや指輪もかなり値が張るものだろう。相変わらず金銭感覚が可笑しいようだ。

 人を指さしたまま堂々と道に立ちふさぐリリーに、私はかける言葉もなく無言ですれ違った。そのまま主催者である第三皇女エリスに挨拶に向かう。


「ちょ、お姉様!? それが令嬢としての立ち振る舞いなのですか?」


 私は一度だけ足を止めた。優雅に振り返ると、愚かな妹へ視線を向ける。

 彼女はここがどういう所なのか理解していないのだろうか。貴族として礼や所作に至るまで周囲の者たちは目を光らせて見ているのだ。令嬢として挨拶も出来ずに人の道を邪魔した挙句(あげく)、人を指差す行為は、貴族として恥ずかしい行為だと五、六歳の貴族の子どもでも気づくというのに。

 今も周囲の目は私を貶めるものではなく、リリーへ向けられている。貴族たちはこの国では(エステル)の称号を持つ。太陽の皇族、月の教皇及び教会。星は数多とあるが、太陽と月を支え、国民の生活を豊かにするという義務こそが貴族にある。

 どちらが国にとって有益か、害となるかそれを見極めて繋がりを持つことは貴族社会において最も重要な資質である。


「貴女こそ、社交界で礼儀作法は大事だと習わなかったのかしら?」

「私は公爵令嬢であり、次の聖女となるのよ。なぜその辺に居る子たちと同じでなければならないの? そんなことよりお姉様。皇族に戻られたのなら、今まで公爵家で面倒を見てきたお礼などはいくらいただけるのかしら? 今日、お姉様に会ったらお母様から聞くように言われていたの」


 本当に残念なぐらい頭が悪い。私の忠告もまったく意味をなしていないようだ。まあ、もし私の言葉を聞いていたならこんなことにはなっていないのだけれど。


「キャベンディッシュ家を出た時に、十分すぎる財貨を支払いましたわ。聖女として二年間貯めた金銭は市民が十年は生活できるぐらいの額です。それ以上公爵家に支払うものはありませんと、お伝えくださいませ。それでは失礼します」


 私はドレスの(すそ)を摘まむと、軽く会釈をした。だがリリーは納得していない顔で、ずかずかと歩み寄る。そこには気品も何もない。

 感情的になるところは継母とそっくりだ。


「お母様が困っているのよ!? それでもお姉様は何も思わないというのですか!?」

「思わないわ。本当に困っているのなら、その着飾っている宝石やアクセサリーを売るなりしてお金を工面すればいいでしょう。贅沢三昧(ぜいたくざんまい)を控えれば随分(ずいぶん)楽になるはずよ。そもそも貴女は貴族としての役割を担っていないでしょう」

「な……。お金をつかってあげているでしょう! みんな喜んでいるのに、何の問題があるというの?」

「そうね。お金は使うからこそ経済が回るし、意味を持つわ。……けれど貴女たちは消費するだけで何の生産性も上げていないのよ。一つ聞くけれど、貴女たちはお金をどうやって稼いでいくのかしら?」

「それはお父様の役割で、私たちには関係ないわ。早く持っている財産を私たちに差し出して!」


 リリーは瞳を(うる)ませているが、言っている言葉かなり最悪だ。

 話の通じない子だ。これ以上話しても意味はない。どうこの場を切り抜けるべきか考えていたのだが──。


「お嬢様、ここは先に皇女様に挨拶を済ませてきてください。私が何とかしますので」

「レオン──ッ」


 レオンハルトはキャベンディッシュ家に強い恨みを持っている。この場で何か問題を起こさないだろうか。不安が過ったのだが、にこやかに微笑む彼に任せてみようかと頷いた。

「穏便に済むならそれに越したことはない」そう思ったのだが。


「リリー=キャベンディッシュ」と甘い声を出したレオンハルトだったが、次の瞬間。彼は近くにあった水の入ったグラスを、思い切りリリーにぶちまけた。

 一ミリも笑みを崩さずに、だ。


「きゃっあああ!」

(な、ああああああ!)

「すみません。あまりにも腹が立ったものでして」

(やってくれた! なに、爽やかな顔しているのですか!?)


 私は心の中で絶叫した。周囲の視線が一気にレオンハルトに向けられた。


「なっ、私にこんなことをして! たかが執事のくせに!」

「我が主を侮辱(ぶじょく)されて、黙っている執事がいるでしょうか?」

「くっ、お姉様の執事なんて言っているけれど、どうせあの亜人と同じように、どこかから拾ってきた野蛮人なのでしょう。お父様に言って貴方の一族もろとも──」

「そこまでです!」


 この先を言わせてはいけない。それは直感だった。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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