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第58話 不意打ちのキス

 私の中で衝撃が走った。ルークのこれでもかと言わんばかりの値に、私は心を打ちぬかれた。


「なん……ですって……」

「将来性を考えるなら、絶対に損はさせない! だから、俺を選んで欲しい」


 真剣なルークの言葉に私は即決する。それは不思議と心地よい気持ちだった。確かに今度取引をするなら仕事仲間としての立ち位置は悪くない。ルークとは信頼関係を築いていくことが処刑台への道を回避するかもしれないのだから。


「そうね、素人の私よりもずっと頼りになるもの。お願いできるかしら」

「ああ」


 差し出された手に、私は握手を交わす。これで今後のやり取りもしやすくなった。かなりいい形で結果を残せたようだ。


「はい、ストップ。転移魔法の起動準備もあるだろうから、ここでいったん終わりにしよう」

「え? でもさっき聖下は……」

「しかし……」


 私とルークは同時に不満を漏らす。だが、聖下は頭を振った。


「すまない。……どうやらこの塔に枢機卿を含めた何人かが、向かっているようだ。時魔法を使用しているとはいえ、早々にこの場から離れた方がいいだろう」


 それを聞いて、私は予知夢で見た出来事を思い出した。しかし、()()()()()()()()()()()()。それがタイミングをずらして今向かっているというのは、なんとも出来すぎている。


「聖下、もしかして私たちの動きに勘付(かんづ)いたんじゃ?」

「さっきも言ったけれど、ここに盗聴魔法(とうちょうまほう)の類いはない。可能性としては同じく時間魔法を使える者か、預言書に近い《特殊能力(エクストラ・スキル)》を所持者がいるということだ」

(預言書に近い? 福音書も入るのかしら? そういえばリリーが福音書がどうのこうのと言っていたような……)


 呑気(のんき)に思考を巡らせている時ではなかった。今は一刻も早く、この塔から離脱しなければならない。私は頭を振るとすぐさま切り替える。


「聖下とルーク様は、転移魔法で脱出してください。私たちもすぐさまここを離脱します」

「……アイシャ。俺の、中立国リーベに来る気はないのか? 転移魔法の人数が三人増えようとも問題ない。ここで脱出するのを勘付かれるのはまずいだろう」


 突然の申し出に私は驚いた。ルークが私を気遣ってくれるとは思ってなかったからだ。

 出来るならその好意に甘えたいが、他国に向かうには抵抗がある。すでに数日ほど帝都を開けている以上、長く離れるのは得策ではない。


「ご配慮ありがとうございます。ですが私たちは私たちだけで帰ります。魔導具の転移を使い数キロ離れた場所に移動するので心配には及びません。……それにこの国でやる事がたくさんありますから」


 予知夢を見てから撤退時の対策として、魔導具による転移を考えていた。さすがに国を渡るほどの飛距離を皇帝陛下から借り受けることは出来なかったが、数キロ先の馬車がある所まで戻れれば問題ない。

 ルークはどこか残念そうな顔をしていたが、すぐに「そうか」と納得していた。


 身支度を整えた聖下は深紫色の外套(がいとう)を羽織って、私の傍に歩み寄った。


「それじゃあアイシャ。くれぐれも油断してはダメだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はい。聖下もお気をつけて」


 聖下はスッと(かが)むと私の顔を寄せた。耳元に彼の吐息(といき)()かる。


「いいかい。君の虚数空間ポケットに啓典(クトゥブ)を忍ばせておいたから、後で読んでおくといい。三女神を知る事でアイシャの加護も強まるはずだ」

「は、はい……!」


 あまりにも距離が近すぎて、心臓の音がバクバクと(うるさ)い。レオンハルトの時もそうだが、こうも距離感が近いとドギマギしてしまう。ふわりとお香の(かお)りが鼻腔(びこう)をくすぐる。


「聖女アイシャ、そなたに祝福があらんことを」

「!?」


 最初、額に押し付けられたのが何か一瞬分からなかった。次の瞬間、額に口づけをされたのだと気づく。それは昔から聖下がよくやってくれた(まじな)いだったのだけれど、こうも見た目が違うと調子がくるってしまう。


「あ、ありがとうございます……聖下」


 なんとか戸惑いを隠して、私は口元を吊り上げた。体裁(ていさい)は保たれただろう。たぶん。


 聖下と入れ違いでルークが私の前に(たたず)んでいた。もう前回に会った時の彼とは雰囲気が違う。怖くない。


「次に会えそうなのは、いつだろうか?」

「えっと、誕生祭が落ち着けば……時間が取れると思うのですが」

「そうか。……今後付き合っていく相棒(パートナー)として、次にまた会うのを楽しみにしている」


 そう言うなりルークは私の手を取ると、手の甲に軽い口づけを落とす。


「!?」

「ではな、アイシャ」

「は、はい……」


 人狼族のグルとハクはアイシャに近寄ろうと試みるが、雇い主であるルークの傍を離れるわけにはいかず、深々と礼をしていった。

 心臓の音は(うるさ)いままだったが、私は大きく息を吐いて自分たちの脱出の準備へと移る。聖下もルークも敬意を称してくれた。そのことが嬉しくて、私は自分に向けられていた視線に全く気付かなかった。なにより気の緩みもあったし、教皇聖下を救出するという目的が達成したのも大きかっただろう。

 けれど私は気づくべきだった。

 いつものようにレオンハルトが突っかかってこなかったことを。



楽しんでいただけたのなら幸いです。

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