表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/68

第53話 ルークの視点1

 ルーク=グレイ・イグレシアス。

 俺は中立国リーベの宰相(さいしょう)の息子として英才教育を受けて育った。優秀──いや、優秀過ぎたらしい。


 商人の世界は騙し騙されなど日常茶飯事(にちじょうさはんじ)で、顔では笑っておきながら、他者を貶める面従腹背(めんじゅうふくはい)を幼い頃から見てきた。


 だからだろうか、俺は他人が信じられなかった。物心がつく頃から、おおよそ人の持つ感情というものを体感したことがない。

 高尚な説法も、含蓄(がんちく)ある言葉も心を揺らすことはなかった。だから生きて役割を果たすだけの人形だと、自分を客観視していた。


 人の表情というのは心に反応して動く。俺はその部分が死んでいるのだろう。

 暗黒の時代を変えるため宰相にのし上がった父と、親友の国王は立派だとは思う。規律と武力を統括(とうかつ)した手腕は見事だった。

 だがそれだけ。


 治安が良くなっても、幼い頃に張り付いた印象は拭えない。

 パターンさえ分かれば、人の表情、声のトーン、言葉、魔力。それらだけで相手が何を考えているのかを推測することはできた。

 人間は嘘ばかり口にする。信じられるのは、私情を挟まない損得勘定(そんとくかんじょう)で動く人間。なまじ感情があるから、人は欲を求める。感情など忌むべきもので、情だとか心などで一銅貨にも得にならない。


 十二歳になっても、相変わらず心は動かなかったが、人の仕草や(くせ)、言動は全て相手を測ることで商談において支障はなかった。将来役に立つため、能力を(みが)く。


(今回のベネディックトゥス教皇との商談。俺ならたとえ失敗しても、大した損失にならないと思っているのだろう。父から与えられた護衛も余命いくばくかの亜人族だしな)


 亜人の人狼族はもともと魔力量が少なく、狩猟民族だったので戦闘に特化している。しかし、彼らは言語力が低く、計算はもちろん知識も(とぼ)しい。特別な技術もなければ、魔法も使えない。ロザ・クラーロ共和国から魔導具を提供する代わりに売られた労働力、それが彼らだ。

 いくら身体能力は人間の倍以上あっても、人間社会において彼らの居場所は労働か護衛の二択しかなかったし、それ以外を求める亜人族もほとんどいなかった。


(彼らは彼らで自分の生き方を決めた。俺のやりたいことは──)


 生きるために技を磨き、経験を積み、期待通りの成果を献上(けんじょう)する。それが宰相の息子として生まれてきた責務だと割り切っていた。その事で両親や兄はやたら俺の将来を心配していたが、余計なお世話だった。

 別段やりたいことも、享楽(きょうらく)(ふけ)る感情もない。人形と何が違うのか、などと考える事もなかった。


「ベネディックトゥス=エル・フォーチュン教皇、本日はこのような場を設けて頂き、感謝の言葉もありません。父の名代として、ルーク=グレイ・イグレシアスが(まか)りこしました」


 フードを取ると人影は四つ。教皇とは謁見(えっけん)したことがあるが、残りの三人は見覚えがない。特に場違いそうな少女と男が二人。

 外套(がいとう)を羽織っている所を見ると、正式にこの場に招待された者たちではないのかもしれない。交渉に関わる者たちならば別に居ても居なくてもどちらも良いとさして関心もしなかったが、それでは話が進まないので口を開いた。

「……教皇、こちらの方々は?」と、別段誰でもいいと思いながら慣例的(かんれいてき)な言葉を(つむ)ぐ。


「ああ、彼女たちは──」

「お初にお目見掛ります。私はエルドラド帝国公爵家の長女、アイシャ=キャベンディッシュと申します。《黎明(れいめい)の聖女》とも呼ばれております」


 聖女。その肩書だけで、彼女が何故ここに居るのか察した。


「君が? ……となると目的は自分と同じく、教皇の亡命を手助けしにきたということか?」

「風向きが少し変わってね。今後のことも含め、交渉をしたいのだが構わないかな」

「……承知した」


 自分と同世代であろう少女を見つめたが、何も響かなかった。

 いつもと同じ。所詮、聖女といってもその他大勢と変わらない。

 ただ……少し緊張をしているのか、体に力が入っている。


(……この少女、なんでこんな面倒なことに首を突っ込むんだ。何の(えき)もないというのに、馬鹿なのか?)


 皮肉も通じないのかもしれない、そう思うとルークは試しに分かりやすい言葉を投げかけた。


「貴女のような身分が高いだけの無知な方に、商談内容をどこまで理解できるかは不明だがな」

楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

平凡な令嬢ですが、旦那様は溺愛です!?~地味なんて言わせません!~アンソロジーコミック
「婚約破棄したので、もう毎日卵かけご飯は食べられませんよ?」 漫画:鈴よひ 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

【単行本】コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

訳あり令嬢でしたが、溺愛されて今では幸せです アンソロジーコミック 7巻 (ZERO-SUMコミックス) コミック – 2024/10/31
「初めまして旦那様。約束通り離縁してください ~溺愛してくる儚げイケメン将軍の妻なんて無理です~」 漫画:九十九万里 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ