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第49話 天秤に掛けた粛清と命

 ルークは聖下へと視線を向ける。しかし聖下はカップに口を付けて、紅茶をじっくりと味わっていた。

 沈黙が流れる。

 聖下は黙秘もくひを貫いた。「喋らないのならば喋るように誘導するまでだ」という結論に至り、私は沈黙を破った。


「《戒めの制裁》は強大な魔力によって発動する教皇聖下特権の特殊魔法ですが、それを事前に知っていれば呪詛返(じゅそがえ)しも可能となるでしょう。さらに粛清(しゅくせい)対象者がみな同じように対処しているとしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ぜ──予知夢でも、枢機卿たちが制裁を受けてはいませんでした」

「いかに呪詛返しを行っても、己の罪からは何人たりとも逃しはしない。──それならば、発動する価値はある」


 笑みの下に鋭い眼光を光らせて聖下は答えた。しかし納得いかないのはルークだ。これでは商談そのものが崩れてしまう。絶対に怒っているだろうと、私は恐る恐る彼の顔を見つめると──。

 整った顔立ちは表情がなく、人形のような無機質な目をしていた。ただこの状況に対して、冷静に分析を重ねているように見える。


(なにこの冷静沈着(れいせいちんちゃく)ぶり!? 本当に私と同世代なの!?)

「ではベネディックトゥス教皇、自分を呼び入れたのは、この聖女が我が国の求める条件に当てはまる人間だからという事か?」

「え?」

「その通りだよ。……僕でなくとも治療魔法に関しては、彼女の方が適任だと思ったのは事実だ。それに彼女が他国に亡命すれば、……少なくとも彼女の未来は大きく変わるだろからね」


 聖下はルークに謝罪し、私を見つめて困ったように微笑んだ。

 そこで私はようやく気付いた。最初から聖下は自分自身の運命を変える気はないのだ。死に戻りをしてまで助けたかったのは、あくまでも私だけ。

 自分自身を勘定(かんじょう)に入れていない。


「ですが聖下!」

「本来ならアイシャもルーク殿も、ここで僕と会うことはなかった。それを強引に変えたんだ。これ以上、運命を変えてしまえば、予知夢や未来視で見た未来とは全く異なることになってしまう」


 だから教皇聖下は死ぬ道を選んだ。

 前回の結末を知って、それでもなお聖下は運命のまま死ぬことを選んだ。なぜその結論に至ったのか私には分からない。


──僕は僕のお気に入りが傷つくことを許さないだけ。それに悲しい終わり(バッドエンド)なんてもってのほかだよ。世界のチェス盤をひっくり返してでも、そんな未来にはさせない。つまらないからね──


 そう言っていた彼の言葉が脳裏によぎる。

 お気に入り? 

 私のため?

 それでも沸々(ふつふつ)と湧き上がる衝動に(あらが)えなかった。


「聖下が死ぬ気なら、私は全力で阻止するまでです。そのためにここに来たのですから!」

「面倒ごとが増えてもかい?」


 面倒ごとなら増えまくっている。今更一つ増えようと、どうということはない。それよりも私は大切な人が死ぬのだけは嫌だ。これは世界とか国ためとかじゃない。私が嫌なのだ。


「聖下のために生きて欲しいのではありません。私は私が死んでほしくないから、私の勝手と都合で動いているのです! あと面倒ごとなら今更ですわ!」


 憤然(ふんぜん)とした口調で言い切った。その勢いに押されていた聖下だったが、次に発言したのは、交渉目的に訪れたルークだった。


「ベネディックトゥス教皇。貴公の実力は見せて頂きましたが、彼女にその才が本当にあるのか不明だ。……よくわからないものを、交渉材料として判断にすることは出来ない」


 ルークは後ろに(ひか)えていた護衛二人に目配せをする。それだけで深々とローブを被った者たちは察したのか、一人は腰に携えていた剣を抜き──隣に居た同胞を袈裟懸(けさが)けに斬り捨てた。


「な──ッ!」


 鮮血(せんけつ)が壁に飛び散り、男は倒れた。その際にフードは外れ狼の頭が顔を出す。

 亜人(あじん)の──人狼族(じんろうぞく)だ。顔は狼、体は人間と同じで、爪は鋭く、尻尾がある。彼らは傷に対して人間よりは治癒能力が高い。だがそれでも斬られた人狼は吐血(とけつ)し、血はどくどくと(あふ)れて床を()らす。


「これでどの程度なのか、見極めることが出来る。急がないと死ぬぞ」

「貴方は──自分の連れをなんだと思っているのですか!?」


 私はたまらずルークに詰め寄る。感情的に声を荒げるものの、彼の心には届いていないようだ。


能弁(のうべん)を垂れる(ひま)があるなら、さっさと治療したらどうだ? それともそのような状況判断も出来ないのなら、交渉の価値など無いな」

「…………ッ!」



楽しんでいただけたのなら幸いです。

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