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第47話 聞き覚えのあるその名は

「う……。それって選択肢ないじゃないですか」

「結果的にはそうだろうね。でも、君が承諾してくれたから問題ないだろう」

「それは、そうですけれど……」


 周りに心配をかけないように、私は言葉を返す。なぜこんなに気持ちが不安で揺らいでいる事が分からなかった。胸騒ぎの正体はすぐにわかる。


 リーン。

 涼し気な鈴の音に、周囲の空気が張り詰めた。


「おや、タイミング的にはちょうど良かったようだ」

(…………イグレシアス家、なんだろう。あとちょっとで思い出せそうなのに、頭の中に靄がかかったみたい)


 リーン、リーン。

 窓も空いていないのに、風が部屋の中に生じて青い光と共に扉の前に収束していく。風の後に円状の魔法陣が出現する。幾何学模様(きかがくもよう)幾重(いくえ)にも重なった上位魔法。星々の煌めきが部屋に(あふ)れ返る。

 刹那、魔法陣の中に三人の人影が現れた。三人とも深み緑色の外套(がいとう)を羽織っており、フードで顔を隠していた。一人は少年で私と同じくらいだろうか、後ろの二人組に比べて身長がかなり低い。後ろの二人はがっちりとした体格の男で、外套を羽織っていても分かる程だ。ただ一人は足の悪いのか、動きが(にぶ)い。


「ベネディックトゥス=エル・フォーチュン教皇、本日はこのような場を設けて頂き、感謝の言葉もありません。父の名代として、ルーク=グレイ・イグレシアスが(まか)りこしました」

(ルーク……。グレイ・イグレシアス!?)


 急に目の前が暗く、視野が狭くなったように感じた。

 フードを外す少年から目を離せない。深緑色の外套(がいとう)を脱ぐと、中立国リーベの商人が着こなす丈長の白いチュニック、黒の布帯に、ミシュラーと呼ばれる前あき型の外套を羽織りなおす。

 冷たく温度の無い声。

 若草色の長い髪、硝子(がらす)のような伽藍洞(がらんどう)双眸(そうぼう)、感情を()ぎ落したかのような無表情なのだが、礼儀正しく彼は頭を下げた。


(彼は……処刑台にいた……。私を《裏切り大魔女》に仕立て上げた張本人!!)


 鮮明に思い出される前回の記憶。

 私を処刑台に送ることで人々の怒りを(しず)めた──悪魔のような男だ。私が無実だと知りながらも、責任を押し付けた相手。


(ルークが出会うのは、私が魔法学院に入る頃。過去よりも三年、いえ四年も早いなんて……)



 額に珠のような汗が浮かび上がり、鼓動が今にも破裂(はれつ)しそうなほど高鳴っていた。


「……ところで教皇、こちらの方々は?」

「ああ、彼女たちは──」

(ここで出会ってしまったのなら、やるべきことは一つ。彼に私が有能だということを示す。損得勘定(そんとくかんじょう)(つね)としていた彼なら、私に利用価値があるというなら、無碍(むげ)にはしないはず)


 私はソファから立ち上がると、少年と向き合う。震えを堪えて、公爵令嬢の仮面を被りにこやかに微笑んだ。


「お初にお目見掛ります。私はエルドラド帝国公爵家の長女、アイシャ=キャベンディッシュと申します。《黎明(れいめい)の聖女》とも呼ばれております」

「君が? ……となると目的は自分と同じく、教皇の亡命を手助けしにきたということか?」


 表情一つ変えずに、ルークは私の目的を言い当てる。彼自身も未来視が出来るのではないかと(いぶか)しむが、私はにこやかに「そんなところです」と言葉を返す。


「風向きが少し変わってね。今後のことも含め、交渉をしたいのだが構わないかな」

「……承知した。その聖女も、同席ということか?」

「ああ。駄目かい?」


 聖下はにっこりとほほ笑んで聞き返す。ルークと私は一瞬だけ目が合った。ドキリと体が硬直したが、彼は別段気にしていなかった。


「いいだろう。許可しよう」

「助かったよ。ありがとう」


 人当たりの良い聖下に対して、ルークの口調はあまりにも慇懃無礼過(いんぎんぶれいす)ぎる。交渉を始める前に雰囲気を壊す可能性があったので、言うか悩んだが──私は控えめに意見することにした。


「あのルーク様」

「……なにか?」

「聖下に対して口の利き方に気を付けていただけると、嬉しいのですが……」



楽しんでいただけたのなら幸いです。

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