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第45話 無垢で愚かだった聖女


「…………」

「……以上が私見た()()()です。それらを精査すると今回の計画に関わっている可能性が高いのは、ケニス大司教とノウス枢機卿、ユウゴ枢機卿、そしてキャベンディッシュ公です」

「ノウス……? それにしてもキャベンディッシュ家がなぜ? 教会と接点が見当たらないように感じるが」


 聖下の疑問はもっともだ。その引き金を引いたのは──。


「父が教会の上層部と繋がった理由は、義妹リリーが五歳の頃、「聖女になりたい」と言い出した事が発端(ほったん)のようです」


 子どもが駄々(だだ)をこねることはあるだろう。だがキャベンディッシュ公はそれを愚かにも、現実的に叶えようとしたのだ。もしそんな馬鹿な考えを起こさなければ、未来は大きく変わっていたのかもしれない。

 一通り話し終えると、重苦しい静寂が部屋を包み込んでいた。長々と話していたが、聖下もナナシも無言のまま聞いてくれたことに少しだけ安堵(あんど)する。


(でも、この静けさは怖い……)


 向かい合わせで座っている聖下は両手を組んで、視線を落としていた。私は後ろを振り返ると、ナナシと目がかち合った。先ほどとは別人と思えるほど落ち着いているようで、少しホッとする。──が、実際。ナナシは殺気を抑え、拳を強く握りしめていた。握った拳から血が(にじ)み出るのを隠しきれていない。

「どうした、姫さん?」とナナシは陽気(ようき)に声をかける。


「あ、ううん……」


 私は気づかないふりを通すことにした。ナナシは踏み込まれたくないと思っているのだから、それを気遣(きづか)える大人になろう。

 私はその横にいるレオンハルトに視線を移すと、ティーカップと受け皿を持ち立ったままお茶を楽しんでいた。その所作(しょさ)優雅(ゆうが)でやはり、戦場で戦っている姿とは別人に見える。


「お嬢様、この紅茶美味しいですね」

「ええ、そうね、うん……」


 気のせいだろうか。レオンハルトはいつものように笑っているのだが、どこか苛立(いら)っているような、底知れぬ怒りがあった。声もいつもよりも少し低いし、微笑みも眉が少し吊り上がっている。口元の笑みもどこか作り物めいたものに見えてしまう。いや怒っているのもそうだが、何かを我慢(がまん)をしているのが正しいのかもしれない。

「……なにを我慢いるの? 戦うこと? それとも別の何か?」と、彼に問いかけそうになったが、私の言葉は聖下によって(さえぎ)られた。


「……アイシャ。色々話をしてくれて助かったよ」


 私は言葉を飲み込んで、聖下へと視線を戻す。(うつむ)いていた顔を上げると鳶色(とびいろ)の美しい瞳に強い意志が宿っていた。怒りを飲み込んだ覚悟が聖下からは感じられた。


「いえ。聖下のお役に立てれば幸いです」

「君がせっかく話してくれたんだ。ついでにいくつか誤った知識を正しておこうか」

「と言いますと?」

「まず、聖女の証を継承するという話は嘘だよ」

「え?」

「聖女そして教皇の証というものは女神が定めるもので、僕たちが故意(こい)にその証を引き継がせることは禁忌(きんき)とされている。次に結婚または出産するからといって、聖女の証が消えるようなものではない。聖印というのはその者の魂によって変動するものだからね」

「え?」


 後頭部(こうとうぶ)を、鈍器(どんき)のようなもので殴られたような衝撃(しょうげき)だった。聖下の言葉を理解するまでに数十秒ほど思考が停止する。ようやく理解すると、怒りと悔しさで視界が(ゆが)んだ。


(なら前回、受けた仕打ちは全て、私を(おとし)める為だけの嘘……!)


 教皇の死、幻狼騎士団の処刑。前回の私はもっと早く周りに頼っていれば、あんな未来にはならなかったのかもしれない。


(あの結末になった時、私は全てを鵜呑(うの)みにしてしまっていた。敗因は決定権を相手に与えてしまった私の落ち度だわ……)


 知らなかった、知ろうとしなかった結果。

 聖女という立場において無知というものは、無垢(むく)で愚かな小さな羊。さぞ生贄(スケープゴート)にするには都合のいい存在だったのではないだろうか。

 そういえば()も処刑の間際(まぎわ)そう言っていなかったか?

「お前がそういう立ち位置に居たのが悪い」と。今考えてみれば、的を射た言葉だっただろう。


()()()だったとしても、怖かっただろう」

「はい。……でも今は、聖下に話を聞いてもらい、楽になりました。それに最悪の未来を絶対に阻止(そし)すると決めましたから」


 独りだったなら、虚勢(きょせい)だったとしても口にはできなかっただろう。

 けれど今はローワン率いる幻狼騎士団、レオンハルト、ロロ、ナナシがいる。最終的未来は未だ変わっていないけれど、一つ一つ積み上げていけば、変えられるという自信があった。


「うんうん。君が予想以上に(たくま)しい子で良かったよ」


 聖下は柔和(にゅうわ)な笑みを浮かべた──が、次の瞬間。彼の雰囲気がガラリと変わった。その鳶色(とびいろ)の瞳は絶対零度(ぜったいれいど)のように凍りついたのだ。


「!?」

「アイシャの話を聞いておいてよかった。これで心置きなく不義(ふぎ)を行った者たちを処断できる」

(ひっ……!)


 世の中には見てはいけない笑顔があるのだと知った。そして普段怒らない人種が怒るととてつもなく怖いということも学んだのだった。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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