表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/68

第43話 浮き彫りとなる先代の聖女

「君は僕の大事な教え子だからね。それに僕が本来すべきことを君と、君の前任者に押し付けて途中退場(とちゅうだいじょう)をしてしまったんだ。これぐらいのペナルティは甘んじて受けないとね」

「じゃあ、魔物が大群で押し寄せる未来を危惧(きぐ)して……とかじゃ?」

「ぷっぷぷっ……あははは!」


 聖下はお腹を抱えて笑い出した。


「違う、違う。まあ、確かに僕は教皇で、世界を愛しているけれど、そんな理由で自分の命を(けず)ろうとは思わないよ」

「え? そ、そうのですか?」


 これも死に戻りの効果なのか。それとも単に教皇聖下のことを知らなかっただけなのか、前回の──私の記憶にある聖下とはやはり違う。何度かチェス勝負や、魔法修行に付き合って貰ったことがあるのだが、前回の面影がない。

 外見が全く違うのからかもしれないが。


 正式な師弟関係(していかんけい)ではないにしても、目にかけて貰っていた方だ。常に品行方正(ひんこうほうせい)。世界を愛し、弱きものに救いの手を差し伸べる「教皇の中の教皇」という印象が音を立てて崩れていく。

 この清々(すがすが)しいほど自分本位な感じがするのに、それを見せないあざとさと(さわ)やかな笑顔は、誰でしょう。私の知っている聖下ではないです。

 ええ、違いますとも。


「僕は僕のお気に入りが傷つくことを許さないだけ。それに悲しい終わり(バッドエンド)なんてもってのほかだよ。世界のチェス盤をひっくり返してでも、そんな未来にはさせない。つまらないからね」


 無茶苦茶(めちゃくちゃ)な理論だが、それが聖下の考えなのだろう。そう受け入れようとして、ふと気づく。


「聖下に聞きたいことがあるのですが……」

「ああ、すまない。それは時が戻った後で聞こうかな。そろそろ時間を止めておくのも限界みたいだね。……アイシャ、この魔法の事は僕と君の秘密だよ」

「は、はい。わかりました」


 止まっていた時間は、ゆるりと動き出す。

 白黒(モノクロ)の世界は消え、世界に色が戻った。

 レオンハルトとナナシはそれぞれ妙な感覚に、眉を(しか)めている。どうやら時を止めている間のことは私と教皇聖下だけしか覚えていないようだ。


「あの聖下。会ったら聞こうと思ったのですが……」

「ん? 何かな?」

「私の前任者とも旧知(きゅうち)間柄(あいだがら)なのですか?」


 聖下の表情に僅かな(かげ)りがあったが、すぐに嘘くさい笑みを浮かべて答えてくれた。


「……そうか。聖女の前任者は最後まで、君に何も言わず一人で抱えて()ったんだね」

(それは……つまり、私の身近にいる人だってこと? 聖印の証は七歳の頃だけれど、その頃に亡くなった人はいない。母様は一年前だから辻褄(つじつま)は合わないわ。それとも私に記憶がないだけでどこかで会っている?)


 よくよく考えれば私は前任者を知らなかったら。それどころか前任者は聖女として一切表舞台に出ていないのだ。魔物討伐もなければ、教会の儀式はもちろん式典にも顔を見せなかったので《静謐(せいひつ)の聖女》と呼ばれていた。実績も記録にほとんどない。


「あの、私の前任者とは、どのような方だったのですか?」

「僕が知る中で最も美しく(はかな)い聖女だったよ。彼女はね、ただそこにいるだけで帝国全体に結界を張って魔物の侵入を防いだんだ」

「すごい! それは魔力量、その制御も含めて普通出来ないです。素晴らしい力を持っているのに、どうして前任者の記録が少ないのですか?」


 聖女の物語や伝承というのは教会図書館に多くあるのだが、前任者の《静謐(せいひつ)の聖女》の記録だけはやけに少ない。その上、身分も貴族であったり、庶民だったりとハッキリないのだ。百年前の記録ならば、納得も出来るが数年前なのに記録がないというのは、どうにも引っかかっていた。


「彼女の能力を公表しなかったからだよ。公表してしまえば、その稀有(けう)な能力のせいで他国に誘拐されてしまう可能性がある。だから彼女は生涯その聖印を他人に見せたりはしなかった。必要以上に外の世界に触れる事もなく、この国()の中に閉じ込めた。もちろん、これらを知っているのはほんの一部の人間だけだ」


 私は前回の記憶で、義妹リリーが言っていた言葉を思い出す。私の聖印を受け継いだのはリリーだ。だが彼女の場合、私のような継承ではなく、強奪に近い行いをしたのだ。彼女の幼稚(ようち)な願いのせいで。


「……だから《静謐の聖女》がすごい方だと知らずに、聖印を強引に奪って殺した……ということですか。それとも彼らはそれを知っていて……」

「奪った!? どういうことですアイシャ!」

「殺した!? どういうことだ、姫さん!」

(え!? 聖下だけじゃなくて、ナナシまで!?)


楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

平凡な令嬢ですが、旦那様は溺愛です!?~地味なんて言わせません!~アンソロジーコミック
「婚約破棄したので、もう毎日卵かけご飯は食べられませんよ?」 漫画:鈴よひ 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

【単行本】コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

訳あり令嬢でしたが、溺愛されて今では幸せです アンソロジーコミック 7巻 (ZERO-SUMコミックス) コミック – 2024/10/31
「初めまして旦那様。約束通り離縁してください ~溺愛してくる儚げイケメン将軍の妻なんて無理です~」 漫画:九十九万里 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ