第41話 千年塔攻略方法(物理)
「力まずに適当に、気楽で適度に怠けていこうぜ、姫さん」
「ええ。そうね」
私はナナシの手を掴んだ。これで話は終わるはずだったのだが──。
「なら私がお嬢様を抱き上げて運びますので、ナナシ様は先陣を切って頂けますか?」
今まで黙っていたレオンハルトが割って入る。それでも今日はだいぶ我慢した方だろう。眩しいほどの笑顔だが、その目は笑っていない。
はっきり言って怖い。すっごく怖いです。はい。
「ほほう、その意気はよし。この後、塔の壁を外側から登るのだが、君は彼女を抱き上げたまま最上階まで登り切るのは可能かい?」
ナナシの言葉にレオンハルトは渋い顔をし、私は「え?」と目を白黒させた。
千年塔の構造はレンガ造りで敷き詰められており、よじ登れるような窪みなどは無かったはずだ。ナナシの説明だと魔力で自身の脚力強化だけを行い、素早く駆け上がるという。
「中の階段を使わないのですか?」
「階段を使えば感知される術式が展開していると、事前の調査でわかっていたからな」
(すごいとしかいえない。うん、ナナシを味方に出来て本当に良かった!)
「それにトラップの起動方法も多種多様にある。姫さんの予知夢の通り、見つかったら骨が折れるだろうから、外側を登っていく」
「くっ……腹立たしいが、お嬢様の安全を考慮するなら貴方が適任でしょう」
(もういつもの事だから気にしていないけれど、なんでレオンハルトはナナシに突っかかるのかしら……)
レオンハルトは自分の不甲斐なさを呪い、白旗を上げた。かなり落ち込んでいるようだが、私にしてみれば外壁を難なく登るが出来るだけですごいと思う。ただそれを口にしたら彼が調子に乗りそうなので、黙ることにした。
まあ結局のところレオンハルトは「それなら千年塔までは私が運びます」と豪語して、私を抱きかかえて向かう事となったのだった……。
***
塔の近くまで距離を詰めると、私の光魔法を応用して視覚化に対象を透明化する。カメレオンやイカなどの保護色を変える擬態に近い。これによって三人は難なく塔の壁側に辿り着いた。
ナナシが私を背負い、レオンハルトが先に登るという形で決着がついた。聳え立つ塔だったが、この二人の前では階段を上るのと変わらないのか、あっさりと頂上に到着。
最上階の扉の前に、警備兵の姿はなかった。
私の脳裏には夢で見た出来事が鮮明に蘇る。重厚な鉄の扉を開いた先、鮮血が飛び散る光景が頭から離れない。足踏みする私の背中をレオンハルトとナナシが押した。そこに言葉はなかったけれど、二人の想いが私に勇気をくれた。
(ここからは私の役割なんだもの、しっかりなきゃ)
重厚な扉を押し開けると、鈍い音と共に眩い光に包まれていた。あまりの眩しさに目が眩みそうになる。
「やあ。君がここに辿り着くのを、今か今かと待っていたよ」
目が慣れるとそこは、白を基調とした広々とした部屋だった。色の壁を覆うのではないかと思うほど壁側には本棚が並び、紙とインクの臭いが鼻腔をくすぐった。
塔の構造とは異なりやたら部屋が広く感じられた。もしかしたら特殊な術式が組まれているのかもしれない。
床は分厚い赤の絨毯が広がっており、金糸の刺繍が上品さを際立たせていた。窓ははめ込み式で、外気を取り込むのは腕が出せる程度の小窓だけだ。
執務用の机、そしてその前には客人用のテーブルを間に、六人ほど座れるソファが並んでいた。
ソファから立ち上がって彼女たちを迎えたのは、立て襟の白の長衣に身を包んだ青年だった。首からかけているものは、紫色に金糸の刺繍が施された帯だ。金糸を使うのは高い聖職者だけで、紫はその最高位である。
青年は十代後半、いや二十歳にも見える。青色の短い髪、鳶色の瞳、整った相貌から静謐さが滲み出ていた。
「え。えっと……部屋を間違いました?」
出迎えた青年を見て、思わず言葉が漏れた。
「お嬢様、この方が教皇ではないのですか?」
「おいおい、姫さん。人違いかよ?」
レオンハルトとナナシが息ぴったりに私に詰め寄る。
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