第39話 未来を変える糸口
「ところで、こんな遅くに目を覚ましたのは怖い夢でも見たのかい?」
「うん……。最近は見なかったから……」
夢の事を話すかどうか悩んだが、これはロロにもレオンハルトにも話せない問題だ。口にすれば二人の場合、悪い方向に動きかねない。信頼できないという訳ではなく、二人は良くも悪くも極端なところがある。だからこそ伝えるなら時と場所を選ぶ必要があるだろう。
それを考えればナナシは出会ってまだ日も浅いが、私に対しても適度な距離感を取っている。深入りしようとして立ち位置なら相談相手には、ちょうどいいのかもしれない。
「私の見る夢はいつも少し先の未来で、必ず誰かが命を落とすものなの」
「予知夢というやつか?」
「そんな感じかしら。……私の夢は、不幸な内容が多いのだけれど、それは裏を返せば危険が迫っているという暗示でもあるの」
「それなら事前に回避できるかもしれない、と」
「そう。とても便利なのだけれど、毎回必ず見られるわけじゃない。見られたとしても止められないこともあるわ」
変えられた未来よりも、変えられなかった未来の方が多い。前回は殆ど間に合わなかったようなものだ。見えても何もできない、掬い上げる事が出来かった。後悔ばかりだ。
私は両手でカップを掴みながらココアに口をつける。
ローワンを含めた幻狼騎士団のみんな、レオンハルトと魔人族、ナナシ、伯父である皇帝陛下、魔法の師である教皇聖下、ロロ……。ほかにも数えきれない人を救うことも出来なかったし、間に合わなかった。
そして未来を変えたことで、少しずつ前回とは異なる流れに向かっている。その証拠に私と関わり合いのなかった人たちの出現、ロサ・クラーロ共和国の介入、魔神王との接触。三女神の加護。話の規模がどんどん大きくなっていく。
「悪夢か。……そいつは怖いな。常に死神とダンスを踊りながら、死そのものと戦っているようなものだろう」
「ええ、とっても怖いわ。でも一番怖いのは、私が知らないところで大切な人たちが居なくなってしまうことよ」
「…………」
「私は我儘で欲張りだから、大事な人たちは死んでほしくないの」
ナナシはホットチョコレートに口をつけると、「甘ッ」と微苦笑していた。それを見て私は自然と口元が綻ぶ。不思議と彼の前では口が軽くなってしまう。
ついつい自分の奥底にある想いを吐露していた。なんだか思い返すと恥ずかしい。
「姫さんは年の割に大人びているって思っていたけれど、思った以上にいろんなものを背負っているんだな」
「そ、そうかしら? もちろん、公爵令嬢として国のために邁進するつもりだけど……。私は自分が生き残りたいから、頑張っているだけだわ」
「それは当然だ。自分あってこそ、だ」
「でも、ロロやレオンハルトは違う。あの二人は自分の命よりも私を優先するきらいがある。それは嬉しいし有難いことだけれど、悲しいことでもあるわ」
口をつけたホットチョコレートは甘かったけれど、二口目は少しだけ苦い。夢の中で、レオンハルトはアイシャをずっと庇いながら戦っていた。それは嬉しかったけれど、反面胸が痛んだ。戦闘面において私は足手まといなのか、悲しかった。
「あー、ところで拙者が入っていないのは?」
「ナナシは私云々ではなく、基本的に死にたがりでしょう」
「それは少し前の拙者であって、今の拙者では違うぞ」
「そうなのですか?」
「今は、姫さんの護衛だからな。そう簡単に姫さんを置いて死ぬ気はない」
「本当に?」
私が疑い深い目で見つめると、ナナシは「もちろん」と仰々しいほどに頷いた。
それを聞いて私は心から安堵した。「ありがとう」と囁くように呟き──自分の口元が緩んでしまうのが分かって、隠すようにカップに口をつけた。
「あ、そうだわ。それなら一つナナシにお願いをしてもいい?」
「拙者が出来る範囲なら」
「忍ってどうやったらなれるのかしら?」
「は? はぁああああああああああ!?」
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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