表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/68

第38話 午前三時のお茶会

 

 着替えを終えると、すっかり眠気が覚めてしまったのでフロア共有スペースへと向かった。サロンのようなもので、見晴らしの良いガラス張りの景色を眺めながら、お茶を楽しむ場所だ。本来はほかの客も出入りするのだが、最上階のフロアは貸し切っているので、他人と会うことはない。会うとすれば護衛の──。


「ン? 姫さん眠れないのか?」

「まあ、そんなところです」


 ソファの一つにナナシが腰かけていた。無精髭(ぶしょうひげ)がないせいか、かなり若く見える。三十代でも通用するだろう。私と視線が合うと、彼はバツが悪そうに頬を掻いた。


「あー、まったりしているように見えるが、警護はしっかりしているから安心してくれ」

「ふふ、その辺は信頼しているわ」

「ならよかった。護衛の仕事がクビになったかと思って肝が冷えたぞ」

「しないわよ! 優秀な人材をわざわざ切り捨てるメリットなんてないもの」


「それは有難い」とナナシは心の底から嬉しそうに笑った。お世辞ではなのだけれど、ものすごく喜んでくれた。なぜ?

 私が小首を傾げつつも、お茶を入れようとカップなどを準備する。


「……ナナシも何か飲む?」


 雇用主にお茶を淹れさせるわけにはいかない云々で、数分ほどの問答が繰り広げられた。結果、私が折れることで決着がつく。こういう所は律儀というか、真面目だと思った。

 というかお茶を淹れるだけでこの騒ぎって……。疲れる。みんな私を大事にしてくれるのは嬉しいけれど……。


(贅沢な悩みよね……)

「ああ、そうそう。中立国リーベでの情報が欲しいといっていたから、軽く調べておいたぞ」

「え、本当!?」


 ナナシはまるで手品のように、何もないところから巻物を二つ見せた。私は巻物を受け取り、報告書を読み解く。とても読みやすくまとまっている。

 大陸全土の冒険者ギルドの情報統制、魔物討伐は全て商人の依頼という新たな流通系統。それを提案したのは、リーベ国宰相の息子ルーク=グレイ・イグレシアスと書かれていた。

 その名に私はゾッと寒気が走った。

 トラウマとも呼べる過去に、呼吸が浅くなってしまう。


(大丈夫……。怖くなんてない。今のうちにルークのことを調べて接点を作る事で……処刑台行きを変えられるかもしれないもの……)


 ぐっと、唇を噛みしめて耐える。

 恐怖も、(あふ)れ出る感情も全て──乗り越えようと足掻く。


「はい、姫さん」


 その声に私は弾かれるように顔を上げた。

 ナナシの両手にはカップが二つ。チョコレートの香りがフロアに漂った。


「……ありがとう」


 いつの間にか固く拳を作っていた。彼の言葉で私は力を抜いて、カップを両手で受け取った。ナナシはアイシャの隣ではなく、少し離れたソファに腰を下ろす。本来従者であれば、立ったままで飲み物を一緒に飲むのも許されないのだが、そこはナナシが折れてくれた。

 口を付けるとカカオの香りと甘さが、冷たくなった体を温める。


「甘くて美味しい」

「それは良かった」

「あ、そういえばナナシの故郷だと潜入が得意な忍って、武器は機関銃だったりするの?」

「ぶッツ。姫さん、そりゃ何の冗談だ? 忍は斥候(せっこう)や潜入が得意だが、だからこそ目立つような武器は使わないぞ。だいたい機関銃を使うなんて、ロザ・クラーロ共和国ぐらいじゃないのか」


 ナナシの言葉に私は「そっか」と頷く。

 確かによく考えれば暗殺者という割に戦い方が大胆(だいたん)だったし、魔法をほとんど使っていなかった。となると枢機卿たちはロザ・クラーロ共和国からも、何らかの密約を交わしているという可能性がある。エルドラド帝国内だけで終わらない予感がしてきた。

 世界そのものと戦っているような錯覚(さっかく)を覚えてしまう。


「にしても、なんで忍なんだ? 武士の方が恰好いいだろう?」


 ナナシなりの気遣いなのだろう。わざとふざけたことを言って場を和ませてくれる。私はそんな彼に感謝し笑顔で返す。


「ふふっ。うん、ナナシとその太刀はすごく似合っていて、恰好いいわ」

「おお! さすが姫さん。この良さがわかるとは見どころがあるじゃないか」

「ありがとう。極東は珍しいものがあるから、すごく好き。特に将棋(しょぎ)はとても面白いわ」

「よくご存じで」

「ええ、母様に昔教えてもらったの!」


 私は墓穴(ぼけつ)を掘ったことに気づく。その空気を敏感(びんかん)に察したのか、ナナシは微苦笑する。


「えっと……」



楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

平凡な令嬢ですが、旦那様は溺愛です!?~地味なんて言わせません!~アンソロジーコミック
「婚約破棄したので、もう毎日卵かけご飯は食べられませんよ?」 漫画:鈴よひ 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

【単行本】コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

訳あり令嬢でしたが、溺愛されて今では幸せです アンソロジーコミック 7巻 (ZERO-SUMコミックス) コミック – 2024/10/31
「初めまして旦那様。約束通り離縁してください ~溺愛してくる儚げイケメン将軍の妻なんて無理です~」 漫画:九十九万里 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ