第36話 回避不可能!?聖下暗殺事件
深淵を照らす火花。
轟音と共に夜空を彩る刹那の光。
祭りで雑踏が多い中、天に届くような摩天楼。階段を駆け上がるのは足音、それを追う甲冑音がガチャガチャと響く。
「お嬢様、あと少しです」
「うん……!」
私とレオンハルトは黒い外套とフードを深々と被っていた。教皇が幽閉されている部屋まであと少し。
息を荒げながらも私は足を動かしていたが、レオンハルトは私を抱えて階段と壁を蹴って跳ぶ。その脚力はすさまじく、あっという間に階段を駆け上がる。
しかしながら状況は最悪だ。
(どこで情報が漏れた? 警備が手薄になるどころか、待ち構えていたような配置……。これは嵌められた!?)
私は歯噛みしながらも、レオンハルトのサポートをすべく防御魔法を展開する。
矢、投擲を弾く。さらに魔法無効の効果によって魔法の発動を無効化した。見つかってしまったのは予想外だったが、ここで撤退する訳にはいかない。
機会は一度のみ。最初で最後の救出劇。
(多少強引かもしれないけれど、このまま進んでいくしか突破口はない!)
「お嬢様、速度を上げますので私に掴まっていてください」
「わかったわ!」
レオンハルトの背中に抱き着く。
次の瞬間、階段の壁を蹴って駆け上がる。その速度としなやかな動きは甲冑を纏った騎士団たちを出し抜き、塔の屋上へと駆け登った。
奥の扉は重々しく、鉄か何かの特殊なもので作られていた。
(警備兵どころか騎士団もいない?)
嫌な予感ばかりが強まっていく。
情報が漏れていたこと。的確な配置をするも、教皇の部屋の前に警護する者はいないことに嫌な予感ばかりが強まっていく。
アイシャは防御魔法をさらに強化する。
「はああああああ!」
レオンハルトは大剣を振りかざし、強固な扉を飴細工のように易々と切り裂いた。
眩い光と共に、部屋の向こう側から花火が舞い上がる火花が煌めいた。
一瞬、部屋で何が起こっているのか、私は目視しているのに頭に入ってこなかった。
飛び散る鮮血。
白い法衣に血が滲み、崩れ落ちる老人が一人。
白髪の髪、私の思い出の中では、いつも柔和な笑みを浮かべていた──ベネディックトゥス=エル・ホワイト教皇が崩れ落ち、金の刺繍を施された赤い絨毯が更に赤黒く染まる。
「聖下!」
教皇を殺したのは頭を隠して仮面をついていた──しかし枢機卿の証ともいえる藍色のストラが窺えた。人数は三人。内二人の佇まいからして、暗殺に特化した手練れだろう。
「賊か、ちょうどいい。殺しなさい」
パタンと、枢機卿は手にしていた分厚い本を閉じた。それが合図ともいうかのように、控えていた二人は動く。
「ハッツ」
「ハイ」
彼らは私とレオンハルトとの距離を詰め──肉薄する。レオンハルトは初撃を回避すると、大剣で騎士の剣を薙ぎ払う。
「お嬢様、撤退しま──」
銃声が轟いた。それも三方向からの一斉射撃。エルドラド帝国や中立国リーベではあまり使われていない鉛球と火薬を使用する射撃。ロザ・クラーロ共和国では主流になっている武器をしようしているのか。
私は防御魔法を展開したが、疲労が祟ったせいか防御魔法に亀裂が入る。銃弾の雨が容赦なく私とレオンハルトに降り注ぐ。
(連続発砲が出来るなんて……。この威力、このままだとジリ貧だわ。動けるうちに撤退しないと……)
「……お嬢様、すみません」
振り返った彼は困った顔で微笑んでいた。レオンハルトの額から血が流れ落ちているのが見える。それよりも私は彼の言葉が気になった。
まるで今生の別れのような言い方。
そしてその予感は現実となる。レオンハルトは私を抱き上げると、跳躍。
塔から飛び出す。背後からの魔法をかき消すが、物理防御壁が音を立てて砕かれる。それと同時に槍がレオンハルトの背中に突き刺さった。
「ぐっ……」
「レオンハルト!」
「大丈夫です……。まだ私は死にませんよ」
(急いで治癒魔法を──ッツ!)
「させません。貴女の加護は全て回収させてもらいます」
断罪する声は、固くなにものをも覆させぬ意思が垣間見られた。
その男は塔の窓から私を見ていた。そして──巨大な魔法円が空に浮かぶ。
教皇に匹敵する魔力に私は背筋が凍り付いた。
「ッツ!!」
手の甲に浮かび上がる聖印に亀裂が入る。
硝子が砕けるかのように、聖女の証までも私の手から離れて行く。手を伸ばしても聖印は砕け散って──私はただの少女に戻る。
視界が歪み、悲鳴染みた声を上げた。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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