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第51話 疑惑

 月華げっか風来館ふうらいかんは、この国の建国時からずっと同じ場所に店を構えて来た、とても長い歴史を持つ商店である。

 初めは台車を引いて商品を売っていたが、他国の商人から買い取った珍しい商品を扱うようになって、一気に業績を伸ばした。

 旅商人である李楽りがくは、この店に商品を卸している遊楽ゆうらくという商会の当主をしている。

 慧臣えじんは、令月れいげつから託された手紙を届けに遊楽の商人たちが住んでいる屋敷に来たのだが、その道中、ずっと藍蘭の白い足のことが気になって仕方がなかった。


(足はほとんど日に当たらないから、顔や手と色が違ってもおかしくはないけど……それにしても、あれは白すぎだったんじゃ? 令月様の肌よりも————)


「————うわっ!」


 ぐるぐると同じことを何度も考えていると、大きな何かにどんとぶつかって、尻餅をついてしまう。


「いてて……なんだよもう!」


 尻をさすりながら、涙目で顔を上げると、黒い山のような色黒の大男が慧臣を見下ろしていた。

 着ている衣も黒だったため、慧臣には一瞬それが黒い塊に白い目玉がくっついているように見えて、固まる。


(な、なんだこれ……!! 人間か!? 妖か!?)


 変なものが見えるせいで、色々と勘ぐってしまったが、その大男はニヤリと笑って白い歯を見せながら手を差し出した。


「大丈夫? 小さすぎて気がつかなかったわ」


 この大男は、烏岳うがく

 令月が言っていた、店番をしている色黒の大男である。


(確かに、色黒の大男だけど————それにしたって、黒すぎないか!?)


 ついさっき見てしまった藍蘭の白すぎる肌とは正反対で、こちらはよく日に焼けた肌をした————慧臣が今まで出会った誰よりも大きな体格の良い男だった。

 李楽も大きな男だと思っていたが、その倍はある。

 ただの店番にしておくにはもったいないくらい、筋骨隆隆であった。


「だ、大丈夫です」


 慧臣が恐る恐る手を取ると、ヒョイっと立たされ、尻を撫でられる。


「な、何するんですか!?」

「あなた、月宮殿の使いね。ごめんなさいねぇ、こんな可愛いお尻に何かあったら大変だわ、すぐに手当しなくちゃ」

「ちょ、ちょっと!」


 さらに人さらいのように軽々と肩に担がれて、慧臣は尻を撫でられたまま屋敷の中に連れて行かれた。


「下ろしてください! 自分で歩けますから!」

「ダメよぉ……アタシがどこも異常がないか、きちんと隅々まで見てあげるからねぇ。それまでは、安静にしていないとぉ」


(隅々って、どこまで!?)


 身の危険を感じて、慧臣は抵抗したが、敵うはずもなかった。




 *


「————え、なんや、慧臣に手紙もたせてウチに送ったん?」

「ああ、まさか、お前が今日来るとは思ってなかったから……入れ違いになってしまったようだな」


 一方、月宮殿には李楽が来ていた。

 また珍しい品が入ったため、令月に早速売りつけようとやって来たのだが、慧臣が月宮殿を去った後。

 慧臣は無駄足だったのだ。


「ってことは……あぁ、今頃、大変なことになってるかもしれへんなぁ」

「大変なこと?」


 令月は、李楽がいう大変なことに何も思い当たることがなく、首をかしげる。


「手紙はお前がいなければ店番の男に渡すように言ってあるが……?」

「その、店番の男が問題やねん。俺、前に言わへんかった?」

「何を……?」

「あいつ————烏岳はなぁ、仕事はできるし、それにウチで一番腕っ節も強い男や。西南の異国人の血ぃが混ざっとるこの国じゃぁ珍しい男やけど、一つだけ欠点があんねん」

「なんだ?」


 そんな珍しい男に一体、どんな欠点があるのかと、期待して令月は興味津々だった。

 しかし————


「男色の疑惑があんねん。それも、かわええ顔の少年限定」

「……は?」


 まさかの欠点に、令月の顔がひきつる。


「大人の男には興味ないねん。でも、慧臣みたいなちいちゃくてかわええ顔の少年は……————多分今頃、大変な目に合わされとるわ」


 令月は断じて男色家ではないが、慧臣は従者としてそばに置いている大事な収集品の一つだ。

 それを、そんな危ない男の元に送ってしまったことに危機感を覚える。

 令月が何より嫌いなことは、自分の収集品に傷をつけられることだ。

 そのまま、綺麗なら綺麗なまま、歪なら歪なままの状態にしておきたいのが、収集家としての令月の方針である。


「俺今すぐ屋敷に戻るわ。月華風来館の事は、話通しとくわ」

「いや、待て、俺も行く」

「どこに?」

「お前の屋敷だ。慧臣に何かあったら……ああ、考えただけでも悍ましい!! 藍蘭!!」


 烏岳に好きなようにされている慧臣の姿を想像してしまって、令月は身震いしながら、藍蘭に馬の用意をさせると、三人で李楽の屋敷まで急いだ。

 実は令月も幼い頃、そういう趣味の異国人に捕まったことがあり、とても怖い思いをしたことがある。

 それを助けてくれたのが、藍蘭の養父だった。



「————いぎゃあああああああああああああああああああああ」


 令月たちが屋敷にたどり着くと、中から叫び声が聞こえる。


「な、なんだ!? 今の声は!?」


 慧臣の身に何かおきたのではないかと、慌てて中へ駆け込んだ。


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