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第43話 ズバリ言うわよ


「え? いや、それは……確かに普通ではないですけど」


(変な話にばっかり興味があるし、女より怪奇話を優先するし、月に行きたがってるし……あ、そういえば、あの絵————藍蘭さんどこに置いたんだろう? 俺が月宮殿に医官を連れて戻った時には、持っていなかった気がするけど……)


「月宮殿の王弟殿下の従者は皆見えると噂には聞いていました。やはり、あなたにも見えているのですね……そうです。あのお方は、人間ではありません」

「そう……人間じゃな————はい!?」


 あまりに驚きすぎて、大きな声が出てしまった。

 明了は慌てて、慧臣の口を塞ぐ。


「しっ!! 声が大きいです!!」

「————なんだ慧臣、どうかしたか?」


 令月も国王も皆慧臣の声に驚いて、慧臣の方を見る。

 明了が手を離すと、大きく首を左右に振って、慧臣はなんでもないと否定した。


「なんでもないです。失礼いたしました!!」


 深々と頭を下げ、必死に明了の発言の意味を考えるが、さっぱり理解できなかった。


(確かに、令月様は誰よりもなんというか、綺麗で、人間離れした美しさは持っているけど……人間じゃないだなんて、そんなわけ————)


「続きは後ほどいたしましょう……」

「そ、そうですか」


(だったら、今話さなくても良かったじゃないか……!!)


 なんだか無駄に振り回されたような気がして、慧臣は少し苛立った。

 どうもこの明了は掴み所がないというか、なんだかこれまで体験したことのない不思議な感覚を慧臣は覚える。

 からかわれているのかとも思ったが、彼女の目は真剣だった。



 *



 愛桜堂は、内部もすっかり別物のように綺麗になっていた。

 あの簪が入っていた押入れの襖も張り替えられ、行燈や提灯の明かりの配置が見事なのか、幻想的な美しさだった。

 特に愛桜堂の名にふさわしく、ふんだんに桜を模様や造形に使用しているところにこだわりを感じる。


 この部屋の新たな主である側室妃・希桜きおうは、まだ十五歳。

 側室妃の中でも一番年長の翠蓮すいれん妃と、親子ほどの年の差がある。

 慧臣とはたった二歳しか変わらないのにも関わらず、どっしりと構えているとても大人びた印象だった。

 地方の女官が若くして王のお手つきとなるくらいだから、何か王を誘惑するようなことをしたのだろうと勝手に思い込んでいたが、希桜は男なら誰でも惹かれるような豊満な胸を強調するような衣を着ているというのに、なぜか全く下品だとかいやらしさが全くない。

 どこか守ってあげたくなるような、少し寂しげな、儚げで憂いを帯びた瞳が印象的だった。


「陛下、この方々は?」

「俺の一番下の弟・令月と、その従者だ。名は————なんと言ったかな?」

「よ、よく慧臣でございます。陛下」


 慧臣は国王と会うのは二度目だが、言葉を交わしたのはこの時が初めてであった。

 明らかに緊張している慧臣の姿が面白くて、令月はニヤニヤと笑いを堪えている。


「ああ、そうだった。合点のことはすでに知っているな?」

「はい。それはもう、この後宮にいて知らない方がおかしいくらいですわ」

「ほう、やはり、長年この後宮で働いているためか?」

「いいえ、背後に悪霊が取り憑いていると、有名な宦官なのですよ。陛下はご存知ありませんか?」

「……悪霊?」


 滝のように汗をかいている合点に、国王は視線を向ける。


「……それも、明了の見立てか?」

「はい。もちろんです。明了は素晴らしいのですよ。普通の人には見えないものが、この者の目にははっきりと映るのです。明了、詳しくお話ししてあげて」

「かしこまりました」


 明了は一つごほんっと咳払いをした後、饒舌に語り始める。


「とても強い力を持った悪霊が、この方に取り憑いております。それはそれは、恐ろしい顔をした女でございます。肌の色が白く、目元が黒く窪んでいるのはそれが死霊であるという証拠にございます。きっと長い間この方に取り憑いているのでしょうが、この方自身には害はありません。あるとすれば、少し首や肩が凝りやすいくらいでしょう。問題は、周囲への影響でございます」


 明了はもともと二重の大きな目をしていたが、それをますますカッと見開く。

 慧臣にはその瞬間、瞳の色が少しだけ変わったように見えた。

 まるで全てを見透かされているようで、少し怖かった。


「ズバリいうわよ。その悪霊の力は強すぎて、私の手には追えません。あなたが死ぬまで、その女の霊はあなたのそばを離れないでしょう。一生このままです」

「そ……そんなぁ————」


 どうすることもできないと改めて宣言されてしまって、合点は意気消沈してしまう。


「悪霊とは……なんと恐ろしい————」


 王は後宮の管理を任せている宦官に悪霊が取り憑いているなんて不吉だと眉をひそめる。

 合点はこのまま自分は後宮を追い出されて、職を失ってしまうのだと悟り、ボロボロと涙を流して泣き出してしまった。


「ですが————ご安心ください」


 そこへ、さらに明了が続ける。


「この悪霊は、悪霊ではありますがこの方を守っているのです。この方を邪険に扱ったり、いじめたり、悲しませたりすると、悪霊の影響を受けるということです」

「え……?」

「ですので、どうか陛下は決してこの方が悲しむようなことはないようにした方が懸命でしょう。腫れ物には触らない方が良いです。ただ、赤子には悪い影響を及ぼす可能性があります。幼い子供には、見える可能性が大人よりも高いですから……————何もしていないのに、なぜか赤子に泣かれて困った経験はありませんか?」

「それは……あります!!」


 合点は心当たりがあった。

 子供は好きなのに、昔からあまり泣かない大人しい性格だとか、逆に人懐っこい愛想の良い子だとしても、とにかくみんな赤子は合点が近づくとわんわんと激しく泣いてしまう。


「このことをきちんとお伝えしたかったのですが、いつの間にか変な噂が立っていたようでございますね。わたしが悪霊を見て気を失ってしまったばかりに……申し訳ございません」

「あ、いえ……」


 明了は深々と頭を下げ、泣いていた合点もつられて頭を下げる。


「————ん? それで、合点の噂とはなんなんだ?」


 国王は話を聞いていても、一体どんな噂になっているのか見当もつかなくて、改めて聞き直した。

 そこで、世継ぎとなる王子が生まれないのは合点に取り憑いている悪霊のせいだという噂になってしまっていたことを初めて知る。


「なんだ、そんな話か。安心しろ、合点、王室に中々世継ぎが生まれないのは、お前のせいではない。先王の……————我らの父が受けた呪いのせいだ」

「……呪い?」

「今日はそれについて明了に聞いてみようと、俺はここへ来たのだよ。もちろん、一番の目的は、希桜との仲を深めることだが」

「まぁ……陛下ったら」


 手を握られながらそう言われらので、希桜はぽっと頬を赤くして恥ずかしそうに照れていた。

 いつの間にか二人だけの世界に入っていきそうになっている。


「兄上、乳繰り合う前にちゃんと話してください。何を聞きたかったんですか?」


 令月が冷めた目で言うと、国王はハッと我に返って令月の方を見る。


「ああ、そうだった。すまんすまん。希桜が愛らしくてつい……」


 今度は視線を明了の方へ映して、改めて国王は尋ねる。


「明了、この呪いを解く方法を、お前は知っているだろうか————? 先王が遠い異国の者から受けた呪いなのだが……」


 これは二十年前、先王が二十年前に受けた呪い。

 先王が死んだ後も、続いている呪いだ。



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