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第42話 王位の行方


「ダメです。お帰りください」

「でも……!」

「でももくそもありません。ダメなものはダメです。正式な申請がない限り、ここをお通しすることはできません」


 合点が中々目を覚まさなかった為、後宮の門まで来た時には、すっかり夜になってしまっていた。

 融通のきく昼の門番とは違い、夜の門番・もん番堅ばんけんは相手が王弟殿下であろうと、事前に申請許可の出ている人間以外は絶対に中に通さない男である。


「きちんと申請してからお越しください。王命でもない限り、御通しすることはできません」


 それも、門番なだけあって、屈強な大男である。

 彼らは文官でも宦官でもない、武官だ。

 後宮は宦官と国王以外の男子禁制の場所であるが、一応門の外に立っている為、後宮ではなく王直属の親衛隊の所属なのである。

 非力な宦官や慧臣が叶う相手ではない。


「僕は宦官だよ!? それでもダメなのか!?」

「わかっていますよ。けれど、ダメなものはダメです。宦官であろうと、事前の申請がなければ通せない決まりになっております。そもそも、昼の門番から引き継いだ申請書に合点様のお名前はありませんので……」

「そ、それは……!!」


 本来、後宮から出るときは門番の管理している退出記録の名簿に名前を書かなければならなかった。

 もちろん、なぜ外へ出るか理由も添えて。

 宦官たちは基本的には後宮で仕事をしているが、昼間は他の部署へ行ったり、側室妃らの用事や雑務で何度も出入りを繰り返す為、その度に記入するのはとても面倒なのである。

 普段なら、一番最初に出た時間を書いて、一番最後に戻ってきてから記入するようにしていた。

 昼の門番であれば、それで通用するのだ。


 ところが、この夜の門番の場合は通用しない。

 昼の門番のいるうちに戻ってくるつもりであった合点は、出て行く時に名簿に名前を書かなかった。

 そのせいで、宦官であっても後宮に戻れなくなってしまったのである。


「まったく、お前がちんたら泡なんか吹いて寝ているからだぞ、合点」

「そ、そんな……!!」

「ちょっと、令月様! 合点様は幽霊が苦手なようですし……仕方がないではないですか。というか、見えている俺も夜に見るとめっちゃ怖いんですけど……!! 明日の朝にでも出直しましょうよ」

「そんな!! 慧臣くんがもっと早くに教えてくれればこんなことには————っというか、僕は悪霊が憑いていると知っているのに放っておかれるのは困るんだがっ!?」

「大丈夫ですよ。今まで合点様にはなんの害もなかったじゃないですか。それを知った途端に何か変わるわけでもないでしょうし」

「しかし……!!」


 門の前で騒いでいる三人に、番堅は呆れ、大きく息を吸った。

 今夜はこれから国王が後宮へ渡る予定になっている。

 腹から声を出して、一喝してやろうと思ったのだ。

 ところが、息を吸ったところで止まってしまう。


「————なんだ、令月じゃないか。後宮で何かあったのか?」


 国王が予定より早く後宮に来てしまった。




 *



「いやぁ、流石兄上。やっぱり、兄上がいれば不可能なことは何もないですね」

「ははっ……そうだぞ、令月。あのお堅い番堅だって、国王の命令には逆らえないんだ。どうだ? お前も、国王にならないか?」


 国王と令月がなんだかすごい重要な話を、愛桜堂へ向かう道中で皆が聞いている中堂々と話しているのを聞いて、慧臣は肝が冷える。

 令月が国王になるとは、一体どう言うことか————


(令月様が国王になる……? まさか、そんな、冗談だよな?)


 まさか自分が支えているこの変人で有名な王弟殿下が、王になる可能性があるだなんて、慧臣は考えもしなかった。

 ところが、どうやらそう言う話が出ているのは事実のようで……


「兄上、その話はお断りしたはずですよ」


 いつもどこかふざけていると言うか、真剣味に欠ける令月の声がそこだけぐっと重くなる。

 それまで笑っていた国王からも、笑顔が一瞬消えた。


「俺は本気だぞ? というか、このまま王子が生まれなければ、いずれお前に————」

「はいはい、それをどうにかするために、こうして愛桜堂へ来たのでしょう?」


 令月は王の言葉を遮って、愛桜堂を指差した。

 幽霊が出る事故物件だった愛桜堂は、今は綺麗に整備されていて、明かりが灯っている。


「お待ちしておりました」


 入り口の前に、女が一人立っている。

 それが、合点の言っていた新しい側室妃の侍女・明了めいりょうだ。

 明了は深々と頭を下げて一礼した後、顔をあげてその場にいた全員の顔————というか、顔よりも少し後ろ側の方を見る。

 合点の方は恐ろしくて見たくないという感じですぐに目をそらしたが、令月の方を何度も見ては、目を丸くしていた。


「これは……!! なんと言うことでしょう——————」

「ん? なんだ? 弟がどうかしたのか?」


 国王は令月の方ばかり見ている明了を不審に思い、声をかける。

 すると慌てたように、明了は頭を少し下げ、視線を令月からそらした。


「いえ、なんでもございません。ここで口に出すのは……————先ずは、中へお入りください。陛下」


(…………? なんだろう? 何か、あるのか?)


 国王、令月、王付きの内官、女官の順番に愛桜堂の中へ入って行き、合点と慧臣もそれに続いた。

 ところが、一番最後に入った慧臣の手を明了は急に掴んで止める。


「な、なんですか!?」

「……あなた、あのお方————王弟殿下の従者ですね?」

「そ、そうですけど……?」

「では、あのお方が何者か……わかっているのですか?」

「な、何者……? え? 何者って、だから、王弟殿下ですけど?」

「そういう意味ではありません。あのお方は————」



 明了は、他の誰にも聞かれないように、慧臣にだけ聞こえるように小さな声で言った。



「————普通の人間ではありません」




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