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月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き  作者: 星来香文子
第一章 王弟殿下と後宮の事故物件
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第4話 重なる顔


(おかしいと思ったんだ……あの時から————)


 実は慧臣は、令月に拾われる前から、普通の人間には見えないものが見えるようになっていた。

 常に見えているわけではないが、それが顕著になり始めたのは母が死んだ後からである。

 時たまではあるが霊的な何かが見えるようになり、そこへ空腹で三途の川を渡りかけたせいもあるだろう。

 極限状態になったことで、今までなかった能力が開花したようだった。


 それにさらに追い討ちをかけたのが、令月の収集品だ。

 世界各国から集めているという奇妙でおかしな収集品のどれかに影響を受けたようで、片付けている時にその怪しげな道具に触れ、その力はより強くなった。

 慧臣は自分ではそのことに確信が持てなかったが、令月はそういう奇怪な話が好きで、自分よりもはるかに知識があるはず。

 最初は令月にもそういう不思議な力があるのではないか————と、自分に見えていることなんて見透かされているのだろうと思っていた。

 人間離れした美しさがそういう雰囲気を醸し出していたし、きっと、自分の力を見抜かれて拾われたのだろうと。


 ところが、一緒に暮らしてみると、どうもおかしい。

 合点が後宮の幽霊の話をしに来た時、慧臣には合点の肩に一瞬ではあるが女の顔を見た。

 目元が真っ黒で、穴がぽっかり空いているかのような、なんとも恐ろしい女の顔だ。

 令月はなんの反応もなかった。


(もしかして守護霊か何かかと思っていたけど————やっぱり、見えていないんだ。霊感とか、そういう力は全くないくせに、そういうものばかりに興味があるだけなんだ、この人……)


 今も令月の目と鼻の先にいる女の霊がいるというのに、まったく気づいていない。


(どうしよう……)


 合点の肩にいたものとは別の霊のようだが、慧臣にはその霊が悪霊なのか、ただそこにいるだけの無害なものなのかわからなかった。

 ただただ、その霊を目を見開いて見つめることしかできずにいる。

 すると、令月は何を思ったのか、少々照れながらこう言った。


「なんだ、慧臣。そんなに私の顔をじっと見て……私の顔が美しいのはわかるが、今になって見惚れているのか? なんども言うが、私にそう言う趣味はないぞ?」


(何言ってんだこの人……!! やっぱり馬鹿だ。いいのは()()()だ)


 今思えば、令月は何もできない。

 王族だから、下々の者たちにすべて任せているせいなのかとも思ったが、使い終わった道具は元に戻さないし、部屋は片付けられないし、霊も見えないし、商人から偽物を摑まされているのに得意げにしている。

 そのくせ、相当な自信家だ。

 顔と身分の高さから、褒められ、おだてられながら生きて来たのだろう。


(なんてことだ……!! こんなに顔が良くて、頭も良さそうな見てくれなのに、馬鹿なんだ……!!)


 もっと早く気付けばよかったと、慧臣は後悔する。

 こんなことなら、あの大量にある収集品から使えそうなものを自分で選んで持ってくるべきだったと。


「あの、令月様……そうではなくて————他に何かお持ちではないですか?」

「他に……? どう言う意味だ?」

「触ると霊が見えるようになる道具とか……そういうのは、お持ちではないですか?」

「は? そんな素晴らしいものがあるなら、今すぐ欲しいくらいだが?」


(ああ、ダメだ。やっぱり……)


 令月は覗き込むように首を前に出して、慧臣を訝しげに見る。

 目の前に立っている女の霊に令月の顔半分が重なると、慧臣の目には、令月の頭と霊の顔が混ざり合い、奇妙に歪んで見えた。


(うわっ……気持ち悪い)


「お、まさか……慧臣、お前————……何か見えるのか?」

「えっ? どうしてそう思われるのですか……!?」


 突然言い当てられて、慧臣は動揺する。


(まさか、本当は見えている?)


「お前の表情だ。その表情……いつも私の目に霊が見えないことを馬鹿にしている藍蘭らんらんそっくりだ。まさか、お前にもその力があるのか……?」


 その藍蘭というのが、現在休暇中の侍女である。

 休暇がいつまでなのか、休暇の理由までは聞いてないが、慧臣は納得する。

 これまでどうにかやってこれたのは、その侍女のおかげだったのだろうと。


「あいつは見えるだけで、私を常に小馬鹿にしていたが……もしや、お前もこの私を馬鹿にしているのか?」

「いえいえ! そんなことはございません!! どうして、俺が主人あるじである令月様を馬鹿にするなんてことができましょうか!! 令月様は命の恩人なのですよ? ほんのちょっと、見えてないのか、使えねぇと思っただけです」

「……思ってるじゃないか」

「すみません……」

「……まぁいい。それで、どこにいるんだ? 見えているんだろう?」

「は、はい……」


 令月はきょろきょろと辺りを見回しながら、改めて霊の居場所を聞いた。

 合点も終始、幽霊が怖いようでビクビクと怯えながらだが、慧臣の答えを待つ。


「そこです」


 慧臣は令月の目の前を指差した。


「……そこ? どこだ?」


 令月は顔をしかめる。

 全く見えないし、手に持っている幽霊探知達磨の色も白のままだ。


(気持ち悪い……どうなてるんだ、本当に————)


 令月が動くと、女の顔が度々重なり、ひどく歪んで、本当に気味が悪い。


「令月様の目の前に立っています。顔は俺の方を向いていますが、口から……黒い血————のようなものを垂らした、女の人が……」

「…………ケ……テ……」



(ああ、嫌だ……声まで聞こえて来た……)



「……テ…………タス……ケテ…………タスケテ……」

「うわああああっ!! 出たああああああああぶぶぶぶぶぶ」


 その声は合点にも聞こえていたようで、彼は大きな悲鳴をあげ、その場で泡を吹いて倒れてしまった。


「タスケテタタタスケテタスケテタスケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテ」


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