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月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き【ネトコン13入賞&書籍化決定】  作者: 星来香文子
第四章 王弟殿下と赤鬼の冥婚

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第35話 鬼さんどちら


 慧臣は魂が自分の体に戻ってすぐに、梔子と一緒に赤鬼を探した。

 鬼の姿が自分にも見えるかどうかは、今のところわからないが、小さな人間に似た体をしている————そんな奇妙なものがいたら、いくら慧臣でも気がつくと思った。

 葬儀の参列者たちの衣も使われている道具もすべて黒か白のどちらかしかない。

 それがこの国で行われる葬儀の常識だ。

 そんなことは子供でも知っている。

 その中に、赤が混ざっているなら、部屋の隅で他の姪っ子たちに絡まれていた間に見ているはず。


(あの広い部屋には多くの人がいたけど、俺には何もおかしなものは見えなかった……)


 小さいものなら、誰かの陰に隠れて見えなかった可能性もなくはないが————鬼は特別な力を持つ者にしか見えないのなら、梔子の目を頼るしかない。

 残念ながら、梔子には姉の信子と違って絵の才能も、おしゃべりの才能もない。

 それでも、鬼が見える特別な力は持っている。


(これもある意味才能だよな。鬼の姿が見えるだなんて、他に何の役に立つのかはわからないけど……)


 ここでそれを使わずに、いつ使うのか。

 離れから順に、この広い屋敷の部屋という部屋を一つずつのぞいて見たが、夫妻の部屋、使用人たちの部屋、倉庫に誰も使っていない客室、廊下や玄関、厠や風呂場、台所にも鬼らしきものは見当たらなかった。

 梔子もそこにはいないと何度も首を横に振る。


 あと探していないのは、一番人が集まっている部屋だ。

 棺が置いてある部屋のすぐ隣にあるその部屋では、参列者たちに食事が振舞われている。

 台所とこの部屋を使用人たちはせわしなく行ったり来たりしていた。


 今夜は通夜。

 出棺は明日の昼ごろになる。

 できることなら、今夜のうちに見つけたい。

 赤鬼がまだ犯人のそばにいるのなら、他の誰かも殺されてしまうかもしれない。

 一体どういう理由があって、何が欲しくてこの屋敷の人間が信子の命を奪ったのか————


「梔子様、鬼は……この部屋にますか?」

「…………」


 梔子はまた首を横に振る。


(ここにもいないなら……棺のある部屋か? でも、自分が殺した死体の近くにいようだなんて、犯人がそんなことをするだろうか……?)


 あと見ていないのは、庭と信子の遺体がある部屋だけだ。

 梔子は鬼を見るのが恐ろしいのか、不安そうに慧臣の手を握る。


「大丈夫です。鬼がいるかいないか、それだけを教えてくれれば……あとは、俺がどうにかしますから」


 慧臣は梔子を安心させようと、嘘をついた。

 何の策もない。

 赤鬼を見つけたとしても、どう戦えばいいのかわからない。

 今日は藍蘭もいないし、もしいたとしても、人間の武力が鬼に叶うのかどうかもわからない。

 ただ、震えている梔子が気の毒で、そうするしかなかった。


(鬼は見たことがないし、どうしたらいいのかはわからない。でも、鬼が人間をそそのかしているというのなら、相手は人間ってことになるのか? ……まぁ、どちらにしても、俺に何ができるだろう)


 今この屋敷には、令月以外にも王族がいる。

 王だって、その護衛だってきている。


(いざとなれば、大声をあげればいい。誰か気づいて、助けに来てくれるはずだ。俺には声があるけど、梔子様にはないのだから……)


 勇気を出して、慧臣は棺がある部屋の中を覗こうとした。

 ところが、その前に部屋から真っ赤な衣を着た女が出て来て、慧臣は驚いて足を止める。


「梔子……? どこへ行っていたの? 姉上にきちんとお別れの挨拶をしないとダメでしょう?」

「…………」


 梔子は慧臣の後ろにさっと隠れる。


「……梔子様? この人は誰なんですか?」


(葬式の場で赤い衣なんて、なんて非常識な————……まさか、これが赤鬼? でも、普通に人間の大きさじゃないか)


 そう思った時、梔子は慧臣の背中を指でなぞって、文字を書いた。


『母上』


(母上……!? え!? 母親!? 母親が、なんでこんな格好を————!?)


『鬼がいる。母上の肩の上』


(肩の上……?)


 慧臣は目を凝らした。

 すると衣と同じような肌の色をした、人間のような小さな何かが肩の上で胡座あぐらをかいているのが見えた。


(ちっさ!!! 俺の手ぐらいの大きさしかないじゃないか!!)


 梔子の母親の肩に、赤鬼がいる。

 慧臣が想像していたよりもはるかに小さかったが、確かにそこに存在していた。


(梔子様が怖がっているのは、この赤鬼か……? それとも————)


「まったく、しっかりなさい。また他人の陰に隠れて……もう、この家の子供はあなたしかいないのよ?」

「…………」

「守ってくれる信子もいなくなってしまったのよ?」


(この人、口調は優しいのに……目がとても冷たい。こんなの、母親が子供を見る目じゃない————)


 梔子の手が震えている。

 慧臣は、本能的に梔子を守らなければならないと思った。


(どうしよう。どうしたらいいんだ……)


 相手は自分の主人である令月の兄の妻だ。

 王族の妻ということは、相当高い身分。

 しかも、まだまだ子供の慧臣より背がかなり高い。

 女性にしては背が高い方だ。

 ちょうど沈みかけている太陽の光が逆光となり、その顔に深い陰を落とし、恐怖が増す。


 何か酷いことをされているわけではない。

 ただ、見下ろされているだけ。

 その顔がとても恐ろしかった。

 しかし、ここで騒いだところで鬼の話をしたら、おかしいのは慧臣の方ということになってしまう。



「————慧臣、何をしているんだ」



 張り詰めた空気を切り裂くように、そこへ令月が割って入った。




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