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第30話 ありえない話ではない


「村長が言っていた通り、呪いだったのかもしれないな……」


 令月は李楽が帰ったあと、これまで集めた星屎を全て床に並べながら、そう呟いた。

 大小、色形も様々な石の中に、あの村で手に入れた月の石がある。

 慧臣の目にはキラキラと輝いているように見えるが、令月にはどれも同じ星屎だ。

 こうして集めているのは、月の石のような伝説がいくつも存在しているからだ。


「流星はこの煌神国では凶事とされているが、国によっては吉兆だ。この星屎のように病や怪我を治す不思議な力があるのであれば、確かにそう考えられていてもおかしくはないだろう。だが……————」


 令月は、すでにその力を失ったとされる古い月の石を指で転がす。

 今は輝きの何もない、ただの真っ黒な石だ。


「その不思議な力が、人を殺すことだってある。人間は強欲だからな。不思議な力がある、人知を超えるもの、奇跡を起こせる力があるものを自分のために利用しようとして、奪い、奪い返されたりする。争いの種になりえる。それはある意味、呪いだとは思わないか?」

「……俺にはよくわかりません。っていうか、令月様は、その争いの種になりえるものを、こんなにたくさん集めて何をするつもりですか?」

「言っただろう? 私はいつか、月に行く。これはその為だ。星屎には不思議な力がある。どこの国の書物にも、月に行く方法は書かれていない。きっと、この地にあるものではたどり着くことができないのではないかと……」


 星屎は天から降ってくる。

 この地上にあるもので行くことができないのなら、月から降ってきているかもしれない星屎を集めれば、月へ行く手がかりになるかもしれないと、そう考えている。


「我が国の歴史書にも、天から来たという丸い大きな物体が飛来した記述が残っている。もしかしたら、星屎は月の住人にとって大事なもので、回収しにくるかもしれない。その時、私も乗せて行くように交渉するのだ」

「……また、途方も無いことを————」

「ありえない話ではないぞ、慧臣。この世界には、まだまだ不思議なことで溢れている。今の常識が覆るそんな日だって、起こり得るのだ」

「はぁ……」


 令月は息もつかぬ速さで、天動説、地動説、この地は丸いだとか、とにかく天についての話を永遠とし始めた。

 こうなると、令月はもう止まらない。

 慧臣はほとんど何を言っているのか理解できなかったし、そもそも、令月のようにこの地の仕組みとか、星がどう動くとか、惑星がどうだとか、そういう話には全く興味がなかった。


「つまり、動いているのは天ではなく、この地の方だという話だ。この話が最初に唱えられたのは、今から千年以上も昔のことらしい」

「へー……そうなんですね」


 適当に聞き流し、令月が満足いくまで話させて、適当に相槌を打つ。

 その隙に、床に並べられた星屎を改めて見て、あることに気が付いた。


(あれ……この星屎————姉さんの人形に似てる?)


 今はこの月宮殿に置かれているあの呪いの人形の瞳と、令月の収集品の星屎の放っている妙な光が、とてもよく似ている。


(そういえば、この瞳には変わった素材の石か砂で作られた塗料が使われているって————もしかして、星屎から作られているのかな?)


 慧臣は何度もその星屎と人形の瞳を見比べる。


(砕いて塗料にした……とか?)


「————まぁ、殿下。こんなに散らかして、何をしているんですか。夕飯の時間ですよ?」


 そこへ、夕飯を持って藍蘭がやって来た。


「ん? なんだ藍蘭、今、いいところなんだ。慧臣に天とは何か教えを説いている最中だぞ」

「またですか。そんな話、聞いたって誰も理解できませんよ。そんなことより、いつも出しっ放しで放置するんですから、さっさと元の場所に戻してください。裸足でこの上を歩いて、足の裏が血だらけになったのをお忘れですか?」

「……藍蘭、俺がまだ子供だった頃の話だろう!」

「私にとっては、ついこの間の話です。ほら、さっさと片付けてください……————って、慧臣、何してるの? 殿下が散らかす前に、止めないとダメでしょう?」

「…………」


 慧臣は、藍蘭の瞳もその星屎と同じく妙に光っているのを思い出して、ついじっと藍蘭の瞳を見つめる。


「何見てるの? 気持ち悪いんだけど……」

「いえ、なんでも……ないです」


(まさか、藍蘭さんの瞳も、星屎でできてるなんて——————そんなはずないか)


 人間の瞳が、石でできているはずがない。

 慧臣は一瞬頭をよぎったありえない話を自分で否定して、星屎を片付けるのを手伝った。

 ところが、令月は途中で片付けを全部慧臣に任せて、藍蘭の持って来た夕飯に手をつけ始める。


「あ、ちょっと!! ほとんど片付けてるの俺じゃないですか!!」

「何を言っているんだ、慧臣。お前の仕事だろう。従者なんだから」

「たまにはご自分で片付けてくださいよ!!」

「わかった。わかった。私は腹が減ったのだ。食べてからやる」


 結局、夕食を食べ終わっても令月は全く片付けず、寝所に引っ込んでしまった。


(まったく!! このお方は!! 本当に!!)




【第三章 王弟殿下と廃村の僵尸 了】


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