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第27話 地の王


 干草のおかげで怪我もすることなく安全に降りられるようになっていた井戸の底には、道が続いていた。

 人工的に掘られたもののように見える。

 何かあったときのために、李楽だけを地上に残し、慧臣たちはその道を進んだ。


「よく見ると石壁に装飾の跡があるな。藍蘭、この紋章のようなもの……村の家にあった祭壇のものと似ていないか?」

「ええ、確かに……」

「祭壇?」

「村のすべての家にあったんだ。この村では謎の病が流行っていたらしいし、村人たちは信心深かったんだろう」


(龍のような形だな……)


 慧臣の目にはその紋章が龍のように見えた。

 大きな龍が太陽か月を背に、山の頂に君臨しているような……そんな風に。


「あ……絶対この先に誰かいますよ」


 暗いので最初は提灯の灯りを頼りに進んでいた慧臣たちだったが、奥へ進んで見ると、徐々に明るくなって来た。

 壁に燭台があって、ちゃんと火がついている。

 もう提灯なんて必要ないくらいの明るさだった。

 先頭を歩かされていた慧臣は、その道の先にあったものに驚いて立ち止まる。


「……え……? 家……?」


 家が、すっぽりと地下に埋まっていたのだ。

 それも、一つだけではない。

 まるで、地上にあった村と同じものを、そのまま地下に移動したかのように多くの建物がそこにあった。

 山の中にもともとあった空洞をさらに広げたのか、崩落しないように内部は石垣が積まれている。


 一番大きな建物は、慧臣が僵尸キョンシーに襲われたあの屋敷によく似ていた。

 それに、それぞれの屋敷の中にも灯りはついていて、話し声や笑い声、匂いがする。

 人がいる。

 地下この村には人がいて、普通に生活していた。


「どうなっているんだ? なんで、こんなところに、村が……?」


 令月もその異様な光景に驚いた。

 そこは地図にも書かれていない、存在しないはずの村だ。

 煌神国の中にあるのに、誰もその存在を知らない。


「————なんだ、お前たち!! 誰だ!?」


 たまたま家の外に出て来た村人が、大きな声で叫ぶと、ぞろぞろと村人たちが顔を出す。

 男ばかりで、非常にむさ苦しい。

 そして、みな一様に同じ衣を着ていた。

 僵尸キョンシーが着ていたのと同じ、長袍チャンパオのような黒い衣。

 その胸元には、大きな龍が太陽か月を背に山の頂に君臨しているような刺繍が施されていた。


(人間……だ。この人たちは、生きてる————)



「捕らえろ!」

「よそ者だ!!」

「よそ者だ!!」



 三人は取り囲まれ、一番大きな屋敷に連行されてしまった。




 *



「————は? 王弟だと? ふざけたことを言うな。王族がこんな場所まで来るはずがないだろう」


 屋敷には豪華な装飾が施された椅子があった。

 まるで玉座のようなその椅子の上に、この村の長らしき男は腰を下ろすと、無理やりひざまずかせた慧臣たちを見下ろす。

 頭に毛は一本も生えていないが、その代わりに蓄えられた立派な顎髭を何度も触りながら、男は令月の顔をじっと見る。


「まぁ良い。お前たちは三人とも無駄に顔の作りがいい。女はここじゃぁ希少だ。お前は儂の子供を産め。男どもは、あのお方の慰み者にちょうどいい」


(あのお方……?)


 てっきりこの男が一番偉いのかと思った慧臣は驚いた。

 相手が何者かよくわからないこの状況で、下手に動くのは得策じゃないことくらい、わかっている。

 先にこちらの正体を明かしたが、王族がこんな辺鄙な場所に来るはずがないという男の発言は最もだ。

 都でのんびり気ままに暮らしていればいいものを、わざわざ廃村となった村までやって来る方がおかしい。

 そんな話を、「はい、そうですか」と信じる方がおかしいのだ。

 令月が変人である話は、都に近い場所に住んでいる人間か、宮廷に仕えている者くらいしか知らないのである。


「まったく、話のわからない男だな。私が王族であることが信用できないのならもう良い。さっさと星屎をよこせ、このハゲ」

「は、ハゲだと……!?」


 穏便にすませればいいものを、令月は男の神経を逆撫でするようなことばかり言った。

 男は頭のてっぺんまで真っ赤になって憤慨し、茹でたタコのようになって椅子から降り、令月の胸ぐらを掴んだ。


「儂のどこがハゲだと言うんだ!! これはハゲじゃない!! 剃っているだけだ!! 本当は生えているんだ!! あえてこうしているだけだ!!」

「だから、薄いのを隠すためだろう!? お前の頭などどうでもいい。私は星屎さえ手に入れば、こんな村どうでも良いのだ」

「なんだと……!?」

「星屎を出せ。ここにあるのだろう? 金ならいくらでも出すぞ? こんな地下にこもって、まさか一切をこの地下内で賄っているわけではないだろう? 金は、必要ではないのか?」

「それは……!!」


 金の話をされて、いつの間にか形勢が逆転していく。

 これだけの人数が地下で生活していくには、不足しているものが山ほどあるはずだ。

 地下には陽の光が当たらない。

 作物は育たない。


 令月は以外にもちゃんと周りを見ていた。

 囲まれた時、人はたくさんいたが、肥えている人間が一人もいない。

 村の長らしいこの男も、座っていた椅子や建物の装飾は精巧に作られていて豪華ではあったが、頬が痩せこけていて、贅沢な暮らしができているようには見えなかった。


「星屎とは……なんだ?」

「なんだ、そんなことも知らぬのか。天から落ちる石だ。数日前に、この村の……地上に落ちたはずだ」

「天から落ちる石……? まさか————月の石のことか?」


 この男の名は雁来紅がんらいこう

 この村の村長である。





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