赤い靴
夏のホラー2023の参加作品です!
ちょっとした秘密の話ができた。じいちゃんとばあちゃんの墓参りに行った時の話だよ。
それは、照り照りの太陽とセミの鳴き声が響く、お盆のこと。僕は母さんの実家に行けることが楽しみで仕方なかった。
みんなで集まってスイカ割りとかカブトムシ狩りとか、楽しいことしまくれるから!
「道に迷わないでよ〜」
母さんたちの声。僕は適当に聞き流して「わかったー!」って言った。地方の友達とかくれんぼ。楽しいな!
近くの山の中に入って隠れる場所を考える。今日は暑かった。だから川の近くに行こうと思った。すぐに見つかるかもしれないけど、暑いのだから仕方ない。
僕は勘を頼りに川の近くまで行く。道中に赤い女の子用の靴が落ちてた。落とし物かな?
ま。いっか。
友達が僕を探すのを待った。でも一向に探しに来ない。おかしいな。こんな場所。すぐに見つかるはずなのに。
(アイツら。遊びを変えたな!)
そう思って帰ろうとした。のだけど……僕は照り照りの暑さのせいで、ふらついてしまった。そのまま川にドボン!
(冷たい!)
そんなに深くなかったから、しばらく無心でチャプチャプしてたよ。で、水から上がってから気がついたんだ。
どこかで見たような、見てないような。そんな不思議な景色。ヤバい、迷子になっちゃった!
「うわぁーん!」
僕は泣いた。帰り道が分からなくなっちゃったからだ。必死に帰るためのヒントは何かないかと頭の中で考えていた。
「あ、そうだ!」
赤い女の子用の靴……!
てんとう虫みたいな艶のあるアレなら、目立つから見つけられるかもしれない。僕は涙を拭って、「赤い靴……赤い靴……」と呟いた。
なにか言わなかったら一人ぼっちで寂しかったからだよ!
突然雨が降り出した。しかも大降り。それでも僕は「赤い靴」と呪文のように唱えた。負けないぞ! 生きて帰るんだ! そんで冷えたスイカ食べる!
しばらく歩いたところで、僕と同じなのかな? 土砂降りの中、岩に座っている和服の女の子を見かけた。一人で寂しかった僕はすぐ声をかけた。
それに、こんなところに女の子一人で居るのはキケンだ!
「ねぇ!」
「……」
「君も迷子?」
よく見てみると、女の子は和服なのに真っ赤な靴を履いていた。しかも、雨なのに全く濡れていない。
(ゆ、幽霊!!)
僕は声に出しそうなのを抑えて、逃げ出そうとした。でも足を釣ってしまって動けなかった。くそぅ、歩き過ぎたせいだ……! どうしよう!!
「僕なんか食べても美味しくないぞぅ……!」
「……」
女の子は僕の威嚇を不思議そうに見ていた。かわいい顔して実は近づいたら怪獣みたいにギザギザな牙が出てくるんだ。もう終わりだ!
そう思っていたら、女の子は岩から降りて歩き出した。振り返って「おいでおいで」ってしてくる。
「僕を君の巣の中に導くんだな。その手には乗らないぞ!」
「……」
女の子は、首を傾げて歩き出す。たまにチラチラこちらを振り返りながら。まるで「付いて来い」って言ってるみたいに。
このまま雨に打たれて帰り道を失って餓死したり、獣に食べられたりするよりも、まだ望みはある。よし、付いていこう! 何が起こるかわかんないけど!
しばらく僕らは歩いていた。女の子は僕が付いてきているか確認するように、いちいち振り返っては笑ってくる。
「ちゃんと付いてきてるよ!」
「……」
そんなやり取りが何十回と続いたとき、母さんたちの声がした。僕の名前を呼んでいる。
やった、母さんだ! 母さんが居る!
「母さんー!! 僕だよー!」
「アンタ! こんな時間まで何してたの!! 心配したでしょう!」
僕は母さんにハグされた。息苦しいけど、やっとホッと出来た。女の子はニコリと笑っていた。
「ごめん、母さん。この子が道に迷った僕を導いてくれたんだよ!」
「この子……? 誰のこと?」
僕が瞬きをすると、女の子は消えていた。僕が赤い靴の話をすると、母さんが実家から、一足の靴を出してきた。
なんとそれは、僕が見た赤い靴とそっくりだったんだ! 色褪せてはいるものの、しっかりと赤い色をしていた。
聞けば、ばあちゃん。新しい物好きだったみたい。和服の時代に、ハイカラな洋物の靴を履いていたって言ってた。
幼い頃の姿は、山で出会ったあの子と瓜二つだった!
もしかしたらばあちゃん。子どもの姿になって、僕を助けてくれたのかな? なんて、思うんだ。
これは我が家の秘密の話だよ!
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