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第64話「天下の大悪人、異民族への使者になる(10)」

 ──天芳視点 (数分前)──




「天芳! 小凰! 点穴(てんけつ)だ。壬境族(じんきょうぞく)の兵士たちに君たちの『気』を打ち込め!!」

「「はい!!」」


 秋先生の声を聞いた瞬間、身体が勝手に動いた。


「──『操律指(そうりっし)落葉(らくよう)』!!」


 俺は敵兵に近づき、その手首に触れた。

 教えられた通り、俺の内力──『気』を注ぎ込む。



「──『窮奇(きゅうき)』の技は『毒の()』を注ぎ込むものだ。だったら、君たちの『気』を……薬になる『気』をくれてやれ!!」



 また、秋先生の声が聞こえた。

 その言葉で、秋先生の考えがわかった。


 目の前にいる壬境族の兵士は、異常だ。

 身体中、傷だらけなのに、それでも戦っている。痛みを感じている様子もない。

 おそらく、秋先生の言う『毒の気』が影響しているのだろう。


 だから秋先生は薬になる『気』──『天元(てんげん)の気』を打ち込んでやれと言ったんだ。


『天元の気』には傷を()す力がある。

 だから、冬里(とうり)さんと『天地一身導引』で『気』のやりとりをして、彼女の身体を()やしているんだ。


 じゃあ、毒に侵された敵に、薬となる『天元の気』を注ぎ込んだら?

 癒やすためじゃなくて、応急処置(おうきゅうしょち)として、一気に注入したら?


 その結果は──



「ぎぃあああああああ!! 痛い、痛いぃぃいいいい!!」



 ──俺の『気』を受けた敵兵は、床に倒れ込んだ。

 そのまま泣き叫びながら、のたうちまわる。


 なるほど。

 敵の『毒の気』が、敵兵に痛みを忘れさせてたらしい。

 それを、俺の『天元の気』が打ち消すか、妨害したんだ。


 それで敵兵は痛みの感覚を取り戻して、激痛(げきつう)に苦しんでる。

 全身傷だらけだもんな。痛みを感じなかったから、怪我を気にせず戦ってたんだろうな。その痛みが戻ってきたら、まともに戦えるわけがないよな……。


「でも、ぼくの点穴(てんけつ)って、師兄(しけい)にも冬里さんにも効いたことがないんだけど」

「それは天芳が優しすぎるからだろ?」


 不意に、小凰が俺を見て、言った。


「君は僕や冬里さんに、本気で点穴をほどこすことができなかった。だから効かなかったんじゃないか?」

「…………そんなことないですよ?」

「ふふん。天芳でも、自分のことはわからないんだな」


 小凰はそう言って、笑ってみせた。

 それからすぐに、表情を引き()めて、


「それより、天芳は秋先生のところに行ってくれ。残りの兵士は僕が足止めする」

「いいんですか? 師兄」

「秋先生を守ってくれ。敵が『毒の気』を使うのなら、『天元の気』が強い者が行った方がいい!」

「わかりました!」


 俺と小凰は合図の代わりに、(こぶし)を合わせる。


 すぐさま俺は『五神歩法(ごしんほほう)』で敵兵に接近。足を(ねら)って斬りつける。

 敵は衝撃でバランスを崩す。

 その隙に小凰(しょうおう)が間合いに入り、敵の腕に拳を叩きつける。


「『操律指(そうりっし)衰亡(すいぼう)』!」

「……が、が、ががぁっ!? ぐ、ぐぬぬぬ……があああああっ!!」


 敵兵が絶叫する。

 小凰は痛みで動きが止まった敵兵の後ろに回り込み、背後から『操律指・枯木(かれき)』を打ち込む。両足をしびれさせるその技が、敵兵に傷の痛みを思い出させる。

 血だらけの両足を押さえながら、敵兵は床にうずくまる。


「行け! 天芳!!」

「はい。師兄!」


 俺は『五神歩法』で敵兵の間をすり抜け、秋先生の元へ。

 そして『麒麟角影突(きりんかくえいとつ)』を放ち、秋先生を狙う敵の剣を()らして──


「大丈夫ですか。秋先生」


 俺は、傷ついた秋先生のところに、たどりついたのだった。







 ──天芳視点 (現在)──




「……敵の能力について教える。君なら、奴に対抗できるかもしれない」


 秋先生は身体を起こして、俺の耳元にささやいた。

 先生は、ボロボロだった。

 (ほう)はあちこち裂けてる。両脚には、アザのようなものがある。たぶん、敵の技を受けたんだろう。秋先生でも、『四凶(しきょう)の技』の使い手は倒せなかったのか。


「そして……あれが『四凶の技』の使い手」


 灰色の髪の男性が、じっと、俺を見ていた。

 長身で細身。右手には剣を手にしている。

 奴は左手から強力な遠距離攻撃を放つらしい。秋先生を打ちのめしたのは、その技だ。


「……だけど、あの男は」


 俺は目の前にいる敵から、目を離せなかった。

 身体の震えが止まらない。


『四凶の技・窮奇(きゅうき)』におびえていたからじゃない。

 目の前にいる敵の正体に気づいたからだ。


 灰色の髪。青みがかった目。剣術使い。

 見た目の年齢は30代前半くらい。


 俺は、この男の名前を知っている。


 ゲーム『剣主大乱史伝』の登場キャラ……じゃない。

 あのゲームがスタートしたとき、こいつはすでに(・・・)死んでいる(・・・・・)

 逆に言うと、死んでいることがゲーム内で語られるほどの重要キャラだ。


「名を名乗れ。『四凶(しきょう)の技・窮奇(きゅうき)』の使い手よ」


 俺は剣を構えながら、告げる。

 灰色の髪の男は、つまらなそうに(かぶり)を振って、


「子どもに名乗るような名前はない。死にたくなければ──」

「まぁ、知ってるんだけどな。あんたの名前は介州雀(かいしゅうじゃく)だろ」

「……!?」


 男が俺をにらみつけた。

 俺は続ける。


壬境族(じんきょうぞく)の中に、あんたの名前を知ってる奴がいたんだ。ああ、誰に聞いたかは忘れた。塔の見張り役だったかもしれないし、一騎打(いっきう)ちを見守ってた奴かもしれない。とにかく、壬境族が言ってたんだ。間違いない」


『ネットで聞いた』みたいな言い訳だけど、たぶん、これで通る。

 こいつは壬境族の仲間だからな。ひとりくらい、名前を知ってる者もいるだろ。


「……壬境族も、口が軽いものだな」


 しばらくして、灰色の髪の男は、うなずいた。

 やっぱり、こいつは介州雀で間違いないみたいだ。


 ……できれば、別人であって欲しかったんだけど。


「あんたはなんでこんなことをする? 幼い冬里(とうり)さんを痛めつけて……今また、壬境族と組んで『戊紅族』を襲って……最悪じゃねぇか」

「……ふん」

「あんたにも子どもはいるんだろ? あんたのやってることを知ったら、その子がどう思うか……考えたことはあるのか?」


 ゲームの設定通りなら、こいつには子どもがいる。

 今の俺より少し若いくらい。年齢はたぶん、10歳前後。

 名前は、介鷹月(かいようげつ)

 こいつと同じく灰色の髪で、青みがかった目をした……10年後には好青年になる人物だ。



 介鷹月(かいようげつ)は、ゲーム『剣主大乱史伝』の主人公。

 そして、目の前にいる介州雀(かいしゅうじゃく)は、その父親なんだ。



 ゲーム世界の介鷹月は、ひたすら黄天芳(こうてんほう)を敵視していた。

 そのきっかけは、父親である介州雀が、黄天芳の関わる戦で死んだことにある。


 それはゲーム中、介鷹月のエピソードで語られる。

 介鷹月は『黄天芳さえいなければ、父親は死ぬことはなかった』と語り、仲間たちは彼をなぐさめる。

 主人公と仲間の(きずな)を強める名シーンだ。


 そのシーンで主人公は『天命により、大悪人黄天芳(こうてんほう)()つ』と宣言する。

 それは主人公の決意を表すセリフだと思っていたんだけど、違う。

 主人公が『天命』と口にしたのは、たぶん……それが父親の口癖(くちぐせ)だからだ。


 介州雀は何度も口にしてるからな。『天命』って。

 死んだ父親の言葉なら、主人公が重要なシーンで口にするのもわかるんだ。


 ただ……介州雀(かいしゅうじゃく)が死ぬのは、ゲーム開始の2年前。

 今はゲーム開始の10年前だから、8年の開きがある。

 現在とは状況が違うんだけど──


「あんたはどうして、壬境族と組んだ。なんで『四凶の技・窮奇』なんか使ってるんだ?」


 俺の問いに、介州雀は答えない。

 ただ、じっと俺の(すき)をうかがっている。


 奴の視線を受けながら、俺は必死に身体の震えを抑えていた。


 俺は、これまでずっと『黄天芳破滅(こうてんほうはめつ)エンド』を回避しようとしてきた。

 それなりにうまくやってきたつもりだ。

 内力も身につけたし、『五神歩法(ごしんほほう)』も覚えた。

 このまま『破滅エンド』は回避できるんじゃないかと思ってたのに……。


 介州雀を倒したら、俺は、ゲームの主人公にとって親の(かたき)になってしまう。



 ──主人公である介鷹月(かいようげつ)に目の敵にされて。

 ──彼が英雄軍団を集めて、俺を追い詰めて。

 ──最後に黄天芳()は捕まって、公開処刑される。



 主人公の親の敵になった俺は……そんな破滅の未来に向かうのかもしれない。



化央(かおう)どの。前に出てはいけない! こいつらは私どもが!」

「わかってます。でも、天芳が! 天芳が……」



 不意に、小凰の声が、聞こえた。

 一瞬だけ後ろを見ると、秋先生が祈るような目で俺を見ていた。


 俺の朋友と師匠が、そこにいる。


 目の前にいる介州雀が、動きだす。

 俺は反射的に、『白麟剣(はくりんけん)』を握りしめた。

 そして──



「『潜竜王仰天せんりゅうおうぎょうてん』!!」

「ちぃっ!」



 ガイイィィン!



 俺が振り上げた剣を、介州雀が弾いた。

 反撃が来る。『五神歩法』の玄武(げんぶ)の技で回避する。


「こいつは……介州雀(かいしゅうじゃく)は、俺の敵だ」


 俺は言った。


 ゲームの設定がどうだろうと関係ない。

 こいつは、放置できない。


 奴は数年前に、冬里さんを傷つけた。今、秋先生を殺そうとした。

 壬境族とともに『戊紅族』を襲って、彼らを征服しようとした。


 こいつは間違いなく、俺の敵だ。

 たとえ、ゲームの主人公に憎まれることになったとしても、ここで止めなきゃいけないんだ。


「あんたが誰であろうと、関係ない。あんたはぼくの敵で、ぼくはあんたの敵だ!!」

「面倒な小僧だ! お前は!!」


 介州雀が剣を振る。

 俺は『五神歩法』の『玄武地滑行(げんぶちかっこう)』で回避。下段から剣を振り上げる。

 けれど、避けられる。転がりながら奴の反撃を回避。そのまま『五神剣術』の『玄武幻双打(げんぶかくえいだ)』で、玄武の亀と蛇を()した連続攻撃を繰り出す。


「剣術の心得はあるようだ。だが、甘い!」

「────ぐっ!?」


 衝撃(しょうげき)が来た。

 介州雀の一撃は、重い。受け止めるのが精一杯だ。

 ……それでも、奴はここで止めないと──


「────天芳!!」

「──!?」


 直後、介州雀の真横から小凰が剣を突き出した。

 介州雀は後ろに跳んで、それをかわす。


 俺が振り返ると──壬境族の兵士たちは全員、床にうずくまっていた。

 小凰が点穴をほどこしたらしい。


 だけど、藍河国の兵士たちも、動ける状態じゃない。

 痛みを感じない敵兵は、それほどの脅威(きょうい)だったんだ。


「待たせたね。天芳。あとはこいつだけ──」

「こいつはぼくが斬ります」


 俺は小凰の言葉をさえぎって、言った。


 小凰が介州雀(かいしゅうじゃく)を斬るのはまずい。

 彼女は『剣主大乱史伝』のヒロインだ。主人公の介鷹月と出会う可能性がある。


 ここで小凰が介州雀を斬ったら、彼女は父親の敵として、介鷹月に狙われることになるかもしれない。

 そんな事態は、絶対に避けなきゃいけない。


「ぼくが前に出て戦いますから、師兄(しけい)援護(えんご)だけを──」

「断る! 僕が君にだけ重荷を背負わせるような真似をするものか!」


 小凰の腕が震えてる。

 目の前の相手が強敵だってわかるんだろう。

 それでも小凰は不敵な笑みを浮かべて、叫ぶ。


「僕は君の朋友(ほうゆう)だ。なにがあっても君の側にいる。君の味方でいる。君が破滅するなら一緒に破滅してやる! わかったか!!」


 小凰は問答無用で、そんなことを宣言した。

 ……敵わないな。小凰には。


 覚悟を決めよう。

 ここで小凰に「逃げろ」というのは、彼女への侮辱(ぶじょく)だ。

 小凰が俺の荷物を背負ってくれるなら、俺も小凰の荷物を背負う。


 もしも、小凰が介州雀を倒したら、なんとか説得して、俺が倒したことにしてもらおう。そうすれば、主人公に憎まれるのは、俺だけだ。

 小凰には傷ひとつつけさせない。絶対に。


「わかりました。一緒に戦ってください。師兄」

「ああ。天芳!!」

「……お前たちは危険だ」


 介州雀は剣を構えて、俺たちと向き合う。


「我が子の天命のために、ここで滅ぼす!」


 来る!

 俺と小凰は反射的に回避行動。『五神歩法』で左右に分かれる。


 介州雀の剣が、俺のいた空間を通り過ぎる。

 奴は剣を振った勢いのまま、背後の小凰に蹴りを飛ばす。小凰を狙った連続攻撃か!?

 だったら俺は──


「『五神剣術』──『青竜流転行(せいりゅうるてんこう) (青竜は円を描いて天地を(めぐ)る)』!!」

「──ちっ!」


 がぃぃんっ!!


 介州雀は小凰への攻撃をあきらめて、俺の剣を受け止める。

『青竜流転行』は回転しながら放つ連続攻撃だ。介州雀が剣ではじいたとしても、二度目の攻撃が待っている。素早い攻撃で手数を増やして、奴の動きを止める!


 その間に小凰は『朱雀大炎舞(すざくだいえんぶ)』を発動。

 小凰の剣先に、炎が灯る。


「天下に毒をまき散らす者め。翠化央(すいかおう)はお前を許さない!!」

「──『窮奇(きゅうき)』」


 介州雀の目が、小凰を見た。

 奴は俺の剣を避けながら、小凰に向き直る。


 ……こいつ、小凰の動きを読んだのか!?


 奴は腕を伸ばして、小凰の剣先に灯った炎に、指を近づける。

 そして──


「『正道(せいどう)を歩む者の「気」を食らう』──『呑神(どんしん)』」


 小凰の剣が生み出す炎が、奴の指に触れた。

 炎が、消えた。

 小凰の剣の動きが鈍くなる──まるで、『気』を食われたように。


 そのまま、介州雀は小凰に近づく。まずい!


「『白虎大激進(びゃっこだいげきしん)!!』」

「奇妙な動きをするな! 小僧!!」


 剣を構えての突進が──避けられる。

 でも、奴は小凰から離れた。

 そのまま剣を振り上げる。狙いは俺か。だったら──


 ──『獣身導引・猫丸毬如 (猫はマリの類似品)』!!


 俺は猫のように身体を丸めて、地面に転がる。

 介州雀の剣が、空を切った。


 俺はそのまま小凰と合流する。

『猫丸毬如』は、秋先生と点穴(てんけつ)の修行をしたときに使った技だ。


 あのときは一瞬だけ、秋先生の不意を突くことができた。

 介州雀にも通じたみたいだ。よかった……。


「師兄。大丈夫ですか?」

「ああ。だけど身体の力が……ちょっとだけ、抜けたみたいだ」


窮奇(きゅうき)』の技は、敵の『気』を食らう。

 奴は『朱雀大演舞(すざくだいえんぶ)』が放つ『火属性の気』を食らって、炎をかき消したのだろう。食われた『気』はわずかだけど、小凰は少し消耗(しょうもう)してる。

 長期戦に持ち込んで時間稼ぎ……というわけには、いかないみたいだ。


「ここまでだ。小僧ども」


 介州雀(かいしゅうじゃく)が拳を握り、深呼吸する。

 秋先生が言っていた、『破軍掌(はぐんしょう)』の構えだ。


 秋先生は動けない。

 藍河国の兵士たちがなんとか避難させてくれたけど、戦える状態じゃない。

 その藍河国の兵士たちも敵と戦ってボロボロになってる。


 こいつを止められるのは、俺と小凰だけだ。


「聞きなさい! 天芳! 小凰!!」


 不意に、秋先生が(さけ)んだ。


「暴風は大木をなぎ倒す。けれど、やわらかな草をへし折ることはできない!!」

「「はい。師匠!!」」


 その言葉だけで十分だった。


「天芳!」「はい。師兄!!」


 俺と小凰はうなずきあい、手を繋ぐ。

 ふたりで背中合わせになり、樹木のような姿勢を取る。


(おろ)かな少年たちよ、天命の名のもとに滅ぶがいい!!」


 介州雀が、冷えた目で俺たちを見ていた。


「これから起こる大乱(たいらん)により、多くの血が流れる。お前たちの血は、その最初の一滴でしかない」

大乱(たいらん)なんて起きねぇよ」


 俺は答える。


「そんなのはあんたの妄想(もうそう)だ。ぼくが妄想(もうそう)にしてみせる。あんたの子どもに与えられた天命も、すべての悲劇も!!」

「ほざくな小僧! 天命はすべて決まっている!!」


 介州雀が、()えた。



「受けるがいい。『窮奇(きゅうき)破軍掌(はぐんしょう)』!!」



 暴風が、生まれた。

 介州雀の掌から発する巨大な『気』が巨大な圧力となり、俺と小凰に押し寄せる。


 ──熱い。

 これは小凰の『火属性の気』か。

 奴は『朱雀大炎舞』の炎を吸収していたからな。

 そのときの『気』も、この暴風には含まれているのだろう。


 秋先生は言ってた。『破軍掌(はぐんしょう)』は、奴自身の『気』と、奴が他者から奪った『気』をまとめて放つ遠距離攻撃だ、と。

 たとえて言えば、『気』のレーザーを放つようなものだ。

 まともに()らったら吹き飛ばされる。



 だったら、まともに喰らわなければいいだけだ。



「天芳!」

「わかってます!!」


 俺と小凰は『天地一身導引てんちいっしんどういん』の『大樹若芽(たいじゅじゃくが) (大樹の最初の若芽)』のかたちを取る。


 どんな大樹でも、最初は小さな若芽(わかめ)からはじまる。

 頼りない小さな芽は暴風を(・・・)受け流し(・・・・)、生き抜く。

 やがて大樹となり、魂を天に届ける。そんな姿をイメージしている。


 だから──俺と小凰は地面から生えた、小さな草になりきる。


 ──ふたりで、揺れる。

 ──ゆらゆらと。

 ──風に身を伏せる、小さな草のように。



 ──ゆらゆら──ゆら──ゆーらゆらゆらゆらゆらゆら!



 天地と一体になり、あらゆる嵐を受け流す。

 嵐や暴風、圧力が収まるまで、自由自在に揺れ続ける。



 そして──圧力が弱まった瞬間、俺は『白麟剣(はくりんけん)』を手に、飛び出した。



「『五神剣術』──『麒麟角影突(きりんかくえいとつ)』!!」



 今なら届く(・・・・・)

 介州雀は技を放った直後。いわゆる硬直時間だ。回避行動は取れないはず!


「──な!? 『破軍掌(はぐんしょう)』をやり過ごした、だと!?」


 介州雀が目を見開く。


「どうしてそんなことができる。お前はなんなのだ!?」

俺は(・・)あんたの敵だ!!」


『白麟剣』が奴の腕に届く。

 直後、奴は手にしていた剣を捨てた。空いた手を俺の剣に向ける。

 俺の『気』を食うつもりか!?


 今、俺は麒麟(きりん)の技を使っている。『天元の気』を『地属性』に変換して技を放ってる。このままだと食われる。



 だったら──地属性の『気』を『天元(てんげん)()』に戻す!



 できるはずだ。内力のあつかいは、秋先生にさんざん指導してもらったんだから。

窮奇(きゅうき)』が毒なら、『薬』になる『天元の気』をくれてやる。


「『気』を喰らいたいならもっていけ! 介州雀(かいしゅうじゃく)!!」

「小僧がああああああっ!!」


 奴の指先が、俺の剣に近づく。

 でも、関係ない。


『白麟剣』は奴の指を切り裂きながら、『破軍掌(はぐんしょう)』を放った腕を貫く。


 雷光師匠にもらった『白麟剣』は『天元の気』をあつかうための特別製だ。

 だから、『気』がよく通る。

 その『白麟剣』を伝って、『天元の気』は介州雀の内部に入り込み──



「ぐ? が、が!? がはああああああああっ!!」



『四凶の技・窮奇』の使い手──介州雀(かいしゅうじゃく)を、絶叫させたのだった。


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新しいお話を書きはじめました。
「追放された俺がハズレスキル『王位継承権』でチートな王様になるまで 〜俺の臣下になりたくて、異世界の姫君たちがグイグイ来る〜」

あらゆる王位を継承する権利を得られるチートスキル『王位継承権』を持つ主人公が、
異世界の王位を手に入れて、たくさんの姫君と国作りをするお話です。
こちらもあわせて、よろしくお願いします!



― 新着の感想 ―
[良い点] 毎話、楽しく読ませてもらっています。 昔に読んだ五王戦国志を彷彿とさせる、架空東洋史観が面白いです。 [気になる点] ストーリーの肝だとは分かっているのですが 原作の破滅エンドにこだわって…
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