表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/214

第152話「雷光と玄秋翼、盗賊退治に向かう(2)」

 ──数分後──




「見張りたちの証言によれば、魃怪(ばっかい)はこの森にいるようだ」

「本命はこちらでしたか」


 雷光(らいこう)玄秋翼(げんしゅうよく)は森の中を走っていた。


 見張り役の男たちは、素直に自供(じきょう)した。

 だが、彼らは(した)()だ。組織のすべてを知っているわけではない。

 有用そうな情報は4つだけ。


 ──盗賊団には『首領』と呼ばれる男性と、『指導者』と呼ばれる女性がいる。

 ──指導者は、雷光が知る魃怪(ばっかい)特徴(とくちょう)が一致している。

 ──武術を使えるのは、首領と指導者を含めて7名。

 ──その他の十数名は、ただの盗賊(とうぞく)


 それが、見張りたちから得られた情報だった。

 雷光と玄秋翼にとっては、十分だ。


 雷光たちは東郭(とうかく)から数十名の兵士を連れてきている。

 彼らは森を囲むように配置されている。


 雷光たちが見張りを無力化したのは、兵士たちの動きをさとられないようにするためだ。

 だから雷光は『五神歩法(ごしんほほう)』を使い、樹の上にいた見張りを無力化した。

 地上に配置されていた見張りは玄秋翼(げんしゅうよく)点穴(てんけつ)で動きを封じた。


 それが(こう)(そう)したのだろう。今のところ、敵に動きはない。

 そして、すでに兵士たちは森を包囲している。


 兵士たちにとって今回の作戦は『太子狼炎(たいしろうえん)にいいところを見せる機会』だ。

 士気は高い。兵士たちは順調に包囲網(ほういもう)を作り上げている。


 兵士の指揮は、防衛隊長の李灰(りかい)が担当している。

 雷光と玄秋翼の役目は、武術家たちの相手をすることだ。


「作戦を考えたのは天芳(てんほう)と……碧寧(へきねい)という武官だったね」


 森を走りながら、雷光がつぶやく。


「私が『五神歩法』で敵を撹乱(かくらん)し、武術使い引きつける。その後で兵士たちが盗賊を倒すのだったね」

「はい。私は姉弟子の背中を守るのが役目です」

「それにしても……東郭(とうかく)の町にも人物はいるものだね」


 碧寧(へきねい)は天芳が信頼する武官だ。

 弟子が信じる人物の提案なら信じられる。それが雷光の判断だった。


 だから──


「『五神歩法(ごしんほほう)』──『潜竜王仰天せんりゅうおうぎょうてん』」


 雷光は『五神歩法』の跳躍技(ちょうやくわざ)で、空中から敵に襲いかかる。

 空中からの攻撃を受け、盗賊たちは倒れ伏す。


 盗賊たちが雷光の存在に気づく。だが、遅い。

『五神歩法』の行動範囲は恐ろしく広い。

 盗賊たちが弓を構えたとき、すでに雷光は彼らのふところに入り込んでいる。


「な、なんだこいつ!」

「首領と似た技を……いや、首領よりも速い!?」


 盗賊たちの言葉に、雷光は不敵な笑みを浮かべる。


「まだ本調子じゃないんだけどね。それじゃ『朱雀大炎舞(すざくだいえんぶ)』」


 朱雀をかたどった回転切りが、盗賊たちを叩き伏せる。

 直後、甲高(かんだか)い笛の音が鳴り響いた。

 敵の本隊が侵入者に気づいたらしい。


 こうなることは予想済みだ。

 雷光たちの目的は、武術家たちを引きずり出すことなのだから。


「それじゃ、本命が出てくるまで盗賊たちの相手をしようか」


 雷光は再び走り出す。

 直後、彼女がいた場所に矢が突き立つ。弓兵だ。


 構わず雷光は盗賊を狩りに向かう。

 気配を殺せない弓兵など二流だ。矢を避けるのは難しくない。


 その間に、玄秋翼が弓兵を処理してくれるだろう。


「──な、なんだお前は!? がっ。か、身体が……」


 どさり、と音がした。

 木々の向こうで弓兵が倒れ、玄秋翼がうなずくのが見えた。


 ──雷光が敵陣を駆け回り、注意を引く。

 ──雷光を狙う敵は、玄秋翼が倒す。

 

 それを続けていれば、いずれ『裏五神』の武術家が出てくるはずだ。


「翼妹には迷惑をかけっぱなしだ。これではどちらが姉弟子かわからないな!」


 雷光は次々に盗賊(とうぞく)を斬り伏せていく。

 致命傷(ちめいしょう)は与えていない。

 彼らからは東郭の不正についての証言を得る必要がある。

 その情報は、太子狼炎の役に立つはずだ。


「殺さないよ。君たちには、組織の親玉を呼び寄せてもらわなければいけないからね」

「「「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」」」


 倒された盗賊たちは、助けを求めてさけんでいる。

 その声を『裏五神』の首領や武術家たちは、無視できない。


『裏五神』が盗賊たちを従えているのは、彼らが強いからだ。

 盗賊たちを見捨てることは、自分たちの強さを否定することにもつながる。

 それだけではない。盗賊たちが東郭に連行されたら、『裏五神』が部下を見捨てたという事実は、国中に広まる。『裏五神』の名は地に落ちるだろう。

 そうなれば、彼らに従う者たちはいなくなるのだ。


 それを避けるためにも『裏五神』は、雷光に立ち向かう必要があるのだった。


「『強さ』だけで人と繋がっている者の弱点だね。義や信頼で(つな)がっている者たちなら、こうはいかないのだけど」


 例えば、天芳(てんほう)が強敵に襲われたらどうなるだろう? 仲間が誰かに狙われていて、巻き添えになった天芳が、強敵と戦うことになったら?


 そのときは──


「天芳は助けを呼ばずに、自分で敵を食い止めようとするだろう。そんな彼を、みんなでよってたかって逃がそうとするだろうね」


 小凰(しょうおう)なら言うだろう。『来るな。ここは僕に任せて逃げろ』と。

 雷光もそうだ。自分が犠牲(ぎせい)になっても天芳を救おうとする。

 その結果、力を合わせて戦うことになるのだろう。


「それが義と信頼で繋がっている者の強さだ。強さだけで繋がっている者は、そのような者には敵わない。だけど盗賊たちに、それはわからないだろうね」


 そんなことを考えながら、雷光は立ち止まる。


「さて……そろそろいいかな」


 かすかな足音が聞こえる。

『五神歩法』の使い手が近づいてきているのだ。

 ようやく本命が来たことを確認して、雷光は深呼吸する。


 そして、声に内力をこめて、叫ぶ。


仰雲師匠(ぎょううんししょう)の一番弟子である雷光が参上した! 仰雲師匠と同門(どうもん)である魃怪(ばっかい)どのはおられるだろうか!? おられるなら、姿を見せていただきたい!!」


 雷光は続ける。


「我が師と魃怪どのの事情は聞いている! 師匠になりかわり、この雷光が魃怪どのと話がしたい!! 武術家としての誇りがあるなら、姿をお見せください、魃怪どの!!」


 森の木々を震わせるように、雷光は声をあげたのだった。

 



 次回、第153話は、明日か明後日くらいに更新する予定です。


 書籍版「天下の大悪人」は、ただいま発売中です!

 もきゅ先生が描かれた星怜のイラストがめじるしです。

 書き下ろしも追加していますので、ぜひ、読んでみてください!


(特設サイトもあります。

「活動報告」にリンクを記載していますので、アクセスしてみてください。

 書き下ろしのSSも掲載されています)






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しいお話を書きはじめました。
「追放された俺がハズレスキル『王位継承権』でチートな王様になるまで 〜俺の臣下になりたくて、異世界の姫君たちがグイグイ来る〜」

あらゆる王位を継承する権利を得られるチートスキル『王位継承権』を持つ主人公が、
異世界の王位を手に入れて、たくさんの姫君と国作りをするお話です。
こちらもあわせて、よろしくお願いします!



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ