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第10話「天下の大悪人、妹を探す」

「なんだこれ。祭りの人出か!?」


 町は人であふれていた。

 数日後に、国王陛下の誕生日を祝う祭りがある。

 そのせいで、人が集まってきてるんだ。


 北臨(ほくりん)だけじゃない。たぶん、近くの町や村からも人が来ている。

 だから見通しが悪すぎる。背伸びしても、まわりが全然見えない。

 それに……人が多すぎて……走ることもできない。


 でも、星怜(せいれい)の銀色の髪は目立つ。見かけた人もいるはずだ。

 たとえば背の高い人、見晴らしのいい場所にいる人なら……。


「……あれか」


 広場に、馬車が停まっていた。

 町の様子を見に来た貴人の馬車だ。


 この世界の馬車は座席に車輪をくっつけた、いわゆるチャリオットだ。

 座席は高い位置にある。

 そこに座っている人なら、星怜を見ているかもしれない。


 馬車に刻まれた紋章(もんしょう)が見える。

 あれは……王弟殿下の馬車だ。


 王弟の名前は藍伯勝(あいはくしょう)。またの名を燎原君(りょうげんくん)

『剣主大乱史伝』に登場するキャラのひとりで、主人公の援助者だ。


 この世界は封建社会(ほうけんしゃかい)だから、許可なく貴族に話しかけるのは無礼にあたる。ぶっちゃけ、()り殺されても文句は言えない。


 だけどゲームに登場する燎原君は優しい、仁徳のある人だ。

 だから、殺されることはない。たぶん。

 もしかしたら──力を借りられるかもしれない。


 星怜がさらわれたことは……『黄天芳破滅エンド』に関係している可能性がある。

 このまま彼女を取り戻せなかったら、俺はゲームの通りに、破滅するのかもしれない。

 だったら……ここで無礼をとがめられて、斬り殺されたとしても……たいした違いはないんだ。


 無茶なのはわかってる。

 でも、できることは、なんでもやってみるしかない。



燎原君(りょうげんくん)にお願いがございます!!」



 俺は馬車の横に立ち、叫んだ。

 護衛の者が剣に手を掛けるまえに、平伏(へいふく)する。


「ぼくは『飛熊将軍(ひゆうしょうぐん)黄英深(こうえいしん)の次男、黄天芳(こうてんほう)と申します! さらわれた義妹を探しております!」


「無礼者!」

「王弟殿下の馬車と知っての狼藉(ろうぜき)か!?」

「引っ捕らえよ! 子どもといえど容赦(ようしゃ)は──」



「構わぬ! 聞こう。少年よ、続けるがいい」



 馬車の上から声が返って来る。

 力強い──けれど、優しい声だった。


「義妹の名前は星怜(せいれい)と申します。ぼくよりも小柄な、銀色の髪の少女です。桜色の髪飾りをつけていて、青色の(ほう)をまとっております。彼女は叔父を名乗る男に連れ去られました! このことは父と兄も知っております! ぼくは妹を探しに来たのですが、この人混みでは見つけ出すことが困難です。馬車の上にいらっしゃる方々なら、義妹の姿をごらんになっているのではないかと思い、非礼と知りながら、声をかけさせていただきました!!」


 俺は一気に叫んで、地面に額をこすりつける。


(ばつ)は後でいくらでも受けます。どうか、お力をお貸しいただけないでしょうか!!」

「顔を上げよ、少年。その義侠心(ぎきょうしん)に敬意を表する」


 言われた通りに顔を上げる。

 馬車に乗った男性──燎原君は、笑っていた。


 年齢は……ゲーム開始時には50代後半だったから、今は40代。

 年齢相応に髪は白髪交じりだ。けれど肌つやは良く、眼には力がある。


 燎原君は目を細めて、俺を見て、


「『飛熊将軍』は、藍河国を守る盾でもある。そのご子息の依頼を断ることがあろうか。(ばつ)を与えるなどあり得ぬ」

「ありがとうございます!」

「君の義妹を見たものがいるかどうかだが……うむ。そうか」


 燎原君は振り返り、同乗している者たちと言葉を交わす。

 それから、すぐに俺の方を向いて、


頭巾(ずきん)を被った少女が、男と一緒に路地へ入っていくのを見た者がいる。頭巾からは、銀色の髪がこぼれていたそうだ。あちらの路地の方だ」

「ありがとうございました! 後ほどお礼にうかがいます!!」


 俺は一礼して、路地に向かって走り出す。


 今は星怜を助けるのが最優先だ。

 なのに……祭りのせいで人が多い。

 走るどころか、まっすぐ歩くこともできない。

 星怜が連れ去られたのはかなり前だ。このままじゃ追いつけない。


 だったら──


「『獣身導引(じゅうしんどういん)』。蛇のかたち──『狭地進蛇 (蛇は狭い場所が好き)』!!」


 背骨をゆるめる。全身の関節を、ゆるやかにする。まるで、蛇のように。

 導引でずっとやってきたことだ。さっきもできた。

 全身をゆるめて、蛇のようにすれば──



 しゅるん。



 俺は人混みの隙間(すきま)に入り込み、進んでいく。

 そのまま、燎原君が指さしていた路地へ。

 人混みを抜けたら、あとは全力で走るだけだ。


 どこにいるんだ。星怜。

 なんで星怜の身内が、彼女をさらったりするんだ?


 この世界は、どうして星怜にばっかり辛くあたるんだよ!

 星怜は家族を亡くして、でも、やっと元気になってきたところなのに。どうしてこんなことになるんだ? どうして、星怜を静かに暮らさせてやらない!?


「──取り戻す」


 絶縁された叔父なんかに、星怜は渡さない。

 どうしても星怜がついていくというなら、理由を聞いてからだ。

 わけもわからず星怜が消えて……破滅フラグに怯えて生きるなんてまっぴらなんだよ。俺は。


 そうして俺は、路地を走り続けるのだった。









次回、第11話は、今日の夕方くらいに更新する予定です。



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新しいお話を書きはじめました。
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