敗北
「おい牛乳ザイフ! 早くステーキ買ってこいよ!」
「えーずるい~、行くならあーしのも買ってきてー。あ、ちゃんとサラダも買ってきてねー、肉だけじゃお肌荒れちゃうからぁ」
「わかった……」
「はぁ? 分かったじゃなくて分かりましただろうが!」
「いっ……!」
声を荒らげ、俺をこれ見よがしに蹴り飛ばすのはボンボン坊ちゃんのシュナイダー。それに同調するように俺の頭を踏みつけ、早く行けよと嘲るローリエント。
「わ、分かりました。行ってきます……」
「おう! なるべく早く頼むぜー」
そう言ってペコペコしながら俺は小走りでその場を後にする。
「ふざけんな……」
俺はこの二人には特に抗えない。
入学早々親の権力万振りして生徒どころか先生まで下僕とほざくこいつらには……。
「そもそも親が凄いだけでお前らには何もないだろ!!!」
と言いたいところだが。
「顔も整い、頭脳明晰、運動神経も指折り……」
いや普通に大敗北よ。
俺なんて運動神経まぁまぁ、頭脳もまぁまぁ、顔も……うん、まぁまぁって事にしよう。
何もかも劣っている俺に勝ち目なんてない。何せ俺の親なんてシュンスケとかいう超超超がつくほどのキラキラネームぶち込みやがるし、どっからどう見てもいじめ確定演出よ。
親ガチャ失敗の俺には権力のけの字もない。
挙句母さんが死んでから父さんは酒漬け、暴力三昧。
母さんが生きていたらまだ少し違ったのだろうか……。
いやまぁ俺の名前付けたの母さんなんだけどさ……。
「俺の人生ダメダメじゃん……」
やっぱ勝ち目ないよなぁと溜息をつき、駆け足で階段を降りた俺は、さっさと卒業してこの街から出てってやると意気込みながら、今日も購買にステーキを買いに行くのであった。
こんちきしょうがっ!!!
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「ねぇ、シュナイダー」
「んー」
爪の手入れをしているローリエントは、椅子(ふっかふかで金の装飾まみれの)に座るシュナイダーに、なんであいつの事牛乳ザイフって呼ぶの? とノールックで質問をする。
「なんだよローリエント、まだ知らなかったのかぁ? もううちのクラス、いや全生徒知ってると思うけどなぁ」
「え、あーしだけ知らないの? なんかハブられてるみたいで嫌なんですけどー」
「いや、お前がただ聞いてないだけだろ……」
「そうだっけー?」
本当自分のことしか興味無いよなと溜息をつくシュナイダーに、あーしの事はあーしがどうにかしないとダメだからねぇと笑い返すローリエント。
ま、お前らしいけどと声を漏らしながら、シュナイダーは一冊の本を手渡した。
「ん、何これ……大英雄シュンスケ様の成り上がり? いや主人公の名前あいつと同じだし!」
「そーゆーこと、ま、あんなキラキラネームそう滅多にいねぇからすぐ見つかったわ」
「で、牛乳ザイフって言うのは?」
珍しく目を輝かせて興味を持つローリエントにシュナイダーは、給食にミルクって出るだろ? と言葉を続ける。
「んでこっちの世界で言うブルンドの乳がこの本の中では牛とかいう動物の乳でよ、そいつを全身と持ち物全てにかけられて、その格好のままパシリやらされるのが主人公シュンスケなのよ……そしてここからが面白ぇ、なんとその飲み物、時間が経つと死ぬほど臭くなるんだとよぉ!」
「えええ、きったな! もう全身臭いって訳?」
「ご名答。それ以上に惨く虐められてっけどなぁ、ま、うちにもリアルシュンスケが存在するって訳よ」
くくく、と笑いながら机(もっふもふでキラッキラの。いや絶対書きづらいだろそれ)を叩くシュナイダーは、本当あいつサイコーだよな告白は失敗して干されるしよぉ! と涙を浮かべ、もっと遊んでやんねぇとなぁと、ちょっと引き気味のローリエントの隣で今日も悠々自適に学生生活を送るのであった。
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