第2話〜秘めた心〜
キイィ……
アパートのドアが、きしみながら開いた。
「はあ…」
ものの見事になーにんもないこの部屋。
畳三畳にひきっぱなしの布団がひとつ。
これがこの部屋の全て。
あまりの貧乏さに、悲しくなってくる。
……でも、悪いことばかりかと言われれば、そうではないのだ。
「……寝ようか。暇だし」
「そ、そうね。」
起きててもおなかがすくだけ(食事は一日昼食のみ)なので、私たちの就寝は早い。
帰ってすぐ、私たちは寝る。
「……じ、じゃあ先に寝てて。私、準備あるから。」
「なんの準備?」
そんなの、ルウに言えるわけがない。
「……すぐ済むわ。」
……いつ襲われてもいいように、体と服を水の魔法で洗っておこう、なんて。
「……お、お邪魔しまー……す」
私は体と服を洗い、火の魔法でさっと乾かすと、すぐに布団に入ろうとする。
この瞬間がいつもドキドキする。
なにしろ、外見だけは年頃の男の人と同じ布団で寝るのだから。
たぶん、今鏡をみたら、自分の髪の毛とおんなじ赤色に染まった私が映るだろう。
布団の端をゆっくりつまみ、そおっと、そーっと、めくる。
そして、私が入れるぐらい布団を待ちあげて、私は完全に凍りついた。
それに対して、心臓はバクバク言ってる。
だって、目を閉じたルウの顔が、あまりにもきれいだったから。
いつもは私と反対を向いているルウだったが、今日だけは、無防備になった前身を向けている。
……やばい、理性トびそう……
さっきまで襲われる心配をしていたはずなのに、今は襲ってしまわないか心配している。
……完全に立場逆だけど。
本来、私が今感じている感情はルウが感じるべきなのだ。
……でも、ルウは、朴念仁っていうか、ほんとに男としての感情を持ってるのかわからないからなあ……。だって、今までずっと二人で旅してきたのに、私とルウには浮いた話がひとつもない。
普通、物語だと、危機を乗り越えた男女は、恋に落ちるけれど、私たちにはそれがない。
いや、言い方が悪い。
「……ルウ……」
布団に入り、ルウと向かい合わせに寝転がる。狭い布団なので、ほとんど密着している。
ルウを見つめながら、もう一度、考え始める。
ルウには、そのような恋をするということがない。
私?
私はルウにいろいろと助けられてから、もうぞっこんですよ。
ルウしか目に入らない。
……なのに、ルウは私に無関心。
こうやって、同じ布団に入って、そばにいるのに……ルウは。
もう、寝ちゃうんだ。ちょっとぐらいドキドキしてくれてもいいのに。
……はあ……
……寝よ。なんか疲れた。
私は目を閉じた。