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第12話〜新たなる旅路〜

 僕が二時間ほどの散歩を終えて我が家に戻り、リビングへ戻ってきた時、クレアへのプレゼントは完成し、すでにクレアはそれを着ていた。

 サラ、ミリアはクレアの周りで、得意げに立っていた。よほどの自信作なのだろう。


 「どうかな……お父さん」


 クレアの自信なさげな声に僕は、


 「うん、似合ってるよ」


 笑顔を作る。

 丈が足首まである、ジーンズ地のコート。

 ところどころに大きめのポケットがあり、小物入れみたいになっている。

 すそは足首まであるが、それは別にブカブカではなく、クレアの体にぴったり合っている。

 そでは手の甲が少し隠れるぐらい長い。

 えりも高めで、立てれば頬をすっかり隠せるようになっている。

 つまり、このコートは彼女の傷痕を隠すためのものであり、そのための裾、袖、襟の長さなのだろう。


 「ルウ、これね、私頑張ったのよ?」


 サラがクレアのコートを指差して言う。打ち合わせでもしていたのか、そう言うとクレアはコートを広げた。


 「え、えっと……『た、種も仕掛けもございません』」


 決まり文句のようなセリフと共に、クレアは、コートの中に何もないことを僕に見せる。

 コートの中は、クレアのワンピース姿があるだけで、他にはなにもない。

 ……さあ、どうやって驚かせてくれるのかな?


 「えっと……つ、次なんだっけ、お母さん?」


 本人は小声のつもりなのだろうが、思いっきり聞こえてる。どうやらセリフを忘れたようだ。


 「『さあさあよくご覧ください、アッと驚く手品を見せて差し上げましょう』よ」


 サラも小声のつもりなのだろうが、しっかりと聞こえている。


 「え、っと『さあさあよくご覧ください、アッと驚く手品を見せて差し上げましょう』……。これでいいの、お母さん?」


 しどろもどろになりながらも、懸命に言うクレア。


 「ええ。あとは、練習したみたいにすればいいわ」


 ミリアはそんな『内緒話』をほほえましそうに見ている。……たぶん僕もそういう表情だと思う。

 クレアはいったんコートをちゃんと着た。そして懐に手を入れ、しばらくもぞもぞとする。

 何だろう? と興味深々に見えるように僕はクレアを見る。こういうのは先が分かってても驚いてあげるのが筋ってものだろう?


 「えっと。……じゃ、ジャーン!」


 クレアが懐にやった手を抜くと、そこには真っ赤なバラの花束が握られていた。


 「うわあ〜。すごいね、クレア。どうやったの?」


 分からない振りをして、僕は訊く。クレアは訊かれると嬉々とした表情になって、


 「だ〜め! 手品の種は明かさないのがいいの!」


 とからかうように言った。その表情はとても無邪気で、楽しそうだった。

 きっとこれも打ち合わせしていたんだろうな。……サラ、結構いいことするじゃないか。


 「でも、お父さんには特別に教えてあげるね!」


 純粋無垢な女の子そのままの笑顔で、クレアが言った。

 やっぱり、この年頃の子どもは笑顔が一番綺麗だな。陰鬱な顔は似合わない。


 「あのね、これ、お母さんの魔法で、私だけの貯蔵庫につながってて、そこから出したの!」


 クレアは興奮すると口調が年相応のものになるんだな。あの理性的なしゃべり方、やっぱり無理してるんだろうか。それなら変えないといけないな。


 「そうなんだ、気付かなかったよ。こんなの思いつくなんて、クレアはすごいな」

 「うん! ……でも、この種を教えてくれたのは、お母さんよ。お母さんもほめてあげてね」


 かと思ったのだが、ところどころに理性的なしゃべり方の片燐が見てとれるので、無理している、というわけではなさそうだ。


 「そうなんだ。よく頑張ったね、サラ」


 僕がそうほめると、サラは顔を少し赤くした。……風邪でも引いたのかな?


 「えっと、まあ、うん。……このコート、私の魔法貯蔵庫と同じ技術でできてるの。これで、クレアがこの先物資の保管場所に困ることはないわ」


 えっと、たしか魔法貯蔵庫って、東京ドーム10個分(あんまりいい比較対象がなかったので、これにした)ぐらいあったはずだ。それだけの面積を魔法で圧縮して、体の中ないし何かの中に埋め込む。すると、いつでもどこでも貯蔵庫の中身を取り出せるようになる。

 たぶん、僕が知ってる中でも最上級の保存魔法だったような気もする。

 魔法関連は最近(ここ2、30年ほど)サラにまかせっきりだったので、記憶があいまいだ。もっと凄い魔法があったような、なかったような……


 「じゃあ、次は僕のプレゼントだね。……えっと、大したものじゃないんだけど……」


 僕は後ろ手に隠していたプレゼントを渡した。

 サラはそのプレゼントを見て、顔をしかめる。ミリアは何ともいえない表情でそれを見ている。

 ……やっぱり、包装紙なしはまずかったかな?

 包装する時間がなかったので、むき出しのままだが、まあクレアは喜んでくれているみたいだから、別にいいだろう。


 「わあ……これ何、お父さん?」


 クレアはプレゼントを不思議そうに見る。


 「これはね、スタンガンって言うんだよ」 


 僕のプレゼント。それは黒光りするグリップが特徴のスタンガンだった。

 やっぱり、世界は危険だらけだし、クレアはいろいろ体験しているので、不安もあるだろう。危険が迫る度に拳銃を撃たれてはたまらない。

 だから、致死性のない護身用品を買ってきたのだが……


 「……こんなのプレゼントするなんて、あんた正気?」

 「失礼な。僕は十分正気だよ」


 サラはどうやら気に入らないらしい。


 「まあ、お父さんらしいと言えばお父さんらしいですけど。私の時よりはかなりマシですね」


 ミリアも、やっぱりなぜ僕がこれを買ってきたのか理解できないらしい。

 たしか、ミリアにはナイフを買ったんだっけ。ミリアならどう切ればどうなるかが分かるから、間違った使い方はしないと思って買ったんだけど、やっぱりいい顔はしなかったな。なんでみんな分かってくれないんだろう?


 「ありがとう、お父さん! これだと、殺さなくて済むね!」

 

 どうやら僕の親切心が理解できるのは、クレアだけのようだ。


 「大切に使ってね、クレア」

 「うん!」


 クレアは笑顔で言った。よほど嬉しかったのだろう。

 クレアは嬉々とした表情のままさっそくコートにスタンガンをしまった。サラのはいちいち呪文を唱えないといけないが、クレアの場合だとコートにしまうだけで魔法貯蔵庫に物を入れられるので、使い勝手がいい。

 コートがなければ貯蔵庫は意味をなさないのが弱点だけど。


 「……まあ、とにかくこれで準備はそろったね。……さあ、行こうか」


 僕はさっそく、世界を出るために世界の扉を壁に出現させて、ノブに手をかける。


 「ふふっ。こうしてお父さんと旅をするの何千年ぶりでしょうか……」


 回顧するような表情のミリア。


 「さあ、クレア。行きましょうか」

 「うん!」


 すっかり親子っぽくなったサラとクレア。


 「……みんな、行くよ」


 そして、そんな二人を見るのが楽しくて仕方ない僕。

 そんなメンバーで、僕らは世界の扉を開けて、旅に出た。

 クレアはこれが初めての世界移動だ。トラウマにならないように安全な世界を探さないと。 

 世界の特定はミリアの『未来視』に頼ることになるだろうけど……

 まあ、何はともあれ。

















――――――――クレアの旅は、今始まった―――――――





 

はい、今回はこれにて終了です。

 かなりの人数が今回増えたと思います。

 で、思ったんですが、今回から不規則にルウの子供たちわ紹介していきたいと思います。

 物語に登場するキャラが中心になっていくので、よろしくお願いします。

 では、さっそく。

 ミリア・ペンタグラム

 ペンタグラム家の長女。

 長い黒髪に綺麗な茶色の瞳の美しいお姉さん。

 性格は温厚で、才色兼備、文武両道という言葉を体現したかのような人。

 能力は『未来視』で、10年先までの未来が見通せる。

 彼女はこの力を完全に制御していて、見たい時に未来が見れる。

 戦闘の時は基本素手で戦うが、未来を見つつ戦うので、敗北することがほとんどない。というか負ける勝負はしない主義。

 年齢はなんと一万歳以上。数多くいる旅人の中でも五本の指に入るほど長寿の女性。

 これで外見年齢が20歳前後なのだから、不老の魔法のすごさがうかがえる。





 さて、次回は番外編です。ミリア以上に長生きの吸血鬼夫婦のお話です。

 では、また次回。

 

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