第11話〜プレゼント〜
僕は椅子に座りクレアに事情……つまり、僕らが何なのか、これからどこに行くのか、を説明しているところだ。
「……で、僕達は異世界を渡る旅人……ってわけ。それで今日、君は別の世界に行くんだ。僕が守ってあげるから、心配はいらないよ」
僕は、あらかたの説明を終えた。
異世界の存在。
永遠の旅。
老いない体。
様々な世界。
僕らのこと。
いろいろ、話した。
異世界関連のことはあっさりと信じてくれた。これはきっと、子供だからだろう。今までも、子供たちが異世界のことを信じてくれなかったことはなかった。
……状況が状況だったから、信じるしかなかったのだろうけど。
まあ、クレアはだいぶ落ち着いてきたし、正常な判断が下せるだろう。
「……お父さん。私、まだわかんない。異世界とか、本で読んだことはあっても、現実にあることなんて、信じられない」
……子供だからって、もろ手を挙げて信じるかと言えば、そうではないようだ。クレアは本当に精神的に成熟してるなあ。……早熟すぎるとは思うけど。
「……でも、こうやってお父さん……家族ができて、仲良く朝ごはんが食べれるなんてことも……本の中だけのことだったの」
つくづく、かわいそうな子だ。僕こんな不遇な子、ララ以来だな。
ララは、人の心を読みとる能力があった。そのせいで、迫害され、あわや殺される、というところを助けたのだ。たしか彼女が10歳……いや、7、8歳の時だったかな?
ララもクレアも、引き取っていなかったら、今頃どうなっていたことやら……
「だから、きっと異世界も信じれる。……今日異世界に行くんでしょ? だったら嫌でも信じるわ」
「そう。よかった。……じゃあ、いろいろ準備しないとね」
僕は立ち上がり、宣言するように言った。
「……何を?」
サラとクレアが訊く。
「もちろん、準備さ。異世界を渡るための、準備……つまり、クレア、君の身だしなみのことだ」
ぽかんとした顔を僕に向ける二人。クレアは今日驚きっぱなしだな。
ミリアだけが、くすくすと可笑しそうに笑っている。かつての自分を思い出したからだろう。
「さて、クレア、サラさん、始めましょ。……お父さんは少し出掛けていてくださる?」
僕は頷く。
「しばらくしたら帰ってくるよ……じゃあね」
僕はそういうと玄関まで行き、家を出た。
クレアは何の準備かって、訊きたそうだったな。
……そんなの。
君のお祝いのプレゼントに、決まってるじゃないか。
私はミリアお姉ちゃんに採寸をされていた。
「お、お姉ちゃん……どうしてこんなことするの?」
私の体を調べていくミリアお姉ちゃんに、つい私は訊いてしまった。
「それはね、あなたに合った服を作るためよ」
メジャーの目盛りを見ながら、ミリアお姉ちゃんは答えた。
「……どういうこと? 私、服なんて……」
服なんて、私はいらない。今着ているこのワンピースだけで十分だ。
それに私は、こうして住まわせてもらうことだけで十分迷惑なのだ。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないのに。
「服なんて……いらない?」
ミリアお姉ちゃんは計測をいったんやめ、私の手を握り、語りかけるように言った。
「あなたはそれでいいのかもしれないわ。……でも、その服だと傷痕が見えてしまうわ」
私の腕から肩にかけてを、ミリアお姉ちゃんはなぞる。
大小様々な無数の傷痕の上を、ミリアお姉ちゃんの細くて綺麗な指が触れる。
痛くはない。痛くはないけど、むずむずする。あんまり、触られたくない。
そう言おうとした時、ミリアお姉ちゃんは「ごめんね」と言って傷を触るのをやめた。きっと『未来視』を使ったのだろう。
「傷痕、見えちゃだめなの?」
今まで、傷は晒しっぱなしだった。……いけないことだった、のかな?
「見えてはいけない、というわけではないわ。重要なのはあなたは傷を隠したいかどうかよ。どう?」
ミリアお姉ちゃんは微笑みながら訊いてくる。
「……隠したい。これは、弱さの証だから。知られたくない……」
こんな醜いもの、お父さんやお母さんに見せたくない。どこの誰かも知らない人間に知られたくない。
「……そう。じゃあ、新らしく服を作りましょう? 採寸は私がやるけど、作ってくれるのは『お母さん』よ?」
「お母さんが?」
赤髪の、ミリアお姉ちゃんよりは少し子供っぽい(……失礼かな、こんなこと思ってたら)印象の、私のお母さん。
「そうよ。だから、服がいらないなんて悲しいこと言わないで。ね?」
「うん!」
私は、お母さんがどんな服を作ってくれるのかと楽しみにしていた。
さっきまでの申し訳ない気持ちは、すでに吹き飛んでいた。
……迷惑かけちゃうと思うけど、楽しみだな。どんな服作ってくれるんだろう?