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第10話〜平和な目覚め〜

 ……ん……。 


 目が覚めて、昨日と同じようにこの幸せな状況が夢でないことを確認すると、私は安堵のため息をついた。

 ……よかった、夢じゃない。

 隣には、どういうわけかミリアお姉ちゃんがお母さんに変わっている。

 私は気持ち良さそうに眠るお母さんを起こさないようにしながら、ベッドを出た。

 部屋から出ようと、扉の前まで行く。扉は私には大きくて、頭の高さまで手を伸ばさないと届きそうにない。

 そう言えば私、この部屋から出たの初めてだ。

 手をノブに伸ばしながら、考える。

 もしかしたら、この部屋だけが綺麗で、部屋から一歩でたら、今までと変わらない屋敷なんじゃあ……


 「……!」


 かぶりを振って、嫌な想像を吹き飛ばす。そんなわけない。お父さんは信用できる人だ。信用しなきゃ。家族なんだから。

 震える手を必死で伸ばし、扉に手をかけ、開く。


 「……あ」


 すると、開けてきたのは。

 想像してた、いつもと何も変わらない暗く、じめじめした石造りの廊下ではなく、朝の光を目いっぱいにとりこんで、すがすがしい朝を演出している綺麗なリビングだった。

 間取りは広く、足高のテーブルに、4つのイス。木製、というのが安心感を与えてくれる。

 キッチンも一緒になっているので、炊事もしやすそうだ。


 「やあ、お早いお目覚めだね、クレア」


 その綺麗なリビングに、エプロンを着たお父さんがいた。昨日の青の長袖Tシャツと長ズボンの上から、白のエプロンを着ている。


 「おとう……さん?」


 お父さんは、どうやら朝食の準備をしているようだ。そこで、気付く。


 「お、お父さん、ごめんなさい!」

 「……? どうして謝るの?」


 お父さんは、不思議そうに訊く。私は恐る恐る、私の失敗を言う。


 「あ、あの……お父さんより、遅く起きてごめんなさい……朝ごはんの準備しなきゃいけないのに、お父さんにさせて、ごめんなさい……」


 そう私が言うと、お父さんは悲しそうな顔をした。

 ……失望、させちゃったかな。もしかしたら、もういらない子だって、思われちゃったかな。


 「クレア。僕は今、怒っているんだ」


 ほら、やっぱり。ここで、捨てられちゃうのかな? やっと、お姉ちゃんができたところなのに……


 「君が、家族とはどういうものか、完全に勘違いしているから、僕は怒っているんだ」

 「……え?」


 今鏡を見たら、ぽかんと口を開けた私が映るはずだろう。それほどまで。お父さんの言葉は驚きだった。


 「僕より遅く起きてなにがいけないの? 君はまだ疲れが取れていないんだ、もっとゆっくりやすんでいてもいいんだよ。それに、朝食の準備は子供の仕事だと、一体誰が決めたんだい? 僕は料理が趣味だからやっているだけで、役目とか、そんなのは関係ないんだ。……さて、ここでひとつ質問だ。朝、起きて家族にすることは? 謝ることじゃないよね?」


 私は、必死に考える。朝、起きて最初にすること?何だろう?

 ……もしかして……

 私が読んだ本の中では、みんなこう言っていた。


 「お、おはよう……?」


 もし間違っていたらどうしよう。そう思いながら、私は言った。屋敷では私、謝ることしかしてなかったから、何が正しくて何が間違ってるのか分からない。


 「おはよう、クレア」


 でも、お父さんのはにかむような笑顔を見ると、今までが間違っていて、今が正しいのだと、理解できた。

 


     




 ああ、これが家族なんだ、って、実感できた。















 「さて、と。君にはいろいろ教えなきゃいけないことがある」


 サラ、ミリアが起きてきて、家族集まって朝食を済ませたあと、僕はそう切り出した。


 「なに?」


 おっかなびっくりに訊くクレアを見ると、まだ怖がられてるんだな、って嫌が応でも再認識させられる。さっきは尊敬のまなざしで見られたのに……

 実は、僕の娘に男性恐怖症の人は少ない。彼女たちは『男』ではなく『人間』に酷い目にあわされている、と理解しているため、人間恐怖症になっている子はいても、男性恐怖症というのはあまりいない。

 どちらの方が酷いかは僕ではわからないけど、人間恐怖症の場合、対処は楽だ。

 人間の素晴らしさ、優しさを示してあげれば、たいていの子は治る。

 でも、男性恐怖症の場合は、別だった気がする。

 ……『気がする』なんだ。

 つまり、僕は対処の方法をほとんど忘れてしまっているのだ。

 そう迂闊な発言ができない上に、行動も慎まなければいけない。

 だから、細心の注意を払いながら、僕はクレアに言う。


 「僕たちはね、異世界の人間なんだ」


 僕はそう、切り出した。いつも子供たちに事情を話す時は、こうやっていたから、その習慣だった。 

 ぽかんとした顔をするクレア。やっぱり、信じられないかな?

 ……まあ、話を続けよう。








 僕らが『何』なのか、これから『どこ』へ行くのか、ちゃんと言ってあげないと。

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