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第8話〜それから〜

 ……パタン。

 私は静かに、本を閉じた。

 ……ルウ……

 頬が熱い。

 あの時、ルウが助けてくれなかったら、私は今、ここにいない。きっと魚の餌になっていただろう。

 命を救われて、居場所もくれて。これで相手が好みのタイプときた。惚れないわけがない。

 で、それからはもう本を読まなくてもわかるし、大した面白さもないので、読み飛ばしていく。

 そうそう、あれから私はすぐに異世界移動をして、魔法に出会ったんだ。と、いうか異世界を渡る方法そのものが魔法なのだ。

 そして、その多様性と面白さにほれ込んで、猛勉強したんだった。それで、私は晴れて魔法使い。

 ………そう言えば、ルウはなんで魔法使わなくなったんだろう?私が魔法を学ぶ前は、ちゃんと使ってたのに……てか、不老の魔法私にかけたのはルウなのに……

 あとでルウに訊こう。

 んで、魔法を学んだ私は、ルウの旅仲間として、そばにいるわけだ。20年ほど。

 ……一番ショックだったのは、ルウが私を助けて、なおかつ居場所まで作ってくれた理由。

 もしかして私に気があるんじゃないかと期待して訊いてみたところ、


 『……助けた理由? 暇だったから、かな? 一人旅って、想像以上に暇でさ。そろそろちゃんとした仲間が欲しかったんだよ。女の子だったら華やかになるしね? ……ほっとけない、って理由もちゃんとあるんだよ?』


 女装したらそれだけでヒロイン張っていけそうな顔のやつが言うセリフか? とか思ったなあ。

 ……ああ、そうそう、私の名前のことだった。

 異世界、というのは漢字があるところのほうが少ない。日本語がマイノリティーなのはどこの世界でも変わらない。言語は魔法でなんとかなるが、名前だけはなんともならない。

 『サラ・トウゾラ』ではあまりにダサいので、

 『サラ・イーストスカイ』と名乗るようにしている。かっこいいかどうかはわからないが、響きはいいから気に入っている。名前が名乗り放題なのが旅人の強みね、本当に。

 ……っと、いけない。危うく目的を忘れるところだった。この本のことだ。

 ほとんど完璧に過去を書いてある。なんの目的があってこんなつまらない人生を書いたのかは不明だが、なんだか恐いので、ルウに訊こうとしてたんだった。

 私は椅子から立ち上がると、ルウの姿を探す。

 本棚の続く図書館内をしばらく探すと、ルウの姿があった。


 「あ! お〜い、ルウ……?」


 ルウは、誰かと話している。

 相手は、女の人。大人っぽいたたずまいで、びっくりするぐらいの美人さんだ。つややかな黒髪に、見る者を惑わせるような茶色の瞳。


 「……ふうん。そうなんだ。それはよかった」

 「ええ……本当にありがとうございました。なんとお礼をすればいいか……」

 「ははは、お礼なんかいらないよ。ほとんど趣味みたいなものだしさ。気にしないで、君は君の人生を楽しむんだ。生きるのに疲れたら僕のところにおいで」

 「……はい。いつもありがとうございます……」


 女の人はそう言うと、どこかへ行ってしまった。


 「……あ、サラ」


 ようやく、ルウがこっちに気付いたようだ。私はルウに駆け寄り、


 「……ルウ、誰? あの人」


 詰め寄った。


 「……ああー。聞いてたの?」

 「そりゃもうばっちり。……誰?」


 もう一度、今度は強めに言うと、ルウはやれやれと頭を掻いて、言った。 


 「彼女はミリア。僕が昔一緒に旅してた女性だよ」

 「へえ〜……って!」


 なんなのよそれ! あんな美人がルウのそばにいたなんて知らないわよ! 


 「……どうしたの?」

 「なんでもない! この、朴念仁!」


 どうせ、あのミリアって人にも何にもしなかったに決まってる。心配するだけ無駄、ということだ。


 「……サラ、その本借りたいの? 残念だけど、この図書館は閲覧専門だよ。何日かけてでも読みたいという人のために泊まりの施設まであるんだ。時間をかけてゆっくり読むのが、この図書館の正しい利用のしかただよ」


 へえ……って、そういうのを聞きたいんじゃなくて。


 「この本ね、私の過去が書かれているの。なんだか気味が悪くて……」


 そう言うと、ルウは微笑んだ。


 「大丈夫だよ、サラ。それは『思い出』って言う本なんだ。」

 「……思い出?」


 私はいぶかしげに訊いた。


 「そう。人の過去を瞬時に物語にする高性能ツールだよ。……ただ、欠点が、いや、長所かな? がひとつ」

 「なに?」

 「その本に書かれた過去は、本人しか見れないんだ」


 ……本人しか見れない?


 「……ちょっとまって。これ、本棚にある時点で私の名前が書いてあったわよ? どういうこと?」


 もしかして、やっぱりこれって……『思い出』、じゃない?


 「きっと、長い間過去を書いていなかったから、魔力が溜まってたんだと思う。そこにサラが近づいたから、魔力のパンクを防ぐために過去を書いた……というところかな?」


 ……まあ、筋は通ってるわね。……でも、それじゃあ私の懸念って、全部無駄だったってこと!? ……なんだかどっと疲れた。

 

 「……なんのために使うのよ。本人しか見れないじゃ、あんまし意味ないんじゃない?」


  こういうのは、人の過去を見たい時に使うものだと思うのだが……


 「これはね、名前通り、思い出を思い出すために使われたそうだよ。なんでも、記憶が一過性で長続きしない世界で作られたらしいんだ」

 「……ずいぶん伝聞形が多いのね、行ったことないの?」

 「……行きたいと思うころには、滅びてたから」

 「え……」


 滅びたの? ……でも、それじゃあ……


 「なんで、ここに本があるの?」


 滅びる、とは完全になくなる、ということらしい。本だけがここにあるなんて、あるんだろうか?


 「……それはね、サラ。ここが、『滅びた世界の失われた書物』を蔵書する図書館だからさ」


 ……滅びた世界の、失われた書物? ……ってことは……


 「ここにある本はみんな、滅びた世界のものだって言うの?」

 「そうだよ。ちなみに100平米の50階建てで、部屋中に本を敷き詰めてもまだまだ本は増え続けるらしいよ。……まあ、ここは勝手に成長するから、パンクすることはないけど……」

 「ふ、増え続けるって……」


 つまり、世界が滅び続けてるってこと?じゃあ、『イノベート』の目的、達成されてしまうんじゃ……


 「……でも、大丈夫だよ。滅ぶ一方で、その倍の速さで増えてるから」

 「そうなの?」

 「そうだよ。世界は簡単に分化するからね、世界がひとつになるなんてこと、それこそ奇跡でも起きない限り不可能だよ。安心して」


 ……むう、お見通しか。


 「……はあ、なんか疲れた。この本『イノベート』の仕業かと思ったじゃない」


 無駄に警戒して、なんか私バカみたい。


 「……その、『イノベート』のことなんだけどね、いろいろわかったよ」 

 「うそ! ほんと!?」


 私は手を叩いて喜ぶ。だって、得体のしれない敵のことが分かるのだ、嬉しくないはずないだろう。


 「うん。……結構、派手に活動してるね。今分かってるのは、『『イノベート』の構成員は、その全てが頭脳、能力的な面において単身で世界を滅ぼせる人間、およびそれに類するもの』ということと、『その中でもさらに優秀な者は『イノベイター』と呼ばれ、絶大な力を持つ』ということと、『『イノベート』は現在力を持つ者を仲間に引き入れようとしている』ということさ」


 ……謎が増えた気がするのは私だけ?


 「『イノベイター』って、どれくらい強いの?」


 まずはそれから、だ。今のところ危険、というか身近なのはこのことな気がする。


 「……僕とサラが本気を出してようやく、ってところかな?」

 「……強すぎじゃない?」

 「まあね。リンク達でもてこずるんだ、僕たちが簡単に勝てるわけないだろう?」


 確かに……リンクとエリアにてこずらせる、ってどんな化け物よ。


 「……じゃあ、次」


 私は、ルウに質問をぶつけていく。生き残るには、情報がけっこう重要なのだ。

 

 

では、引き続きキャラ紹介を。

 リンク・ソル・ジェイド

 異世界を飛び回り、依頼をこなす『異界士』の外見16歳の少年。

 全世界でも有数の実力を持つ吸血鬼であり、永遠に死ねない不老不死の体を持つ。

 しかし、ほとんどの弱点は克服しているため、傍目からでは普通の人と変わらない。

 いつも全身を包む黒マントを羽織っていて、それが吸血鬼っぽさを際立たせている。

 得意武器は長剣。得意戦法は、血の力を使って、様々な戦いを展開すること。

 妻のエリアのことが大好きで、結婚して何億年と経っているのにもかかわらず、いまだにいちゃいちゃしている。

 不老不死のため、何よりも退屈を嫌い、暇を紛らわすためにいろいろと画策する。遊び感覚で世界を滅ぼすことだって何回かあったとかなかったとか……。

 元日本人なので、髪の色は黒、瞳の色も同じく。

 好きな色は青(エリアの髪の色)と赤(血の色)。

 嫌いな色は、茶(乾いた血の色)。

 好きなものはエリアで、嫌いなものは退屈と暇。

 

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