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第1話〜湖の見える場所で〜

 扉を開いて中に入ると、一面に緑と湖が広がっていた。


 「うわぁ~きれいな湖だね、ルウ。」

 「……そうかな? 飲み水は確保できそうだけれど……」

 

 空は雲ひとつない青空。水面は日の光を浴びて、キラキラと輝いている。湖そのものもあるのだろうが、それらも相まって湖を美しく見せるのだろう。でも、それでも僕はこの美しさに何かひっかかりを覚えずにはいられなかった。


 「もう、ルウはいっつも機能性ばっかり追求して! 少しは景色を楽しもう、とかないの?」

 「……あるよ。でもね、サラ。でも、なんかちょっと……ひっかかるんだ」

 「ひっかかるって何がよ」

 「造られたっぽい感じがして」

 「この世のものはすべからく神が造られたものである、っていうでしょ?」

 「そういう意味の造られてるじゃないよ……」

 

 僕はあきれ気味に言った。


 「……わ、わかってるわよそんなこと。でもさ、このまま普通に造られた景色を楽しむのも、いいとは思わない? 飲み水だって手に入るし一石二鳥よ!」

 

 サラはほんとうにポジティブだなあ。僕にはできそうもないや。

 

「まあ、それにはおおむね賛成だけど、一応警戒はしとかなきゃ、でしょ?」

「そりゃそうだけど、なにに警戒すんのよ。こ~んなに見晴らしいいのに、不意をうたれるなんてこと、ありえないわよ」


 まあ、そうだけどさ……。


 「さ、ルウ、わかったらとっととついてきて! 水汲むわよ!」


 サラは言いながら、湖に向かって歩き始める。


 「う~ん。なにか釈然としないなあ」


 僕はしぶしぶながら、サラのあとに続いた。


 





 湖のそばまで着くと、僕はさらに警戒を強めた。


 「ルウ、警戒しすぎ。いくらなんでもこんなにきれいなところで血なまぐさいことやらかそうって連中はいないわよ」

 「……その説には大いに意義があるよ?」


 なんだその理由。きれいだからって僕たちを襲わないなんて、あるわけがない。


 「何よ。なんか文句でもあんの?」

 「あるよ。ここがきれいなのは認めるけど、それがここで血なまぐさいことしないって理由にはならないよ」

 「……もしかしたらこの世界の人たちはここを尊重してるかもしれないじゃない」

 「あのね、もしそうだったとしてもいきなり僕たちを襲おうって思ってる輩がそんなの気にするわけが……、あ。なんで釈然としないのかわかった」

 「え、急に何?」


 サラとの会話でようやく、僕はさっきまでの違和感の正体がわかった。


 「ここ、人の姿っていうか、街の姿っていうか、そういう生活感がかけらもないんだ!」

 「……はい?」


 サラはあからさまにいぶかしげな顔をしている。


 「ここ、水汲み場とか、洗濯場とかないでしょ? しかも川もない」

 「川がなかったらなんかあるの?」

 「水が濁っちゃうし、こんなに大きくて広い湖はできないはずだよ」

 「……たしかに、その点は変ね」

 「でしょ?」

 「……ま、きれいだからいいじゃない」


 ええ? それですましちゃう?


 「というかルウ! 水汲み手伝ってよ」

 「え?」

 

 そういえば、さっきからサラ湖に手をつけて何してるんだろうな……って思ってたけど、水汲もうとしてたんだ。それも魔法で。


 「あ、……それは……」


 僕はとある理由によって魔法を使うのを避けてるんだけど……。


 「なんで渋るのよ? ていうかルウ、あんた私に旅の必需品握られて、なんにも警戒しないわけ? 湖には警戒するのに?」

 「あ、えっと……」


 うーん、まいったな……。

 水汲み、食糧などの運搬はサラの魔法に任せっぱなしなのだ。よく考えたら確かに、少し任せすぎたかも……。


 「……ルウ~? あんた、私にまかせっきりで何にも思わないの? ルウだって魔法使えるのに? まさかもう魔力切れ? ……ふふん。……そっか、そうなんだ~」

 「だ、だったらなに?」

 

 なんか嫌な予感がするなぁ……。


 「ふふん。感謝しなさい。私が善意で水を運んであげてなきゃ、あんた今頃干からびてたかもね?」

 「あ~うん、そうかも」

 「そうかも? そんなんでいいの? いいと思うの?」

 

 意気揚々と言うサラ。なんかすっごく楽しそう。

 

 「あーうん。ありがとうね。」

 「なによ!その取り繕ったようなお礼は!」

 「でも、お礼はお礼だよ。ま、まあとにかく、日が暮れるまでには集落に着きたいから、早くお願い」

 「……まったく、しかたないわね。そこで見ときなさい」


 サラはそう言うと、水面に手をかざし、呪文を唱え始める。魔力の流れは見えないけど、これでも元魔法使い、魔力を感じることはできる。

 呪文が完成すると、サラの手のひらに水が吸い込まれていく。

 ゴオオ、とうなりをあげて、水がサラの中に入っていく。正確にはサラの中にある魔法貯蔵庫の中に。


 「よしっ。こんなもんでいいかな?」

 「どれくらいの水汲んだの?」

 「ん~だいたい一週間分くらいかな?」


 ……ずいぶん吸い込んだんだね。まあ、いつ水に巡り合えるかどうかわからないこの旅じゃ、水はあって困るということはないから。


 「あ、そうだ。腐らないの?」

 「大丈夫大丈夫。貯蔵庫のなかは時間止まってるからね。時間が進まなきゃ腐らないでしょ?」

 「……相変わらず、魔法はすごいね」


 ほんと、心底感心するよ。


 「よね~! 私たちが旅できるのも、魔法のおかげみたいなもんだし」

 「そうだね」


 僕たちがずっと旅できるのも、魔法…それも『不老』の魔法のおかげ。さっきサラの言った時間を止める魔法の応用なんだけど、まあ、とにかく効き目はある。

 そのおかげで、僕たちの体は成長しない。ずっと、この16歳の姿のままだ。ときどき未発達のこの体に不便を感じる時はあるけども、その代わりに、僕たちに老いはない。

 心臓を突かれたり、首を飛ばされたりすればもちろん死ぬけど、逆に言えば死なない限りは永遠に旅を続けられる。

 

 「水も汲み終わったし、ルウ、どっか人里探そ!」

 「そ……そうだね。」


 僕たちは、人の集落を目指し、歩き始めた。解消したはずの違和感を再び感じながら。

















前回の続きです。

まだまだ無理やりなところもありますが、ゆっくり見ていってください。


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