第7話〜救い、そして芽生える感情〜
……
…………あ
……………ここは……
「あ、目が覚めた?」
誰……?
「……僕? 僕はルウ。ルウ・ペンタグラム」
……ペンタグラム? ……五芒星?
「……へんな名前……」
「そうかな? まあいいや。君はどうして自殺なんかしようとしたんだい?」
……自殺?
「……ああ……それは、私が生きていてはいけない存在だから……?」
ちょっと待って。今こいつのセリフにおかしいところがひとつあったぞ。
「……あっ!」
そうだ、こいつ、『なんで自殺なんかしようとしたんだい?』って訊いたんだ。つまり、私は自殺できていない。生きている!
「……あんたが、私を助けたの……?」
跳び起きて、声の主……ルウと名乗った男を見る。
16歳ぐらいに見える背丈に、顔つき。顔は……ま、私好みの優しそうな顔だ。そのくせ髪は老人のように白い、目は海みたいなブルー。
長袖のTシャツに、長ズボンという、私に負けず劣らずの適当な服装。
「……嫌だった?」
微笑みながら、ルウは言った。彼は私が気を失っている間、介抱していたようだ。彼の服が微かに湿っている。
「ええ。私は罪を犯したの。だから、死ななきゃ」
「罪? 死ななきゃいけないほどの罪? 本当に?」
「…………」
私は無言で、虚空に炎を生みだした。
……これで恐れをなして逃げ出すだろう。
そう思っていたのだが、ルウの反応は意外なものだった。
「……これがなにか?」
「……恐くないの?」
「恐い? なにが?」
「この能力よ! みんな、この能力を見せたら恐がって近寄ってもくれないの。……あなたはどうして、逃げないの?」
今まで、この能力は人に恐れられるものだと思っていた。それを、ルウはあっさりと覆した。
「僕はね。吸血鬼と知り合いなんだ」
「……吸血鬼?」
「そう。血を吸い、闇に溶け込み、不老不死の、吸血鬼だよ」
「……恐い?」
「恐くなんかないよ。気のいい友達だ。……ま、恐れられてはいるけど、いいやつだよ」
吸血鬼、なんてものが実在するのかどうかはさておいて、いったいルウは何が言いたいのだろう?
「リンクに比べたら、君なんてかわいいものだよ。……少しは安心した?」
「……私は罪を犯したの。だから、死なないと……」
なんだか、こいつには言えないこともスラスラ言えてしまう。いつもなら、頑なに拒んで、口を貝ににして黙るのに。
「罪なんてものはね、生きて償うものだよ。死んでも、楽になるだけだ。それは一種の逃げ、だね」
逃げようとしていたの、私は?
「……どっちにしても、私は生きていけないよ。お母さん殺しちゃたし、家焼いちゃったし、いっぱい人殺したし……」
どちらにせよ、私は死ぬ運命なのだ。もうすぐ私を討伐しようする人間が大量に来るはずだ。いくらなんでも、学校ではやりすぎた。さすがに大人は黙っていないだろう。
「……じゃあ、一緒に来るかい?」
私は、そう言ったルウの顔をまじまじと見た。
「な、なに言ってるの? この世界に、もう居場所なんて……」
「ないだろうね。ここはこの町しかない世界だから。……君は確かにこの世界には居場所がない」
「……そうよ。だから死のうと……」
「死ぬ必要はどこにもない。異世界になら、君の居場所はいっぱいある」
……異世界? そんなものがあるわけがない。……それに、あったとしても、私には居場所を作れない。どこへ行っても、私は拒絶される。
「……でもね、もしなかったとしても……」
「……なかったとしても?」
「僕が、君の居場所になる。」
その瞬間、私の心は跳ねた。頬が熱くなり、ドキドキする。
……知らない、私こんな感情知らない!
初めて知った。甘い感情。
これは……私は……
「―――どうする? 生きて、罪を償う? それとも――ここで死ぬ?」
笑顔で手を差し伸べてくるルウに私は。
「……わ、私は……生きる……」
いつのまにか、そう答えていた。
目の前には幸せな人生がある。罪を償いつつ、それでも、今よりは確実に幸せになれる。
なぜか、そう思った。
前回の続きで、キャラ紹介
サラ(東空沙羅)
ルウの旅仲間で、同じく不老。しかしまだ旅人になってから日が浅く、まだ人の範疇の年齢である。
炎を使いこなす能力を持っていて、そのせいで元いた世界では恐れられていた。その能力を制御するのは、フェニックスという疑似人格。
フェニックスはときたま沙羅を誘惑し、破壊へと誘おうとするが、それはなにも悪意からではなく、そうした方が沙羅の中にため込まれた感情が吐き出せるのでは、と思ってのこと。
助けてくれたルウに恋愛感情に近いものを抱き、必死にアプローチするが、今だ相手にされていない。
特殊能力は『火炎を自由に扱える』能力。得意魔法属性は炎。得意技は消えない炎で敵を焼く。
過去では人にいい感情を持っていなかったが、ルウと旅をして考えが変わる。
魔法使いでもあり、様々な魔法を使うことができる。カナヅチ。
髪の色は赤。目の色も同じく。
好きな言葉は『平和』
嫌いな言葉は『殺戮』
好きな食べ物、とくになし
嫌いな食べ物、とくになし




