第6話〜別れの場所〜
「はあ……はあ……」
燃えている。みんなみんな燃えている。
私のことが嫌いだった母さんも、使ったことのない数々の家具も、嫌な思い出しかないこの家も。
火の粉や、炎が私の肌をなめる。でも、炎が私を傷つけることはない。あらゆる炎は私の物。だから、熱くないし、焼けることもない。
「あ……あ……」
お母さんが、まだ呻いている。炎に全身を包まれ、皮膚を焼かれ、ところどころが炭になっているのに、まだ死んでいない。
「……ごめん、お母さん。私、大変なこと、しちゃったね。……すぐ、楽にしてあげる」
炎よ。お母さんを焼いてあげて。痛くないように、苦しまないように。
「あ……サ……ラ……」
ボッ。
一際大きな炎が母さんを包み、母さんを殺した。
母さんは最後に、私の名前を呼んでくれた。それは確実に怨みの声だったけど、それでもいい。
「……お母さん、私もすぐに逝くよ。待っててね」
踵を返し、燃え盛る家を出る。
ある場所を目指して。
私は、人間の屑だ。
ちょっと、ほんのちょっと気を抜いただけで、たくさんの人を殺してしまった。
フェニックスのささやきに耳を貸してしまった。
子供のころ能力を練習した河原で、草地に座り、膝を抱え顔をうずめる。
「……母さん……父さん……」
殺してしまった。私を産んでくれた母親を、育ててくれた父親を、殺してしまった―――!
「……」
いよいよ私はバケモノになってしまった。人を殺して、おめおめと生きていていいわけがない。
『……我ノセイダ。……スマナイ』
(そうよ……あなたが私にあんなこと言わなきゃ、こんなことにはならなかったのよ。……消えて。お願いだから、もう誘惑しないで)
こうやって、責任転嫁しなければ……私は耐えられそうにない。ごめん、フェニックス……
『……分カッタ。シカシ、汝ガ望メバ、我ハ現レル。……イツデモ、望メ』
それきり、声は聞こえなくなった。
……もう、完全に一人きり。
死ぬ準備はできた。
立ち上がり、目の前を流れる川を見る。
流れこそ緩やかだが、泳げない私が死ぬのには十分だろう。
一歩、川に入る。足首まで浸かる。夏真っ盛りだというのに、水は冷たい。一気に飛び込めば、心臓麻痺でも起こってくれるだろうか。
……それもいいかな。苦しい死に方だったら、なんでもいいや。
誰か、私に罰をちょうだい。目いっぱいの苦痛と、死を。
チャプ……
腰が浸かるまで、川の中を進んでいく。この川はかなりは深い。私が死ぬには十分の深さがある。
……ごめんね、お母さん。お父さん。
今まで、辛い思いばかりさせてきてしまった。私が生まれたばっかりに。
あと一歩、踏み出せばもう足はつかない。抵抗できずに、私は溺れ死ぬだろう。
「……さよなら、この町のみんな。もう、怯える必要はないよ」
私が死ねば、みんなの笑顔が増えるはずだ。幸せが増えるはずだ。喜ばしいことだ。
「……あれ?」
水面に波紋が二粒。
「……あれ? お、おかしいな」
それはいくつもいくつも断続して、水面に落ちる。
「……なんで? わ、私は死ななきゃいけないのに……」
それなのに、なんで……
なんで、涙が止まらないの?
私は死ぬべきで、死ねば誰もが喜ぶ存在なのに。……なんで、涙が……
「わ、私……ま、まだ……死にたく……ない……のかな?」
死にたく、ない? どの口が言うのだろう。
両親を殺し、家を焼き、存在自体が罪な私が、それを言うの?
「……だ、だめだ、早く死なないと。決心が鈍る……」
早く死のう。あと一歩踏み出せば、きっと死ねる。
さあ、早く。
「……あ、あれ?」
体が動かない。いや、動くには動く。でも、前に踏み出そうとすると、途端に金縛りに遭ったみたいに動けなくなる。
こ、恐いから……かな?
「早く。早く死ななきゃ……」
一歩。たった一歩が踏み出せない。なんで?恐くなんかない。恐くないはずだ……
でも、それがわかっていても、進めない。
怖気づいたの!? 私は生きていてはいけない生物だって、もう十分わかったでしょ!?
無理やり、水の中を進もうとする。でも、体は言うことを聞いてくれない。
「…………………!!」
それでも凍ろうとする体を動かし、前に進んだ。
すると。
一気に、全身を水が包んだ。
水質は悪く、ここがどこなのか分からなくなる。
口を開けても、空気が入ってくることはなく、代わりに水が入ってきた。
(く、苦しい……!い、息が……)
圧迫されるような息苦しさ。胸に針をさすような痛み。
助かろうと、必死にもがく。けれど、気泡を生むだけに終わった。
いくらもがこうが、体は浮かないし、息はできない。
死ぬしか、ない。
だんだん、視界がかすんでくる。苦痛がなくなって、思考があいまいになってくる。
……ああ……死ぬんだな、私。
それを最後に、私は意識を失った。
――誰か助けて
これより、ご要望のあったキャラのプロフィールを。
ルウ
この物語の主人公。人間ではないと自覚しているが、自分はなんなのか、まではわかっていない。
得意武器は二つの細剣。得意技は特になし。地道に攻めて、地道に勝つ。一対一では強いが物量戦は苦手。
サラの前では優しい人間であろうと努力するが、サラの目がなければとたんに冷徹に。怒ると怖い。
髪の色は白銀。目の色は青。
顔付きは、美少年に入る。
好きな言葉は『優しさ』
好きな色は『白』
嫌いな言葉は特になし。
嫌いな色も特になし。
常に微笑みをたたえている主人公なのにミステリアスな人物。