表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/34

第3話〜沙羅の不死鳥〜

 私はいつものように、両親を怯えさせないようにそっと家に入る。私の全てが恐いのか、視界に入れることすらしてくれない。

 両親はずっと共働きだが、家に帰ってくるのは早い。

 ……幼い私が、できるだけ両親のそばにいたいと、『お願い』したのだ。それが、今にも反映されている。……ただ、それだけ。私の一言のせいで、両親が怯える時間を増やしてしまった。

 

 「……お父さん、お母さん」


 私は自室に入る前、二人に聞こえないように、そっと呼びかけた。

 反応が返ってこないのは、分かりきっていたけれど。

 



 自室に入ると、いよいよ私はすることがなくなる。

 勉強なんかする気が起きないし、能力の開発なんてもっての他だ。これ以上強くなってどうするというのだろう。


 『……何カスルコトハナイノカ?最近呆ケテバカリダゾ?』

 (いいのよ、私はこれで。私が何かしようとしたら、それだけで周りがうるさくなるわ)

 『焼イテミタラ、スッキリスルカモシレナイゾ?全テヲ焼キ尽クシ、一面ヲ荒野ニスレバ分カルコトモアルカモシレナイゾ?』


 時々、フェニックスは私にこういう言葉をささやいてくる。

 (……そんなことしても、虚しさが募るだけだし、とてもバカな行為よ)

 そのたびに、私はこう言う。こうでも言わなければ、乗ってしまいそうだった。

 ……私の願いは、たった一つ。 

 普通の女の子になりたい。能力も、フェニックスもいない普通の女の子に。

 なのに、私はフェニックスを捨てきれない。捨てれば一人になるから、それが怖くて怖くてたまらないのだ。

 (ねえ……フェニックス……私が死ねば、どれだけの人が喜ぶかな……?)

 最近、私は思う。

 私という存在がこの世から消えてしまえば、もう両親は怯えることがなくなるのだろうか?私という人間が骨も残さず消え去ったら、クラスのみんなはもっと笑顔になるのだろうか?


 『……モシ汝ガ死ンダトシテ、ソレデ彼ラノ畏怖ガ消エルカト言エバ、答エハ否、ダ。イクラ現在ノ汝ヲ消シタトシテモ、過去ノ汝ガ消エルコトハナイ。……ダカラ、死ニ逃ゲテモ、何モ変ワリハシナイ。苦シクテモ生キルベキダト、我ハ思ウ。……汝ハドウダ?』


 ……私は……


 「……生きていたいよ、まだ……。だって、恋すらしたことないのよ? 死んでたまるかってのよ」

 私はまだ、死にたくない。死んだほうがマシな存在だとしても、生き続けてやる。

 それがどれほど苦しくても、私は生きる。


 『決意スルノハ結構ダガ……発声シテシマッテイルゾ、大丈夫カ?』

 「あっ……」


 すぐさま周りを見て、今のセリフを聞かれていないか確かめる。

 ……大丈夫、両親には聞かれていないようだ。

 もし私が心にフェニックスを飼っていると知れたら、今度こそ国の研究所か、精神病院行きだ。そんなことにはなりたくない。

 ……国の研究所は、怖いから。

 子供の時、そこでトラウマになるような嫌な思いをして、もう二度と行くもんかと思って、今でもその思いは変わらない。


 『……大丈夫ダ。モシ聞カレテイタトシテモ、焼キ殺セバイイダケダ。』

 (……なんであなたはそんなに攻撃的なの?)


 フェニックスは、私の分身であるはずなのに、私が見たことない情景や、聞いたこともない言葉を知っているし、私では思いつかないような能力の使い方を示す。異常とまではいかないが、かなりの攻撃性、残虐性ももっている。

 私の分身なのに、私が知らない部分がある。

 ……なんだか、それだけで突き放されたような気分になった。















 ……私は、あっけにとられていた。

 なぜなら、私の過去のことが、あまりにも正確に書かれていたからだ。それも、細かい情景から、私の心の動きまで、はっきりと。

 どこで調べたのだろうか。ここまで詳しいと、驚く前に生理的嫌悪感が先駆ける。

 まさか、『イノベート』?

 私の脳裏に、最近知ったある組織の名前がよぎった。

 唯一絶対の世界を作るというわけのわからない理由で、様々な世界を壊して回っている集団、その名も『イノベート』。

 行動理念のみがわかっているだけで、規模、人員、組織体系、その他全てが不明な、謎の組織。

 まさか、あいつらが私の過去を調べつくした?

 恐ろしい予想が私の脳内を一瞬、埋め尽くす。

 ……いや、私の視点だし、私が心に秘めていたことまで調べられるとは思えない。それに、私の過去なんか調べてなんの得になるというのだろう。

 けれどすぐに、否定の言葉は見つかった。

 あの世界のどんな資料をひも解いても、『東空沙羅』の中にいる『フェニックス』という単語は出てこないはずだ。

 あの世界に、心の中まで相談できる人なんて、いなかったから。記録のしようがない。

 なら、どうやってこのことを知れたの? 書き記せたの?

 ……怖い。

 ……でも、まだこの本の全てを知ったわけではない。最後まで読めば、トリックが分かるかも知れない。

 これを読んだら、ルウに相談しよう。ルウならきっと、私を導いてくれる。

 そう思うと、私は再び不思議な本の文字を追い始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ